告白 「そういえばシュウ、昨日のゲームやってみてどうだった?POGだった?」
「うん、面白かったし結構配信向きのゲームだと思うよ。ルカのスタイルにも合ってるんじゃないかな」
「POG!steamのゲームだっけ?」
「そうそう。同じ作者の違うゲーム、前アイクもやってなかった?」
「うん、やったことあるよ。シュウがやってたやつもそうだったけど、僕がやったやつも長くて2枠くらいで終わるしオススメ」
「あー、そういえばヴォックス、短めのゲーム探してたよな?丁度その人のページ見てたからリンク貼っておいたわ。他にもいくつかゲーム作ってるみたいだから見てみてるといいかも」
「これは良いことを聞いた、後で見てみるよ、ありがとうミスタ」
俺ら5人用のチャット欄にたった今見ていたページのリンクを貼る。少し視線を上に滑らせると過去のやり取りがみてとれた。そういえば先週のミーティングではシュウがオススメのマウスパッドを教えてくれたんだったな、そろそろ届くはずだから楽しみだ。
ミーティング後にこうして5人で話すのはもうすっかり恒例となっていた。タイムゾーンも生活リズムも配信時間も異なる俺らがこうして集まれるタイミングは滅多になく、会社側から定期的に招集をかけられて集まるこの時間を皆楽しみにしている節があった。
話題は多岐にわたる。近況を話したり配信のことを話したり、悩みを打ち明けたり一人じゃ解決できなかった相談を持ちかけたり。その中でプライベートな話題に及ぶことももちろんあった。この日もルカの愚痴のようなものから恋愛の話になったのだ。
「そういえばこの間親戚のおばさんに会ったときにさ、まだ結婚しないのかってしつこく言われてさ……兄ちゃんだってまだ結婚してないのに!」
「あー、いるよな、そういう厄介だけ焼いてくる奴。実際この仕事してたら結婚どころか恋人つくることすら無理じゃね?」
「配信の準備や配信そのもので忙しい、家から出る機会も少ないから出会いも無い……それこそ同業者とかならまだ可能性はあるが」
「でも僕は同じライバーの女性だったらやっぱり恋人っていうより仲間とか家族の方が近くなっちゃうよ」
そう、そうなんだよな。ヴォックスの言うとおり、出会いと時間のない俺たちライバーが恋愛するとなると、同じような生活をしているライバーがこう言っちゃなんだが手っ取り早い。でもアイクの言うとおり、同じライバーだと恋愛対象以前に仲間や家族という括りになってしまう。
「ではこの仕事のことは無しにして考えてみよう。そうすると俺はアイクなんかは結婚が早そうに思えるな。学生時代に知り合った同じクラスの女性とお付き合いし、卒業後も円満な関係を築いて、将来を見据える時期になり収まるところに収まる……」
「あー、ありそう。ってかあったじゃん」
「無いよ。ミスタ、でまかせ言わないで。僕は、結婚するとしたら僕が一番遅いんじゃないかなと思うけど」
「俺はヴォックスが早い気がする。出会いが多そう!交友関係が広そうって言うかさ」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、だからと言って結婚が早いというのに繋がるかと言えば別の話だと思うぞ」
「それもそっか。シュウは?誰が早いと思う?」
「え、あー、えっと……」
「シュウ?」
「これ、言っていいのかな……」
いつもとは違いやたらと歯切れの悪い言い方をしたシュウはなにやら考え込んでいるようだった。そのせいで、誰も口を挟むことの出来ない不思議な空気が流れてる。
「まぁ、言うなって言われてるわけじゃないし君たちならいいか…な?うん、いいや、なんとかなるでしょ。いずれ言うつもりだったし。その結婚誰が早いかって質問なら、多分僕が一番早いよ」
「へぇ、何でそんなに自信満々なワケ?」
「えっとね、実は先々週かな?結婚したんだよね」
「……待って、シュウ。誰が結婚したって?」
「え、僕。皆まだ結婚してないでしょ?だから僕が一番。えへへ」
……え?
「え?Wait,wait wait wait‼」
「What's」
「Holy shit…」
い、いやいやいやいや……え!?なになになに!?意味分かんないんだけど!
「あはは、ビックリさせちゃった?」
いやそりゃあビックリするだろ!!!だって……シュウだぞ!!?こう言っちゃなんだけど過去の話を聞いても恋人のような存在がいたかどうか怪しいあのシュウが……恋人出来たどころか結婚だって???
「言おうとは思ってたんだけど、あっちが先に皆へ報告するかな?とかタイミング伺ってたら逆にタイミング逃しちゃって」
「あっち……?」
「待って待って待って……相手俺らの知ってる人!?」
「あ、これはまだ言わないほうがいいのかな…でも折角だし今紹介したいな。ちょっと待って、聞いてみるね」
あぁ、ディスコードとかで今連絡取るのかな……いや待てよ、もう結婚してるんだよな?ってことは──
ギィ、パタパタ、ガチャ。
今聞きに行ったな……?その人は今別の部屋に居るんだな……?その人ともう住んでるんだな、そうなんだろ、シュウ……。
「Oh my god…」
「何が起きてるの……」
アイク、ルカ、気持ちはよくわかる。俺の心境もまさにそれだったし、一言も発さないヴォックスもきっとそうだろう。別に悲しいわけじゃない、ただそう……衝撃的すぎる。だってピュア度95点を体現し続けてきた男が…恋人通り越して結婚だぞ!!!
「……も、いいの?こん……ちで……を……たほうが……」
混乱のさなかに居る俺達の耳に、少し遠いシュウの声が聞こえる。どうやらそれは独り言とかそういうわけではなくて……そう、誰かと話してるような…え、もしかして連れてきた!?俺まだ心の準備できてないんだけど!な、なんて挨拶すれば…あ、いや俺らの知ってる人なんだったっけ??
「ごめん、皆お待たせ。いいよって言ってくれたから、二人で改めて報告させてほしいなって。いいかな?」
この場の異様な空気も全く気にしないで淡々と話し続けるところは相変わらずのマイペースさだな……。
「あ、あぁ、もちろんだとも」
「ありがとヴォックス。じゃあ…ちょっと待って。ね、こういう時って何て言うものなの?……ふふ、そうだよね、分からないよね、僕も君も初めてだし」
どうやらシュウは隣にいるその人と話しているみたい。仲睦まじいことだ。
一体相手は誰なんだろう?ミスタの脳内ではENメンバーの顔や会社のスタッフさんなど共通の知り合い達の顔が走馬灯のように流れていったけれど、シュウの伴侶として隣に立つとなると誰一人としてピンとこなかった。
「えっと、じゃあ……僕の旦那さんの」
ん?旦那?
「ふーちゃんです」
「……あー、困惑するのもわかる。すまない…」
「ファルガー!?」
「ふーちゃん!!!」
「Jesus christ...」
「わーお……」
シュウの相手はそう、俺たちの後輩にあたるファルガー・オーヴィド、その人だった。