お題:「歯磨き」「黙って」6/12 まだ半分寝ぼけたまま歯をみがいているルークのとなりに、やはりまだ目が完全には開ききっていないアーロンが歯ブラシを咥えて欠伸をしながらやってきた。せまい鏡のなかには歯磨きをしているルークとアーロンの、ひどく眠そうな顔がならんで映っている。
「……おはよ、アーロン」
「おう」
眠たそうではあるが歯ブラシの持ち方は正確で、アーロンの歯のみがき方は相変わらず完璧だ。それを見てルークは歯ブラシを持ち直して、背筋を伸ばした。
「アーロン、大丈夫か?」
「……何がだよ」
「夜、けっこう無理させちゃったな、と思って……どこか痛いところとかないか」
そう、言い終わらないうちにアーロンの頭突きがルークのこめかみにヒットした。
「もがっ、ぐ、……あ、あぶないなあ! 歯ブラシ呑込んじゃうところだったぞ」
アーロンは、ふんっ、と鼻を鳴らし肉食獣みたいな眼で鏡を睨みながらがっしがしと歯をみがいている。ルークはこめかみをさすりながら、気を取直して歯磨きのつづきを再開した。
「あ、」
「……てめえは黙って歯もみがけねえのか」
アーロンが既に頭突きの体勢に入っている気配を察知したルークは身構えながら、鏡をチラチラ見たり、視線をアーロンにそっ、と向けてはすぐに反らして、俯きながら、何やらおちつかない様子で歯をみがきながらがじがじと歯ブラシを噛んでいる。
「歯ブラシを噛むんじゃねえ、子供か、てめえは」
「……その、ごめん、……首」
ルークは鏡越しにアーロンの首筋に視線をやった。アーロンの首筋の、付根のあたりが鬱血している。真正面からではよく見えないその位置を、アーロンはぐるりと首を捻って鏡に映した。鬱血は、ほんのすこし暗い色をして皮膚に滲み、そのまわりにはくっきりと歯形がついていた。後ろから、抱きしめてそこに噛みつき、吸いついて、噛んだりしゃぶったりしていた己の行為を思いだしたルークは何ともいえない顔で、鼻の頭まで真っ赤にして歯ブラシを噛みしめた。
「……だから歯ブラシを噛むんじゃねえ、て言ってんだろ」
アーロンは歯ブラシを丁寧に洗って所定の位置に片付けると、コップにたっぷり入れた水で口をゆすいだ。
「こんなもん見て、動揺してんのかよ、……それならもっといいもん、みせてやるよ」
アーロンは不敵に笑うと、ルークにむけてシャツをいきおいよくめくった。むきだしになったアーロンの腹、そして胸がいきなり目のまえに現れて、ルークはまたしても歯ブラシを呑込みそうになった。胸のうえまでめくられたそのシャツの下から現れたのは相変わらずの見事な肢体で、そして、その大きな胸には首筋と同じような鬱血のあとがいくつもあり、瑞々しい腹のいたるところには大小の歯形が付いていた。
「それどうしたんだ?! アーロン!」
「てめぇが付けたんだろうが!!」
そうだった。ルークは昨夜の自分の行為を走馬灯のように思いだしていた。やわらかくゆたかな胸に吸いつき、どこもかしこも美味しくてたまらなくなって何度も舐めたり、思いきりしゃぶったり、した。噛みついても押しもどされそうなほど弾力のある腹の肉があまりにもおいしくて、咥えて、噛んだ。噛むたびに、アーロンが甘く啼くので、その声を聴きたくて、何度も何度も、舐めたり吸ったりしゃぶったり噛んだり、した。
「……ご、ごめんなさい…………」
「今更だ、つってんだよ、」
アーロンはシャツを戻すと、大きな欠伸をひとつして、もう一回寝てくるわ、そう言ってバスルームを出ていこうとしたところで、腕を掴まれた。
「……僕も、一緒に、寝る」
そんな、淫らな夜の跡をみせられて、そうしてすべてを思いだしてしまったら、もう、どうにも、おさまるワケがない、そんな顔をして、アーロンを熱っぽい雄の眼で見るルークに、アーロンは呆れてため息をつきながら、ルークに掴まれた腕が熱くて、そこから身体のおくにつたわってくる甘い疼きに、おさまるワケがないのは自分も同じだと、ヒリつく喉が、鳴った。
「……もう歯もみがいたのにまた寝るのかよ」
「それは君もだろう」
首筋に、そして頬にふれそうなほど近づいてくるルークの遠慮のない唇からは、かすかに、ミントグリーンの匂いがした。
そのときしたセックスがどろどろのぐちゃぐちゃになるほどめちゃくちゃ気持ちよかったのでしばらくはミントグリーンの匂いがするたびに欲情してしまい、ミントグリーン系の歯磨き粉を買うことが出来なくなってしまった二人なのでした。