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    雨野(あまの)

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    雨野(あまの)

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    恋人同士のひふ幻。仲良く散歩してる。かっこいい一二三などいません。かっこいい(?)幻太郎はいます。モブ出てきますが一瞬です。供養。

    #ひふ幻
    hifugen

    駆け出したら止まらない「じゃあ、次回作も期待しているよ」
    「はい、ありがとうございます。失礼します」


    「おっまた〜せ……って誰かと話してた?」
     トイレから戻ってきた一二三が去って行く背中を訝しげに見つめた。くすり、と笑いを一つこぼす。この男は嫉妬深いのだ。
    「ええ。◯◯先生ですよ」
    「◯◯って……あの有名な作家さん!?」
    「まさにそのお方です」
    「ほえ〜。あんな見た目してんだ〜。意外とおっさんじゃん!」
    「こら、聞こえますよ」
     相変わらずな物言いの恋人を嗜める。しかし「メンゴメンゴ」と言いながら太陽のような笑顔を見せられてしまうとついつい許してしまうのは惚れた弱みだろうか。伊弉冉一二三は罪深い人物である。
    「何話してたん?」
    「偶然お会いしたからご挨拶と……小生の書いた本についてですかね」
    「えー!あんな大御所に読んでもらってるとか幻太郎すげぇじゃん!」
    「読んでないと思いますよ」
    「へっ?」
     一二三が出した声が秋の空気にそっと消えてゆく。時は夕間暮れ。この公園で遊んでいた児童たちも既にそれぞれの自宅に帰ったのか、人はここから見える限りでは数名だ。
     誰も見ていないだろう、と判断し右手側にある温もりをぎゅっと握り込む。一二三は目を丸くしたものの、それは一瞬だけですぐに蕩けるような微笑みを浮かべ、呼応するように幻太郎の手を握り返してきた。
     変わらない笑顔がそこにあるだけで俺はいつも救われている。
     二人揃ってゆっくりと歩き出す。乾いた落ち葉がぱりっと鳴る音でさえすぐに静寂に包まれた。秋から冬へと向かうもの寂しさは風情があって嫌いではない。

    「『期待しているよ』『次回作楽しみだな』……そんなことを言っておきながらああいう人たちは小生の小説なんて読んでいないんですよ。いわゆる社交辞令ってやつですね」
    「えー!そんな社交辞令なら言わなきゃ良いじゃんね!」
    「さあ。彼らにとっては挨拶と同じようなものなんでしょう」
    「幻太郎の本、面白いのにね」
     わざとらしく膨らませた頬が滑稽で、ふふっと短い笑みをこぼした。きっと彼は俺を励ますだとか慰めるだとかは計算しておらず、本心から〝本が面白い〟と言ってくれているのだろう。本当に真っ直ぐで純粋な人だ。

    「読みたい方が読んでくだされば結構ですから。それに……」
    「それに?」
    「あの方たちが読んでくれないのは自分の実力不足って思えば別に。それなら、読みたいと思わせるような小説を書けば良いだけなので」
     木々がざわざわと騒ぎ出した。日も落ちてきたせいか風が体を冷やしてゆく。夕飯は何か温かい物をリクエストしよう。おでん、鍋、ポトフ、シチュー……一二三の作った物は例外なくどれも美味しいので悩ましい。などと考えていると相槌にしては遅い「ふぅん」という声が隣から聞こえてきた。
     たまらずくつくつとした笑いが喉の奥から溢れ出た。

    「どうして拗ねているんですか?そんなにあの方の社交辞令が許せなかったですか?」
    「そうじゃねぇけど」
    「けど?」
     母親が子を諭すかのように優しく続きを促す。一二三が地面を見ながらぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
    「何かさ、普段は甘えん坊な幻太郎が……達観したような言い方しててさ……ちょっと、ちょっとだけ寂しいなって……」
    「ふふ、何ですかそれ」
    「だ、だってさぁ〜!俺っち一人だけあの人の言うことにむくれててめっちゃガキみてぇじゃん〜!」
    「あはは。貴方、そんなこと気にするんですねぇ」
    「……普段とは違う姿の幻太郎見られて嬉しくもあり寂しくもありって感じ」
    「なるほど〜」
     頭の中で再び夕飯に思いを巡らせる。
     ど、れ、に、し、よ、う、か、な。よし、シチューで決まりだ。ルゥなどを使わずともこの男にかかればシチューなんてお茶の子さいさいだ。追加で買い足す物もなさそうだ。

     さて、一二三の言うこともまったく理解出来ないわけではない。恋人の新たな面を知ることが出来た場合〝ギャップ〟というものに惹かれて胸がときめくこともあるそうだ。
     だが、変わらないものを望むことだってある。一二三がまさにそうだ。俺の新しい姿を見て、存外にも寂しがり屋の彼は何かが変わってしまうのかも、と恐れているのだろう。
     自身も一二三のいつもと変わらない笑顔に救われている身だから気持ちは分かる。だが……。

    「あのですね、一二三。たしかに貴方の知らない小生の姿はたくさんあると思います。そして、これからもきっと貴方が驚くような姿を見せるでしょう。全てを受け入れてくれ、なんて贅沢なことは言いません。でも……甘えん坊な幻太郎は貴方の前だけですから。それだけは忘れないでくださいね」
     手は繋いだまま、それを口元へ寄せて滑らかな手の甲に優しく口付けを落とす。上目遣いをしながら頬を緩めると一二三が目を白黒とさせた。
    「やっべ。今、めっちゃドキドキしちった。幻太郎、王子様みたいじゃん」
    「ふふふ。言ったでしょう。貴方が驚くような姿を見せる、と」
    「マージで!」
    「この姿を知った今も寂しいですか?」
    「……ううん。幻太郎のおかげで結局どんな姿の幻太郎でも俺っちを好きでいてくれることに変わりはないって分かったから大丈夫」
    「おや、随分と自信過剰ですねぇ」
    「えー!俺っちのこと好きじゃないの!?」
    「さあ?貴方の考えではどうだと思いますか?」
    「ん〜、幻太郎は俺っちのことが好きで好きで大好きでたまらないっ!ってカンジ〜!?」
     何の迷いもないその答えに声を出して笑った。いつもの調子に戻ったようだ。

    「一二三、あの木まで競走しませんか?」
    「ねぇ、今の俺っちが言ったこと無視する!?フツー!」
    「……寒いですし体動かしましょう!」
    「もー!聞いてないしぃ!……どうせ何言ったってやるって流れっしょ?」
    「ふふ。よくお分かりで」
    「言っとくけど俺っち、走るの速いからね〜!」
    「おや、小生だって雪国のウサインボルトと呼ばれたんですよ」
    「うわ〜!嘘くせぇ〜!」
     一二三がストレッチするのに倣い、自身もアキレス腱を伸ばす。職業柄ということもあってか、普段大して動かすことのない体がミシミシと音を立てる。健康のためには運動することも大事とは分かっているがつい怠けてしまうのが現状だ。
     準備体操を終えると二人で騒ぎ立てながらスタートラインを決める。
     さあ、始めよう。

    「じゃあ、いきますよ」
    「おけまるー!」
    「位置について。よーーい、どんっ!」

     駆け出した背中に向かって
    「その通りです。貴方が好きで仕方ありません」と呟いてから、自身も駆け出すために袴の裾をつと上げた。


     
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    Replies from the creator

    雨野(あまの)

    DONEひふ幻ドロライお題「逃避行」
    幻太郎と幻太郎に片思い中の一二三がとりとめのない話をする物語。甘くないです。暗めですがハッピーエンドだと思います。
    一二三が情けないので解釈違いが許せない方は自衛お願いします。
    また、実在する建物を参照にさせていただいていますが、細かい部分は異なるかと思います。あくまで創作内でのことであるとご了承いただければ幸いです。
    いつもリアクションありがとうございます!
    歌いながら回遊しよう「逃避行しませんか?」
     寝転がり雑誌を読む一二三にそう話しかけてきた人物はこの家の主である夢野幻太郎。いつの間にか書斎から出てきたらしい。音もなく現れる姿はさすがMCネームが〝Phantom〟なだけあるな、と妙なところで感心した。
     たっぷりと時間をかけた後で一二三は「……夢野センセ、締め切りは〜?」と問いかけた。小説家である彼のスケジュールなんて把握済みではあるが〝あえて〟質問してみる。
    「そうですねぇ、締め切りの変更の連絡もないのでこのままいけば明日の今頃、という感じですかね」
     飄々と述べられた言葉にため息ひとつ。ちらりと時計を見る。午後9時。明日の今頃、ということは夢野幻太郎に残された時間は24時間というわけだ。
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    しんどうゆか

    DONEチェリまほ94話の予告で、久々に安達の弟・和也くんの登場か……? にワクワクし過ぎて待ちきれなくて、気が付いたら、こんなド鬱な話書いていたんですけど、何ででしょうね……(聞くな)
    ええ……死ネタです。作中で安達が死んじゃいます。苦手な方、本当にごめんなさい。あと世界の理不尽さについて私的解釈で書きました。(長くなったので本文に続く)
    黒沢視点の話です。
    思い出のあとさき(キャプション続き)
    第1話から追っていたとはいえ、ブランクがあり、チェリまほ新規に近い人間なのと、こんな話、世の中にn番煎じにあると思ったんですが、私がくろあだで読みたかったから書きました。既に似た話があったら申し訳ないです。黒沢の心情を考えると、とても辛かったけど、書きがいはありました。
    くろあだ、前世でも今世でも来世でも幸せになってほしい(どの口が言う)。ちなみに私、伊藤左千夫の野菊の墓がめちゃくちゃ好きです(突然の性癖暴露)。あと直近でミスチルのHANABI聴いてました。


    ――――――――――――





    俺たちの穏やかな日常が、あんな形で終わりを迎えるとは想像もしていなかった。







    口下手で、分かりやすい言葉では、あまり表さないけれど。だけど、何気ない一言、さり気ない行動で、溢れる愛を示してくれて。
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    sakuranko55

    PROGRESS【過去編】神功・九鬼VS薬師河・イロハ②
    神功VS薬師河です。
    ろめと、やっくんやっくんと言ってるのはこの人の事!むかしの名前は〝サチオ〟です。
    九鬼とは三角関係?になるんですが、さっちんがやっくんのことサチオって言い出したらややこしくなるやつだなーと思いつつもうどうもできない!!笑
    【過去編】神功・九鬼VS薬師河・イロハ②「7193……いや、左千夫とこうやって手合わせするのはいつぶりかな」
    「……………ッ!?……それはッ」
    「あ、そういう意味で言ったんじゃないよ。
    僕を殺したことなんて、もう忘れてくれていいからね」
    「────────ッ!!」

    神功の脳裏に記憶が蘇る。
    神功は幾度と無く繰り返された実験により記憶が断片的に欠けているが。九鬼との幼少期の出会いを思い出した時に同じく薬師河悠都やくしがわ ゆうとのことも思い出していた。
    更に脳が刺激を受けた事により、当時は“サチオ”と名乗る少年とのでき事が今また鮮明に蘇っていく。神功は“サチオ”、今は薬師河悠都やくしがわ ゆうとと名乗る男を確かに殺した。自分が実験体であった頃、研究員のお遊び紛いの同士討ちの相手が彼であった。神功は自分の殺し合いの相手が薬師河と最後まで気づく事なく、突き出したナイフが彼の首を切り裂き、彼と気づいたときには既に亡骸であったのだ。
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