歌を捧げて夜中、ふと目を覚ますと小屋の外から微かに赤子の泣き声が聞こえてきた。
生まれたばかりの、谷垣とインカラマッとの間の子。二人の生命力の強さを受け継いでいるかのような、元気な泣き声だ。
暗闇の中、隣の月島を見た。
寝が浅いのか体にぎゅっと力が入り、顔を覗いてみると眉間にしわを寄せ歯を食いしばっていた。
「裏切り者は葬る」
任務を遂行する一心で、月島は谷垣夫妻を逃がそうとした家永を撃ち、命からがらコタンへ逃げた夫妻と腹の中の子の命を奪おうと追い詰めた。
私は三人を追いかけ、銃の引き金を引こうとする月島を止め「上官命令」の名目の元に、彼を汚れ仕事の任務から解き放った。
お前の心と体はまだ、厳しさ故に仕事を背負おうとしているのか?
私はそっと月島の肩をポンポンと叩いた。
「力を抜け。楽にして休め」
なかなか緩まない体と食いしばった顎を擦った。擦りながら・・・
ゆなのきのしたで
ゆれるふうりん りんりらりん
ねんねがせ ねんねがせ
りらりらりんりん
幼い時に母から歌ってもらった子守唄を思い出し口ずさんでいた。南国の郷里を感じるこの暖かい歌が好きだった。
少しでも心と体が緩んでくれたら。
祈るような気持ちで何度も口ずさんだ。
思えばこの男が寝入ってる姿をほとんど見た事がない。
共寝をしても夜が明ける前には兵舎へ戻る。
樺太ではどれだけまぐわいを重ねても、自分が気が付いた時には身体と寝床は綺麗になっており
「もう少しゆっくり出来ますよ」
「そろそろ出立の用意を」と声をかけてくれた。
お前は休む時があったのか?
僅かな時間かもしれないが、せめてここに居る間は自分を開放して欲しい。
大丈夫、私がお前を見守る。
ここへおいで。
側にいて何度も呼びかけよう。
あぁ、少し力が抜けてきたようだ。
月島の頭の重みが私の肩に乗ってきた。
「少尉殿、すみません。傷の有る肩に寄りかかって・・・」
一瞬目が覚めた月島が詫びてきた。
「平気だ気にするな」
月島の頭を自分の方へぐっと寄せて、撫でながら子守唄を歌い続けた。
ふっと月島の表情が柔らかくなり、胸に重みを感じる頃には再び寝入った様だった。
歌っているうちに自分も心地よくなり何時しか眠りに落ちていった。