後悔隣の安定した寝息を乱さないように、俺はそっと身を起こした。
そのまま、洗面所に向かう。そこには当然、いつもの我が家の洗面台が鎮座していて、鏡には、僅かに無精髭を生やした寝起きのおっさん────つまり、俺の姿が映っていた。
いつもと何ら変わらない光景だ。幾度となく迎えた朝を、今日も同じように迎えた。
そう思えば、少しは落ち着くと思っていた。
────── しかし。
腰の痛みと身体の怠さは、否応が無しに昨晩のことを思い出させる。昨晩のことを思い出せば、景気良く寿命を燃やすような勢いで、心臓は暴れ回った。
「あ〜〜…………………」
昨日の夜、ついに俺は、モブと一線を越えた。衝動的でもなく、一方的でもなかった。
ずっと前から諦めていて、選ぶまいと決めていた道に、あいつは俺を引き上げようと根気強く手を伸ばし、俺は散々渋ったその後に、結局あいつの手を取った。
その結果、今俺の中では、幸福感と罪悪感が、台風みたいに渦を巻いている。結局こうなっちまったか、とか、俺の人生、こんな報われ方しちゃっていいのか、とか、そんなことをぐるぐる考える。結局のところ、俺は今も、モブを好きな自分を許せないのだ。
あいつが大学生になった今も、当然の如く十四という歳の差は埋まらないし、あいつは未来ある若者で、俺はしなびたただのおっさんだ。そんな俺があいつに向ける感情は、客観的に見て、おぞましいと思う。
(……………後悔してるのか、俺は)
常夜灯に照らされていたモブの顔が、嬉しそうで、少し泣きそうだったのを思い出す。
俺は洗面台に手をついて、その陶器の冷たさが、軟弱な部分の思考に染み込むのを待った。