わたしが絵を描かない理由 美術室へ向かう凛の足取りは重かった。
凛の入学した中学校では部活動への参加が義務付けられていて、余程の理由がない限り例外は認められていない。
二か月前に入学したばかりの凛にも当然その義務は課せられ、彼女は美術部へ入部した。
絵なんて小学校の授業以外で描いたことなかった。それなのに美術部を選んだのは、“仲良しグループ”の友人たちがみな揃ってそこを選んだからだ。
美術室の扉の前で足を止める。中からは女子の談笑する声が廊下まで聞こえていた。
扉へと手をかけると凛の心臓はバクバクと鼓動を速め、手には汗がにじみ、膝が震え始める。
――大丈夫。大丈夫だって。
自らをなだめるよう深呼吸して、一気に扉を引く。
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