両片思いの旭郁が両思いになったその後の話 最近、旭が甘い。
みんなといるときは今までどおりなのに、二人きりになると豹変する。フワフワとした空気をまとい、ゆるい笑みを浮かべ、眩しいものをみるかのような視線を注いでくる。
部屋でとなり合って座るときは肩を抱かれ、空いている手は指を絡めるような形で繋がれる。
気持ちを自覚しただけでこんなにも態度が変わるなんてちょっと意外だった。それにベタベタしてくる旭というのも新鮮だ。今までも顔が近いと思うことはたまにあった。でもすぐに離れていくのでそこに他意がないことは分かっていた。
「旭って甘えん坊だったんだね」
今日はとなりではなく後ろから抱きかかえられるような体勢になっている。
胸の辺りに回された腕をポンポンと叩きながらそういうと、ぎゅっと力がこもる。
「別にそういうわけじゃねぇんだけど」
「え? 恋人だからイチャイチャしたい以外の理由があるの?」
照れとは違う歯切れの悪さを感じたので聞いてみると、自己満足みたいなもんだよ、と返される。
「人を散々付き合わせておいてなにそれ?」
「嫌だったのか?」
「イヤじゃない……けど、なんか妙に突き放してくるから」
僕が勝手に浮かれてただけ、みたいな言われ方をすると寂しくなってしまう。
「理由はある。けど、くだらなすぎてカッコ悪い」
「そこまで言ったなら教えてよ」
ペチペチと手の甲を叩いて訴えるとポスッと首の辺りに顔をうずめられる。髪の毛がくすぐったくて身を捩って逃れようとするも、がっちり捕まってしまっていて動けない。
「郁弥が他所で甘える気なんて起きないくらい、俺がベタベタに甘やかしたい、みたいな感じ?」
「なにそれ?」
捉え方によってはなんだかちょっと怖いことを言われているような気もする。
「俺もよくわかんねぇ。たぶん、独占欲ってやつ」
「旭にそんな欲があるんだ……」
薄情なわけではないけど、特定の誰かに固執している所はみたことがないのでびっくりして逆に冷静になってしまった。
「わかった。旭が安心するまで付き合ってあげる」
よしよし、と逆手で頭を撫でてあげると深いため息とともにいっそう強く抱きしめられた。