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    4/9-10 DB 展示②【ルクアロ】

    #DBonly0409

    少年よ、君の手のなかにあるものは ハスマリーの戦況が悪化しているとワールドニュースが報じた。数日前、ハスマリーの情勢は安定しつつありまもなく長きにわたる戦争も終結する見通しであるという明るいニュースが世間を湧かせたばかりであった。
    「武装勢力の最後の抵抗、といったところだろうな」
     武装勢力のなかでも特に過激な一派が追いつめられた末の行動、それは己の命も顧みない、なりふり構わず邪悪な力すべてを以て国と心中しようと云う、まさに正気を失い狂った凶行以外のなにものでもなかった。
    「いつまでテレビにかじりついている、ルーク」
     上司の一喝に体は反応したが全神経は繰り返すニュースの音声に集中し、目の前には、テレビの画面に映った燃えるハスマリーの街が広がっていた。
     アーロン
     その名を呼ばずにはいられない
     アーロン、アーロン、アーロン
     君は今、どうしている?
     ハスマリーの赤い大地に立ち、その背にハスマリーに生きるすべての命を背負って、誰よりも優しいその手には悪を切裂くための鋼鉄の鉤爪、燃える緑の瞳はいつだってハスマリーの未来をみている。爆撃に怯える夜も、寒さと飢えと寂しさに泣く子供もいない、ハスマリーの未来を。君はハスマリーの希望。そう言ったら牙を剥いて噛みついてくる肉食獣みたいな顔をされたけれど、ハスマリーのあの子供たちにとって君はまちがいなく希望であり、ヒーローなんだ。そして、僕にとっても。僕のヒーロー。僕の、アーロン。

     日夜、エリントンに犯罪は絶えない。今、国家警察は長年追いつづけてきた事件をあと少しで解決することが出来るかもしれないという瀬戸際で緊迫した攻防戦をくりかえしていた。国家警察官、ルーク・ウィリアムズもその事件を追うチームの一員だった。脳は一秒たりとも休むことなく身体は瞬時にどんな動きにも反応する、一分の気のゆるみも許されず二十四時間臨戦態勢の緊張を強いられる。だがそんなことなど少しも苦にならない精鋭が揃えられたチームの一員であるルークも完璧に任務を理解し遂行できる警察官だった。ルーク自身も胸を張ってそう言える、それはルークの誇りだった。どんな小さな救いを求める声も聴き逃さない。全力で、護る。倒れたって、何度でも立ち上がる。この職業に就いてから一度だってその信念がゆらいだことはなかった。
     ハスマリーの街が炎のなかで壊れてゆく。その映像が目の前から消えない。頭のなかでずっと名前を呼びつづけている。頭のなかは何度も何度も名前を呼ぶ声でいっぱいで、他にはもう、何も、聴こえない。

     暗い部屋にタブレットの画面が昏い月のようにうかびあがる。部屋は何日ものあいだ人の在た気配のない埃っぽさと生ぬるい空気に満ちていた。静かな空間にタブレットの通信がつながる電子的な音がした。
    「ごきげんよう、ボス、…おや、ひどい顔ですね」
     お仕事お忙しそうですね、もう何日も寝ていらっしゃらないのですか、困りましたねえ云々と、いつもの調子でお説教のような、息子を心配する母親のような小言をチェズレイが滔々とくりかえす。
    「…チェズレイ、ハスマリーへ行きたいんだ」
     軽妙な口調で繰りだされる小言がぴたりと止む。タブレット越しの顔を一目見たとき、いや、もうその前からチェズレイはルークが何を考えているのか、自分へ連絡してきた理由も解っていた。
    「…ハスマリーは今、入国禁止ですよ」
    「チェズレイならなんとかできるだろう、」
    「ハスマリーへ行ってどうするのですか」
     愚門、そう思いながら尋ねたチェズレイ、答えずとももう何もかもチェズレイはお見通しであろうことを解っていたルーク、二人は無言で、タブレット越しに睨み合った。
    「……もう、何日も、電話もまったくつながらないんだ、何度も何度もかけているのに、こんなに何度も名前を呼んでいるのに、返事がないんだ、アーロンの声が聴こえないんだよ、どうしてなんだ、どうして、チェズレイ、」
    「おそらく通信障害が起きているのでしょう、そうでなくとも怪盗殿は今、お忙しいでしょうから」
     的確で無駄のない正解を示してくる声は優しく、けれど水晶ように冷たくルークを刺す。
    「…チェズレイは心配じゃないの、」
     無機質な画面からは体温も鼓動も伝わることはないけれど、瞳の光彩に緻密な精神の機微を数字のように読み解き、その青褪めた額に今、必要なものが何かを知る天才は、その手を握ることも抱きしめることも出来ないことに少し、胸を痛めながら、悠然と微笑んで画面の向こうへと見えない手をさしのべる。
    「…心配する前に、信じていますから、怪盗殿は粗野で乱暴で繊細さの欠片もない野獣ですけれど自分のすべきことを解っていて、それを全力でやりとげる、目のまえのことから逃げださない、そう云う人物だと思っていますので、…おや、ボスは、怪盗殿のことを信じてはいらっしゃらないのですか?」
     信じている。誰よりも。そんなこと知っている。アーロンは自分のやるべきことをかならずやり遂げる、諦めない、逃げない、何があっても、救いを求める手を見捨てはしない、絶対に。それが、僕の相棒。僕の誇らしい相棒だ。…ああ、そうだ、君は、今、闘っている、怒っている。その手でたくさんのものを護ろうとしている。そして、絶対に護る。ハスマリーは炎に焼かれたりなんかしない。だって君がいるから。ハスマリーには君がいる。だから、絶対に大丈夫だ。誰よりも勇敢で頼もしくて、強く優しい、ヒーロー。僕の最高の相棒。そして、僕も…そんな君の相棒として相応しい人間になりたいといつも思っていた。今も、思っている。
    「、…ごめん、チェズレイ、ちょっと、…どうして、こんな大切なことを忘れてしまいそうになっていたんだろう、」
     そう、君の相棒である僕は、今、このエリントンでやるべきことがある。僕が護りたいものは、今、ここに、ある。
    「栄養バランスのとれた食事や十分な睡眠が足りませんと心身の正常を保つことが困難になりますからねえ、人間とはどうにも不便な生物ですよ、ちゃんと私の送った野菜を食べて下さいね」
    「はは、母親に叱られているみたいだな、…うん、ごめんなさい、チェズレイ、そして…ありがとう」
    「…私がボスの母親でしたらボスはこんな良い子には育たなかったでしょうねえ、」
    「そんなことないよ、最高の母親だったと思うな!」
     それはちょっと嬉しくはありませんねと、チェズレイが調律の完璧なピアノで弾いたような声で笑うと、ルークも忘れていた笑い方をようやく思いだした。
    「まあ、私もただ黙って何もしないわけでもありませんので、…ええ、いざとなったら手段はいくらでもありますからねえ、怪盗殿の一人くらい、なんとかしてみせますよ」
    「なんとかって何だ!?でも…、ありがとう、」
     主の不在だった部屋に何日振りかで灯りがついた。窓の外にはいつもの夜の街。仰げば空にはいくつもの星。星は誰の頭上にもひとしくきらめく。喧騒の渦にのまれるこの街に生きる人々の空にも、遠い異国の街に生きる人々の空にも、皆、この星の下で今を生きている。

     無口な四角四面の画面が表示した名前に、かなり遅めの昼食だか夕食だかわからない食事の一口目を呑込んだルークが喉をつまらせた。慌ててマグカップを掴む。すっかりぬるくなったコーヒーを一気に流し込み事なきを得たルークはタブレットにしがみついた。
    「アーロン、」
     喉に張りついた声を無理矢理に剥がして口から吐きだしたような声を聴いて、ため息と一緒に呆れた声が返ってきた。
    「…おう、留守電の記録更新しやがって、あいかわらずだなてめぇはよ、」
     聴きたくて聴きたくてたまらなかった声。焦がれてやまないその姿が画面のなかに在る。ルークはタブレットを抱きしめた。タブレットのむこうでアーロンが何かを言っているがよく聞こえない。ルークはタブレットを両手で高く掲げてまっすぐと見た。目の前に、その人が在る。ああ、燃える緑の瞳はこんなにも美しい。
    「…また何かくせぇこと考えてるな、」
    「元気そうで、よかった、」
     また“くせぇ”ことを言いそうになって、でも、何と言っていいのかわからなくてルークはタブレットから聴こえてくる声をいっぱいに聴きながら、その顔を凝、と見つめて微笑った。つられてアーロンも微笑う。
    「てめえも思ったより元気そうだな、」
    「…元気じゃないよ、」
     ふざけて甘えるみたいにそう言ったルークの、目の端ににじむ赤もクリアに映す画質の良さはさすが最新機種だな、そう思いながらアーロンの指がタブレットの縁を、そっと撫でる。
    「あまりにもキャンキャンうるせえから本当にクソドギーがこっちに来るんじゃねえかと思って釘刺しにきたんだわ、“待て”てな、」
    「…行ってもよかった?」
     瞳は夜を駆ける獣のように鋭く、その眼光はまっすぐと、相手を射抜く。
    「こんなとこ来てる場合じゃねえだろうが、てめえは、」
    「…そうだよ、ああ、そうだよ、君のことも大事だけど、すごくすごく大事で大切だけど仕事も大事だよ!僕にしかできないことだ!そんなのあたりまえだ!わかってる!でも、でも…でも…アーロン、アーロン、アーロン…!」
    「…泣くんじゃねえよ、おまわりさんがよ、」
    「泣いてないよ!」
     タブレットの中から飛びだしてきそうな画面いっぱいのルークの顔はもう涙でぐしゃぐしゃで、まるで画面のむこうは海のなかに沈んだ世界のよう。その海のなかへ飛び込んで、波にたゆたう魚たちのようにどこまでもどこまでも一緒に泳いでゆくことができたなら。
     会いたい、会いたくて会いたくてどうしようもない、ルーク
     ふるえる睫毛はハスマリーに吹く熱い風の所為、心臓の鼓動を手で押さえつけて、この心臓の音が聴こえてしまわないように、どうか気づかれないように、アーロンは強く、目を瞑る。
     すべてを捨てて地獄に堕ちても貴方といっしょにいたいと思う。でも、きっと、二人が永遠にはなればなれになることになっても、今、目のまえにある救いを求める手を見捨てることはしないだろう。貴方がたとえ死んでも、この世界がこの手を求める限り、決して逃げはしない。
    「…大好きだよ、アーロン、だから、生きて、また君に会いたいよ、君のことを抱きしめたい」
    「…ああ、抱けよ」
     かならず、抱擁する。髪にふれて、頬に頬をよせて、口吻ける。手も足もきつくからみあってどちらの身体かわからなくなるくらいに溶けてしまうほど、抱擁する。世界の夜が明けたその暁に、約束しよう。


     それから程なくしてハスマリーの武装勢力が鎮圧されたと云うニュースが報じられた。被害は最小限に止められその被害は極わずかなものであったことも伝えられた。ハスマリー国民の団結力と平和を求める強い意志は世界中に称賛され、この国がまもなく恒久的に平和を手にするであろうことを世界の誰もが確信することとなった。何処の国家、勢力ともわからぬ組織の暗躍があったとかなかったとか、そんな噂もあったようだけれども、ハスマリーはハスマリーの平和を願う人々の手で戦争を終結へと導きハスマリーに生きる人々、生活、文化を護ったのだ。ハスマリー国民の諦めないと云う強さ、平和を願うその心がハスマリーを長い夜から救いだした。それはひとつの希望として世界中の人々の光となった。

     戦争をしている国がある。そしてまた別の場所では犯罪が起きている。それは一秒だって止むことなく起こりつづけている。戦争も犯罪もこの世界に絶えることはないだろう。それでも、命を理不尽に奪われることに怒り、国や暮らしや文化を破壊するすべてを許さない。どれだけ無限に奪われ、壊されても、顔を上げて立ちあがることをやめはしない。何ひとつ、諦めない。

     国家警察の総力を挙げて挑んでいたエリントンの事件も解決し、ルークは前の休暇がいつであったかすっかり忘れてしまうくらい久振りの休暇を満喫していた。チェズレイから届いた荷物にはたくさんの野菜や果物がぎっしりとつめ込まれており、そればかりか何処かで見ていたのではないかと云うタイミングで栄養価満点のフルコースが宅配で届いた。吃驚したもののルークは有難くそれらすべてを平らげて、午后の陽光のなかでひとときの午睡を楽しんだ。そして三時になる頃には甘いものへの欲求がおさえられなくなっていたので、チェズレイからは甘いものは程々に、と言いつけられていたことはひとまず忘れることにしてお気に入りのスイーツを買いにコートを掴んで街へと出掛けた。

     青い、あまりにも青い空が眩しくて、そのどこまでもひろがる果てしない青のかがやきにルークは想わずにはいられない。この空の下の何処かにいる、相棒のことを。
     会いたいなあ、僕の…
     呆、と空を眺めながら歩いていたら、すいっと白い鳥が一羽、ルークの頭を飛びこえていった。思わず立ち止まってしまったと同時に、のけ反った後頭部が背後から歩いて来た人にぶつかってしまった。
    「わ、すみません、」
    「…相変わらずマヌケだな、お前はよ、」
     ああ、僕の、最高の相棒。世界が希む、ヒーロー。そして、大好きな大好きな大好きな、僕の恋人!


    おまけ。

    「こんなに早く会えるなんて…へへへ、嬉しいなあ」
    「そうかよ、」
    「…あの、その、約束、…覚えてる?」
    「ああ、」
    「…え、て、ことは、つまり…だ、抱かれにきて、くれた、てこと?!」
    「…そうだよ、」
    その後、一昼夜かけていっぱい抱いたし抱かれました。
    めでたしめでたし!

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    hbnho210

    SPUR MEルクアロ版ワンドロワンライさまよりお題:「バカップル」「たばこ」お借りしました!闇バもでてくる。ルクアロだけどBOND諸君がみんなで仲良く?しています。
    お題:「バカップル」「たばこ」7/16「キスしたときにたばこの味がすると、オトナのキスだな、て感じがするってむかし同級生の女の子が言っていたんだけど」
    「……女とそういう話するのか、意外だな」
    「ハイスクールのときだよ。隣の席の子が付き合いはじめたばかりの年上の彼氏の話をはじめると止まらなくて……それでさ、アーロンはどんな味がした」
    「何」
    「僕とキスをしたとき」
     午后の気怠さのなか、どうでもいい話をしながら、なんとなく唇がふれあって、舌先でつつくように唇を舐めたり、歯で唇をかるく喰んだり、唇と唇をすり合わせて、まるで小鳥が花の蜜を吸うように戯れていた二人は、だんだんとじれったくなってどちらからともなくそのまま深く口吻けをした。そうして白昼堂々、リビングのソファで長い々キスをして、ようやく唇を離したが、離れがたいとばかりに追いかける唇と、舌をのばしてその唇をむかえようとする唇は、いつ果てるともわからぬ情動のまま口吻けをくりかえした。このままではキスだけではすまなくなると思った二人はようやく唇を解いて呼吸を整えた。身体の疼きがおさまってきたそのとき、ルークが意味不明な問答を仕掛けてきた。アーロンは、まだ冷めやらぬ肉体の熱を無理矢理に抑込みながら寝起きでも元気に庭を走りまわる犬のような顔をしたルークの顔をまじまじと見た。
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