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    幻班 侠太郎の衝動ブワー

    #さざれゆき又鬼奇譚

    人間みたいに生きられないの ●

     平和な日々がしばらく続いた。

     平和。それは素晴らしいことだ。何事も平和が一番だ。人道的に、倫理的に、常識的に、本当にそう思う。
     だから――しばらく怪物や怪奇現象と遭遇せず、命と命の奪い合いが発生しなかったのは、「危ない目に遭わなくて良かった」と思うべきなんだろう。
     なのに。どうして。
     目を閉じれば瞼に浮かぶのは殺し合い。血みどろ。暴風で追い詰め、雷霆で討ち、命をほろに踏み仇し、あたたかい血と臓物を浴びて、噎せ返るような血のにおいに酔い痴れて、肉と脂のてらつきに陶酔して、殺して、殺して、殺し尽くす、あの赤い光景。
     昔は、こんなことはなかったのに。
     あのさざれ雪の決戦以来だ。異能を――自分の力を思い切り解放して、思い切り暴れて、思い切り殺すことに、言いようのない黒い恍惚を覚えるようになってしまったのは。
     嗚呼。
     ……殺したい。なんでもいいから命を壊して、死体に変えてしまいたい。血を見たい。血を浴びたい。自らの手で死を作りたい。屍山血河を築きたい。
     衝動が、心を蝕む。
    「殺せ」「殺せ」「殺せ」「殺せ」――声が聞こえる、風が囁いている。
     良くないことだと分かっている。これに身を委ねたら二度と人間には戻れないことも。
     なのに――声が止まなくて――風が止まなくて――
     ――居るじゃないか。近くに。殺せる命が一つ。

     ●

     隙間風のような音が聞こえて。どこか窓でも開きっぱなしなんだろうか、と伊緒兵衛が思ったそんな時だった。
     部屋のドアがいきなり開かれる。途端、唸り呻くような恐ろしい風が足元から吹き込んできて――その風と共に、侠太郎が乗り込んできた。双眸を真っ赤にギラギラ輝かせ、纏う稲妻に髪を逆立て、鬼のように歯列を剥いて、ふう、ふう、と獣のように息を荒くして。
     ――異様な昂揚、興奮、異能の暴走状態にあるとすぐさま気付いた伊緒兵衛は慌てて立ち上がる。独自研究から、超人は様々な衝動を抱えていることは知っている――そして侠太郎の衝動が、極めて危険な殺戮欲求であることもまた。
    (そうか……最近、殺せていなかったから)
     異能事件を追っても、ここのところはずっと戦いが起きるような状況にはならなかったことを思い出しつつ――伊緒兵衛は凶星の光に思わず後退る。殺される、と本能が戦慄く。気道が引きつる。
     だが殺戮の雷は飛んでこない。侠太郎の周囲でバヂバヂと威嚇のように爆ぜてはいるが、青年は『あちら側』に行ってしまってはいない。
    「ゔ……ゔぅゔうゔううううう……」
     瞳孔の開ききった目を歪め、額を抑え、侠太郎は異能を鎮めようとしている。殺戮欲求を抑えようとしている。今、侠太郎にとって目の前の伊緒兵衛は、飢えた獣に対する血脂したたる餌と同じだった。それでも。
    「伊緒兵衛……」
     苦しそうに声を震わせる。侠太郎の苛烈な異能は自分の体に激しく負荷をかけるものがゆえ、意志に反する暴走は苦痛でしかない。暴走する異能因子に従わないほど、その乖離が痛みを生む。戦いの時は腹を括っているからこそ覚悟に痛みも遠退くが、そうでなければ人並みに痛みを感じてしまう。
    「い 痛い 痛いっ……!」
    「ッ…… 侠太郎!」
     伊緒兵衛がすぐさま異能を行使する――黒い砂が青年を包み、流れ、しゃらしゃらと清らかな音を奏でる。侠太郎の最たる感覚器官にその音が届く、響く。砂の流れる、まるで星々が煌めくような音に、青年はどうにか目を閉じ意識を集中させる――その拍子に、自らの鼓動を合わせる。呼吸を合わせる。生命活動の音を合わせる。
     ――そうすれば、青年の中の衝動が収まっていく。室内に吹いていた狂風は止み、雷の火花も消え、ギラついていた星の列も掻き消え、侠太郎はその場に膝を突いた。
    「はーーーッ……はーーーッ……」
     どっと汗を流して、開く瞳はもう黒い。数度の呼吸で息を整えると、侠太郎はどうにか立ち上がった。
    「はあ……すまんのう、ちょっとブワーッてなった」
    「……。呑まれないで下さいね」
    「分かっとるわい、……ちょっと寝るわ、助けてくれておおきにな」
     無駄に心配させまいと笑んで、侠太郎は伊緒兵衛の部屋を後にする。嫌なモン見せ晒してもうたのうと、後ろを向いてから顔をしかめた。


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
    2220

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