Ep.1 コーヒーと、雑談と――――Momo Talk――――
「なあ」
『どうしましたか?』
「今仕事してるか」
『ちょうど終わって休憩中ですよ』
「そうか」
「それならちょっと来てくれ」
「散歩がしてえからよ、話し相手になってくれ」
『集合場所はどこにしますか?』
「サンクなんとかの入り口にいる」
『わかりました』
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Ep.1 コーヒーと、雑談と
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彼が連絡したサンクトゥムタワーの入口へと歩いていくと、そこには黒い帽子を被り、灰色のパーカーと紺のズボンを着た人が壁に寄りかかりながら本を読んでいた。
「...ん?ああ、あんたか。随分と遅かったな。このまま散歩を始めようかと思ってたところだ」
『結構遠いですから...』
「...ああ、そういえばそうだったな」
旅骨先生は表情を一切変えることなくそう言うと、開いていた本を閉じてパーカーのポケットに入れ、何も言わずに歩き出した。
「こっちだ。ついてきな」
・ ・ ・
それから歩いて十数分後。
特に話すこともなく、気まずい雰囲気の中彼の背中を追う。
周りは先ほどよりも狭く、月光しか照らしてくれない路地裏へと変わっていた。
「...こっちだ」
『...話し相手が欲しかったんじゃないんですか...?』
「あー...そうだな。それについては後でな」
「...あんま、周りに聞かれたくはねえ話だからな」
『(一体どういう話なんだろう...)』
「お、そろそろ...か。ほら、そこだ」
旅骨先生の指す方向を見れば、そこには静かに明かりを灯す店が見える。
そこにある看板には...コーヒーカップの中にウサギが入っている絵と、"月光の灯火"という文字が書かれている。
『喫茶店?』
「そうだな。コーヒーがないと落ち着かなくてな」
カランカランというベルの音と共に中へ入ると、店内は木造の古き良きな、温かい喫茶店という感じだった。
「店主ー、いるかー?」
{...ん、あんたかい。本当によく来るね}
その声かけに、カウンターの奥から老犬が袋を持って現れた。旅骨先生はその老犬を見てようやく表情を緩ませた。
「まあな。ここは落ち着くからな」
{そう言ってもらえて何よりだよ...ところで、お隣の人は...}
『あ、シャーレの先生と申します』
{おー...噂の。いらっしゃい、ゆっくりしていきな}
「店主、いつもの一杯頼む。こいつには...あー、カフェラテを」
{はいよ}
旅骨先生がカウンターに座るのに続いてこちらも座ると、ようやく旅骨先生は話を始めた。
「さて、と...あんたを呼んだのは話相手になってもらうためだったか。そうだな...」
「...」
「...さて...何を話すつもりだったか忘れちまったな」
『え、ええ...』
「ま、コーヒーでも飲んでればいつか思い出すさ。どうせこの後やることないんだろ?少しぐらいは付き合ってくれよ」
『それはそうですけど...』
かちゃ、と近くで音が鳴れば、二つの湯気が出るコーヒーカップが目の前に置かれていた。
{そら、コーヒー出来たよ。そちらの方は熱いから気を付けてね}
『あ、はい。ありがとうございます』
「ありがとよ店主。へい、お代」
{はいよ}
「...それじゃあ、話すとしようか...今夜は長くなるからな、寝るんじゃねーぞ?」
そう彼はにやにや笑うと、他愛もない雑談が始まった。
それからは、いつの間にか時間が過ぎていって...
・ ・ ・
「...それでだ、あいつはなんて言ったと思う?"まだまだ食べられます"だってよ。呆れちまったよ...いったいどこに収まるって言うんだか...」
{黒帽子、そろそろ2時だよ。このくらいにしといたほうがいいんじゃないか}
「...ん?ああ、もうそんな時間か...楽しい時間ってのはあっという間だな...悪いな、こんなに長くなるとは思わなかった」
『大丈夫ですよ、とても楽しかったので』
「...そうか?物好きな奴だな...んまあ、気に入ってくれたなら何よりだ」
彼は立ち上がると、その目をこすりながら店の外に出ていった。それについていけば、欠伸をしていた。
『眠いんですか?』
「...ん、まあ、な...コーヒーを飲んでても眠くなっちまうんだ。そろそろ寝ないとダメか」
『いつもしっかり寝てます?』
「9時間は寝てるよ...それでも、やっぱり体がもたねえんだ。睡眠のスペシャリストに聞いても変わらなくてな」
『...』
「...まあ、体質だから仕方がねえ。日常生活に支障はないしな...そら、いくぞ。ここらは迷いやすいからな」
それから、シャーレのオフィスまで送ってもらってから旅骨先生と別れた。
...終始眠そうにしていたが、大丈夫なのだろうか...
――――Momo Talk――――
「昨日はよく眠れたか?」
「あれだけ時間かけちまってすまねえな」
『大丈夫ですよ』
「お礼に...」
「...」
「仕事は手伝えねえから、なんか差し入れでもしに行く」
『そこまでしなくても...』
「いいだろうに、このくらい」
「それじゃ、また用があったら連絡する」
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