Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    みずひ梠

    @mizu240

    主に妖怪松版ワンウィークチャレンジ参加作品となるSSを投げています
    よろしくお願いします

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 45

    みずひ梠

    ☆quiet follow

    【セガコラボカフェ妖怪松】【3期7話夜道妖怪松】
    天狗の一松と轆轤首の十四松の話

    春一番春一番。
    希望に満ち溢れた、元気いっぱいな風。
    彼が冬を吹き飛ばし、春を引き連れて来る。
    それゆえか、力強い生命力を内包しており──
    己の気を隠すのに、甚だ都合が良いのだ。
    今年もまた、彼が来た。


    びゅぅ、ひゅう、ひゅおぅ。
    今日はあたたかい、強い風が沢山吹いている。
    季節は冬の終わり頃。だからこれは春一番なんだろう。それなら、彼がここに訪れる筈。
    ぼくは一際大きな木のうろに座り込んだ。そこは丁度、身体ひとつがすっぽりと入るくらいの大きさで、やさしい安心感で包み込んでくれる。その上風をかなり防いでくれるので、今まさにぴったりの場所であり、ぼくのお気に入りの場所だった。
    ひときわ強い風が、びゅおぅ!と吹いた。木のうろでは防げない、真正面からの風だった。堪らずぎゅっと目を瞑る。
    風が収まり、目を開けるとそこには、彼が立っていた。──紫の衣を纏った、天狗様だ。
    「……やあ、轆轤ろくろ少年」
    「あはっ!やっほー天狗さんまた逢えたね」
    「ん……そだね」
    天狗さんはそれだけ応えてからぼくの前に座り込んだ。
    そうしてぼくの目を見て問い出す。
    「……相変わらずその場所、好きなの?」
    「うん」
    「……そう」
    天狗さんはいつもそれを最初に聞く。確かめるように、どこか諦めるように。その真意を探った事はない。天狗さんも、深く掘り下げるような事はしない。あんまりに繰り返したので半ば形式化していたのもあるだろうし、他にも色々あるけれど……一番は、早々に楽しい世間話に花を咲かせたかったからだった。天狗さんもそれは同じ様で、切り替えるようにゆっくりと瞬きしてからは優しい目になって、話し始める。
    「ねえ轆轤少年、最近はどうしているの?」
    「うん、ぼくはね──」
    そこからぼくらは半刻程、ずっと話し続けた。

    びゅぅ、ひゅう、ひゅおぅ。春一番はぼくらが話している間でも、止むことなく吹き続けていた。同じように、ぼくらの会話も途切れる事なく続いていた。天狗さんの話は面白いし、ぼくも近々起こった事の諸々を話すのは楽しかった。でも、話題にひとつの区切りがついて、一段と強い風が吹いた時に、天狗さんは目を伏せて呟いた。
    「轆轤少年がおれとの話を楽しんでくれている事は嬉しいよ」
    「然れども……お前とこうして話す事を通ずて……彼の御神にうた気でいるんだ……だから、私、は……」
    そこまで言って、天狗さんはしまったとばかりにこちらを見やった。だからぼくは笑って答えた。
    「ぼくはね!天狗さんの事好きだよ!」
    「天狗さんも大事なお友達だから」
    「…ともだち」
    「うん」
    「お前は…仕様も無い事を恐れて、ほんの少ししか逢えないような奴でも、そう言ってくれるのか…?」
    「もちろん」
    「……そう、か……」
    「ありがとう」
    天狗さんはきゅっと目を細めて笑った。ぼくもなんだか嬉しくなった。だからもっといっぱいお話ししたかった。……だけど。
    「轆轤少年……今日も楽しい一時だった……」
    「名残り惜しいけれど、もうこの場を離れなくちゃならない」
    「そっか……」
    「だから……また今度、逢おう」
    「……!」
    ぼくはその言葉が嬉しくて仕方無かった。だって天狗さんは、今までずっとその類の言葉を避けて姿を消していたから。でも、来年は絶対に逢えるんだ……!
    胸いっぱいの喜びを、そのまま言葉に乗せて応えた。
    「うんまたね」
    天狗さんはふっと笑った。次の瞬間には強い風が吹いていた。また逢えると分かっていても、やっぱり寂しくて、せめて去り際を見届けたかったぼくは立ち上がり空を見上げた。
    そこには紫黒の翼を力強く羽ばたかせて翔ぶ美しい烏の姿が在った。彼は一度だけ旋回してから、瞬く間に姿を消してしまった。
    びゅおう、と強い風が吹いた。あたたかな風だった。これもきっと春一番。希望に満ち溢れた、元気いっぱいな風。
    ぼくはそれを少しだけ分けてもらって、にっこり笑顔になってから、ゆっくりと家路についた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏❤👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    koyubikitta

    DOODLE一緒にいても何とも思わないけど一緒にいなかったらなんとなく不安になる夜帳と比鷺
    #お題ガチャ #男ふたりの色んなシーン https://odaibako.net/gacha/1739?share=tw

    早野の夜鷺さんへ贈るタイトルお題は、『書を捨てよ、此処を発とう』 です。
    #shindanmaker #同人タイトルお題ったー
    https://shindanmaker.com/566033
     浪磯の部屋を引き払って別の部屋を借りる予定だと聞いたのは、その部屋を明け渡すほんの数日前の事だった。というかつまり、今日初めて知った。
     萬燈夜帳が契約している部屋はいくつか存在しており、浪磯にあるマンションの一室もそうだった。バルコニーから海が見えるその部屋に、比鷺は何度か足を運んだ。山ほど本やCDがあるんだろうと思ったが、それほど物はなかった。当然だ。彼の自宅は別にあるのだから。広くてシンプルなのに殺風景ではない、趣味の良い部屋だと思った。
     良い風じゃん、日当たりも良さそう、トマトでも育てれば? なんていい加減なことを言いながら不思議な気分になったのをよく覚えている。出会ったばかりの頃はずっと萬燈に怯えていた。今は……今はどうだろう? 怯えたって仕方がない相手だとは思う。怖い部分もあるし、可愛い部分もある。人間らしいな、と思うときも人間らしくないな、と思うときもある。まあだから、つまり、慣れたんだろう。慣れた比鷺はふかふかのソファに寝そべってテレビで洋画を見たりもした。自分が介入できない映像を二時間も見続けるのは大変だな、と思って、次はあまり使ってないゲーム機を持ち込んだ。萬燈と対戦して、勝ったり負けたりする。……まあ、トータルでは俺が勝ったけどね。
    1772