その眼差しには無邪気な愛を溶けるような甘さを持った熱が、擽るように背中を走った。
彼の手から伝わる愛しさが、気難しい心を優しく解いていく。
「さに〜?」
跳ねるような音符の付いた甘ったるい語尾さえ、この人は愛してくれる。
「なぁに、あるばーん?」
にこっと微笑む彼に、心音がなだらかに上がっていく。
柔らかい陽の光が、彼のまんまるな頬を雪のように白く照らした。
眩しそうに細めた目は、どの角度から見たって美しい。
「綺麗だね」
「?」
きょとんと、不思議そうな顔で見つめられる。
その、うさぎみたいな幼い動きにくすくす笑った。
そんな身勝手も、笑って許してくれる目の前の優しい人。
最初は片想いだったはずなのに、それがもう思い出せないほど愛されて、満たされていた。
「僕のこと好きかって、聞いてばかりの人生だったんだ」
唐突な語り口に、彼はまた眩しそうに目を細めた。
「好きだよ?」
話を聞く気があるのか、ないのか、あるいは適当に流そうとしているのか、全く読めない彼の思考から飛び出したその言葉が面白くて僕は吹き出した。
そんなことは意にも介さないようで、彼はぱちぱちと目を瞬かせた。
「さにーに、出会ってから。ただ、純粋に、人に好きだよって言えるようになったんだ。だって、もうちっとも不安じゃないから。帰ってくれば、全身埋め尽くすような愛をくれる人ができたから」
なかなかポエミーだったかな、と一息に言ってから少し気恥ずかしくなって、そっと目を逸らした。
しん、と、温かい静寂がこだました。
不安になって瞳だけを上に寄越すと、僕の愛しい人は顔を真っ赤に染めていた。
「おにぃ、それかわいいから僕以外の前でしないでね」
口を両手で抑えながらコクコク頷く彼は、やっぱりうさぎと見間違うほどに愛らしい。
「ねぇ、なに照れてるの」
にやっと笑って、抱きついて、そのまま彼の口元の手にキスをした。
その目がまた見開かれて、3回だけ瞬いた。
僕しか開けられないロックが外れた。
簡単に唇を奪われる。
彼の体温が、僕の心を溶かすように鳴らした。
憧れていた幸せが、惚けるほど近くにあって。
僕はただ溺れたくて、詰まるような息ごと彼に委ねた。
秋の香りが、切なさを映した部屋に、
今日も僕らは、ふたりきり。