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    Laugh_armor_mao

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    鬼狐ワンドロワンライ
    お題 『夏祭り 』

    #Foxakuma

    焼き餅は狐色 橙色と茜色の入った、やたら縞の浴衣に栗色の帯を合わせて身を包み、角を生やした顰(しかみ)の面を斜めに着けたミスタに、シュウとニナは鬼気迫る勢いで何度目かの注意事項を言い含めた。

    『ほんとに不本意だけど、ヴォックスから離れないで。絶対だよ』

     ニナやシュウが心配している理由は、此れから向かう場所のせいだ。

     夏になってファンアートや、ネットに散らばる日本の『夏祭り』を見てみたいなぁ。と呟いた俺を、「そうかそうか」と何故か嬉しそうにヴォックスが応じて、人外の夏祭りに行く事が決まった。

     二人はそれを何処からか知って、文字通り『駆け付け』てくれたのだ。

    「心配せずともミスタの側から離れる気は無い」

     怖いくらい上機嫌のヴォックスが、優雅で自然に俺の腰に手を回しながら二人に微笑む。

    「ソレが一番安全だから許容するけど、今回限りだからね!帰って来たらチェックするから!!!」

     シュウは宇宙猫の表情で、俺の袂や帯に式神を挿みながらヴォックスに釘を刺した。

    「よく分かんないけど、シュウもニナもありがと」

     俺も『夏祭り』に行ける事に浮かれていて、二人が心配する理由なんて、これっぽっちも考え無かった。
     移動式サーカスに連れて行ってもらえる子供の様に、夏の夜の幻想にすっかり嵌っていたんだ。

     黒い着流しに朱殷(しゅあん)の帯を締めたヴォックスが、森の入口で手招きする。首元のチョーカーと腰のオニギリの根付が紅く眼を引いていた。

     手を繋ぐのもどうかと、袖の裾をギュッと握って後を付いて行く。
     二、三度瞬きをする間に、周りの景色はゆらゆら歪んで、暗い木々の間に薄青白い焔が点々と道を照らす。長くも短い様にも思える距離を歩いて居ると、軽快なテンポで金属を叩く音と、風を切る高い笛の音が聴こえて来た。
     やにわに周囲は同じ方向に向かう大小の気配で満ちる。

     石で出来た枠だけの門の前で、ヴォックスが「ちょっと失礼」と言いながら両の瞼と額にキスをした。

    「うぇ。往来?でなにすンのさ」

     ヴォックスを非難しつつ顔を上げると、門の向こうは紗を掛けたような柔らかな光、鼻を擽る沢山の匂い、静かなざわめきが拡がっていた。

     思わず駆け出した俺の首根っこをヴォックスは素早く掴むと、「コレは保険が必要か…?」とかナントカ呟いて、最寄りの店で狐のお面を買っていた。
     
    「さぁ、何処から廻ろうか?」

     黒髪に白い狐面を掛けて、片手だけ袖を通したヴォックスは、男の色気と言うのだろうか、普段の羽織り姿とも違った雰囲気で。直視出来なくて周りのマーケットワゴンに視線を移す。

     甘い香りはキラキラ赤いキャンディアップル?コットンキャンディ?ガラスの様な水飴に閉じ込めたフルーツキャンディ。
     肉やシーフードの串焼き、パンケーキみたいなのとタコヤキ!甘くてスパイシーなソースの香ばしい香り。
     カラフルな波紋模様の水風船、輪投げ、射的で賞品を撃ち落とした子供の笑い声。ふわふわと夢みたいに楽しくて。

     小さな手が、袂を引く。当たり前のようにその後に付いて歩いた。

    「ミスタ!」

     遠くでヴォックスの声がしているような気がする。だけど、俺はあっちに行かなきゃ行けないんだ。



     ミスタが『夏祭り』に行きたいと言い出した。常々、アチラの知り合いに見せたいと思っていたヴォックスは、これ幸いと繋ぎを付けた。
     ニナやシュウが嗅ぎ付けて、小言を頂戴したが、瑣末な事だ。
     彼方此方の外濠を埋めて、自分のモノにしたい。珍しくそんな感情を持ってしまったら、時々理性の箍が外れてしまう。そんな自覚はあった。

     自分が眼を離さなければ。ミスタさえ護れれば万事解決だと思って居たのだが。

    「なぜ神隠しの様な真似を?」

     コロコロと笑いながら格上の存在達がヴォックスを誂う。

    「お前様とて知りたくはないかぇ?」
    「己への慕情は如何程か」
    「如何程か」

     諫言に因われた一瞬のうち、ミスタの気配が遠く掠れた。



    「お兄さん、あの鬼のこと好き?」
    「ニンゲンじゃないよ」
    「いつかは、きっと」
    「ケタケタケタケタ」

     狐は惑わす。狸は欺く。

     小さな陰達は意地悪く、ミスタとヴォックスの間を隔てる壁を造る。
     キョトンと、かき氷のスプーンを咥えたまま、ミスタは澄んだ湖の様な青い瞳をそれらに向けていた。悪意はあれど、殺意の無いその言葉に、首を傾げる。

    「だから、何?」

     お互いの『ずっと』の時間が違うのは判っている。もしかするとヴォックスは、それを一緒にする事も出来るかもしれないけれど。きっと俺はそれを選ばない。

    「大事にすんの。全部。それだけ」

     ニヤリと笑った顔は途轍も無く美しく。小さな陰達は小さく小さく呟いた。

    「いいなぁ」
    「ミスタ!」

     小さな社の前に佇むミスタを、がっしりと抱き込んでヴォックスが呻く。

    「まさか私の方が拐かされるとは思って居なかった。済まない」
    「うふふ。貸しにしといてやるよ」

     肩口に伏せられたヴォックスにちょっとだけ擦り寄って、ミスタは眼を細めた。

    「楽しかったなぁ」

     水を張った金魚鉢に、セルロイドの赤い金魚が揺れている。
     いつの間にか手にあったその金魚の玩具は、「迷惑料代わりのようだ」とヴォックスは唸っていたけれど。金魚鉢を置いたその部屋はヒヤリと水気を含んで涼しい気がした。

    「また連れてって」
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