どちらが王子か分からない ユウリは、世間での俺のイメージというものとは別に、俺を捉えているらしい。いや、でも女性と居るところを数回フ〇イデーされて、それでも変わらず。気遣ってバトルを誘ってくれる友人であるこいつは、チャンピオンというだけあり、本当に大物なのか。
「だって、キバナさんが好きなのは、女性の前にポケモンたちや、ポケモンバトルですよね。それくらい、私でもわかります」
試合前。控え室でポケモン雑誌を読みながら、どうということはないという様子で言う彼女に、驚くを通り越して呆れてしまう。俺は、「いやでも違うだろ」と息をついて頭をかかえ、我ながら情けないことを言っているなと思いつつ続ける。
「俺、女優と話してるってのスクープされただけで、前より炎上してんだぜ。ユウリ、お前はまだ子どもなんだから、付き合う友人くらい選べよ」
「何でもかんでも都合が悪くなると、子ども扱いはよくないですよ。一人の人間として、キバナさんのパフォーマンスや、ポケモン愛に憧れて、私はそれが好きで。あなたと居るんです」
ハナからその程度で縁切る人と再戦なんてしません。──ぱたん、と雑誌を閉じ、ご機嫌なようすで立ち上がり、ユウリは続ける。
「子どもだからって、散々旅の途中では逃がされてたけど。もう脅威に立ち向かう気位も、実力もあります。ポケモンっていう、大切な友だちが。掛け替えのない。それに、ダンデさんやソニアさんたち、ジムリさんたち、ホップたちっていう、掛け替えのない存在も居る。いつも見守ってくれている優しいキバナさん、今度は私がお助けしますよ。スクープからも、何からでも。明日から、私と会ったら全部それ、デートって呼んでくださいね。チャンピオン相手に歯向かうバカは、私が喜んで返り討ちにします。」
「じゃ! 先に行ってます」言い残し、颯爽とチャンピオンのマントをひるがえして控え室を後にする、ユウリに唖然とする。……まってくれ、すっげーあいつ輝いてるような。王子フィルター? いや違うだろ、でも姫様フィルターってわけでもねぇ。
「あれ?」
一人で控え室に残された俺は、胸が爆発しそうに高鳴っていることに気づく。服を掴み、顔が熱くなっていることを自覚し、息をごくりとのんだ。
「俺、今。一瞬で落とされた……?」
ちょろすぎだよ。ポケモンたちに、ボールの中で言ってのけられた気がした。