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    みずひ梠

    @mizu240

    主に妖怪松版ワンウィークチャレンジ参加作品となるSSを投げています
    よろしくお願いします

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    みずひ梠

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    【元祖妖怪松】
    社に住まう妖怪六兄弟の長男と次男のお話
    ※なんとなく非公開にしていたものをなんとなく公開に戻しました

    昔話と嘘うららかな陽光にあてられて、昼寝から目を覚ました。眠れる事は幸せだ。あたたかい夢を見れる。今日も、遥か昔の懐かしい日々の夢を見た。可愛らしい弟達と暮らす今の日々も勿論悪くは無いが、彼らの過去の悲痛さを思い起こすと胸が痛む。それ故に過去が変わり無く今、未来に続いていたらと思わずには居られない。それは不可能だと分かっていても。
    そうくだらない物思いに耽っていた折、何時の間にやらすぐ傍にいたカラ松が声を掛けてきた。
    「おそ松」
    「ん、どったのカラ松?」
    「また、『過去』の事を考えていただろう」
    「なははっまあねぇ」
    「……そろそろ教えてくれないか」
    「過去に何があったのか、を」
    「あー……」
    いつくかの過程を経て大天狗と相成ったカラ松は、神力を有している上に千里眼を使用出来る。千里眼とは『視る』神力の総称で、遠くを視る事やら箱の中身を視る事やら思考を覗く事やらが可能だ。しかしまだ未熟なカラ松は少ししか扱う事ができず、思考も断片的にしか拾えない。だからこうやって追求してくる。そんな時困るのが、神力を有する者なら必ず使用出来る術“読心”の一端、嘘を見破る力である。
    さて、どう誤魔化すか。
    「……二百歳になるまでナイショ」
    結局、いつもこう返している。着々とその時が近付いて来ている事が分かっているにせよ、今あの事が知られるのは必ず避けたい。
    『齢数百の俺からすれば数分の一程度しか生きていないカラ松はまだこどもだ、こどもに伝えるには重すぎる。だからさしもの俺でもおとなと認めざるをえなくなる時まで待って欲しい。』その旨を伝えた。これも、いつも通り。違ったのは、ここまで言えば追求を諦めていたカラ松が今回は引き下がらなかった事だ。
    「いつも、そればっかりだ」
    「百年待ったのにまだ駄目なのか?」
    「それにお前、『過去』の事を考えている時どこかで辛そうにしてるだろ!」
    ……まずい、もうそこまで視れるようになっていたのか。どうすれば……。
    「ふたりともー、もうご飯できてるよー?」
    「……冷めちゃうよ」
    「おいなりと唐揚げだよー食べちゃうよー」
    「何のはなししてるのー?ぼくもまぜてー!」
    「じゃあぼくもー!」
    「おれも……」
    「いやご飯だって!」
    ……おおよそ平和な弟達の声が鳴り響いた。
    上手くすればこの場を凌ぐ事が可能かもしれない。
    「唐揚げ……じゃない、おそ松!」
    おっと、これは随分と効いているらしい。これなら……
    「まあまあ、とりあえずご飯食べよ?」
    「さもないと無くなっちゃうんじゃないかなあ、俺らの分」
    「くっ……」
    「分かった……」
    「なははっよろしい!早く行こカラ松!」
    「……ああ」
    この程度で押し切られるくらいじゃやっぱりまだ子供だ。可愛いらしいので良いのだけれども。ともかくひとまずは危機を脱した。
    早急に、手を打たねば。

    *

    話は一旦保留という形で終わっていた筈なのに、食後になってものらりくらりとかわされ続け、気づけば深夜になっていた。悶々としていた為に眠る事などできはせず、どう聞き出すかばかり考えていた。
    おそ松が過去の事を何一つ話さないのは今に越した事ではないが、辛そうな感情を感じ取ってしまったからには見逃す事なぞできない。辛い事は、誰かに話せば楽になるんだ。だからどうにかして、話してもらいたい。
    散々考え抜いた結果、酒に酔い饒舌じょうぜつになった隙に聞き出す事を思いついた。少々手荒だが、これまで散々秘匿してきたお返しとすれば許されるだろう。
    オレはおもむろに立ち上がり、隠してあった酒の在り処を求めて歩みを進めた。
    それは箪笥たんすの裏に仕込まれた隠し扉の中に変わる事なく置いてあった。大天狗となる試験に合格した時に、面倒をみてくれた御神から賜った御神酒である。当時はまだこどもだったのでおとなになるまで空けずに取っておこうと思い、おそ松に勝手に呑まれない為にもここに隠していたのだ。過去のオレとの約束をたがえるようで何となく申し訳なく思いつつも、引き返す訳には行かないと言い聞かせ、ぎゅっと徳利とっくりを握りしめた。

    *

    その日、おそ松は夜遅くとなっても自室にて仕事をしていた。水晶玉や書物等を机一杯に広げ何やら書きつくっていた所、ふいに顔を上げ襖の方へと目を向ける。間を置かずに開かれた襖の先にはカラ松が立っていた。
    「──おそ松」
    「なあに?カラ松」
    「眠れないんだ。少し、付き合ってくれないか?」
    そう告げたカラ松の手にはこの神社の物ではない御神酒が握られていた。真剣そうな面持ちで、じっとおそ松の方を見る。
    「いいよ、ちょっと待ってて」
    「!ああ……!」
    おそ松は花が咲くように笑顔になったカラ松を横目に見つつ、筆を水術で濯ぎすずりに蓋をし立ち上がった。そのままの足で襖の方へと向かう。
    「カラ松が眠れないなんて珍しいね、こわーい夢でもみちゃった?」
    「違う!今日はその……お、おとなの時間を過ごしてみたかったんだ!」
    「普通ならオレだっておとなだからな」
    神術を使用せずとも分かる程明らかな嘘である。頬に伝った冷や汗がそれを物語っていた。
    おそ松はそれを知ってか知らずか、
    「そっかあ、まあたまには良いんじゃない?」
    そうやんわりと相槌を打った。
    「だよな」
    カラ松がそう威勢良く答えた頃には居間へと辿り着いていた。おそ松が狐火で灯りをつけ、カラ松がその間に座布団を引っ張りだした。ではいざ呑もうとなった時に盃の無い事に気づく。
    「あ、取ってくるぞ」
    そう言ったカラ松が立ち上がり、居間から出ようとした所でびたんと不可視の壁にぶつかり尻餅をついた。
    「な、何だ」
    訳も分からず混乱しているカラ松の横でおそ松は笑いを堪えながら言った。
    「っ……ごめんカラ松っ、夜遅いから声漏れない様にする為に結界張ってたの……っ、なははははっ」
    「さ、先に言ってくれ!というか、そんなに笑う事か」
    「ごめんごめん、尻餅つく程勢い良くすっ転ぶとは思わなくって……なはははははっ」
    「くっ……。まあ良い、ともかく解除してくれ」
    「いんや盃ならあるよ?」
    「はっ」
    「酒好きの俺が持ち歩いてない訳ないじゃ〜ん」
    その手には朱塗りの盃が二つ。どうやら懐から取り出したらしい。
    「ほいっカラ松の分」
    「……衛生面……平気なのか?」
    「ちゃんと布で包んでたよー?」
    「そうか……なら大丈夫か、ありがとう」
    「お礼といっちゃ何だが……注ぐぞ、酒」
    「わーいありがとからまちゅ!」
    「それは止めてくれ気色悪い」
    「え〜」
    口を動かしつつも手は止めず、着々と開封していく。紐を解き、包を剥がし、蓋を開けるとぐわりときつい酒の匂いが漂った。カラ松は一瞬だけたじろぐ素振りをみせたがすぐに立て直し、おそ松の盃にとくとくと酒を注いだ。続いて、自分の盃にも少しだけ注ぎ込む。次には手早く徳利の蓋を閉めた。
    「ね、乾杯しよカラ松!」
    「ああ」
    ふたりはお互いの盃を構えてかつんと打ち鳴らした。僅かに跳ねた無色透明な酒が、狐火の光を受けてきらりと輝いていた。
    おそ松はそのままぐいと酒を呑んだ。カラ松は盃を口元には持っていきつつも酒を呑もうとはしない。
    おそ松はそれを気に留める事は無く、上機嫌で世間話をしだした。カラ松は相槌を打ちつつ、盃が空になっては注ぎ、空になっては注ぎ──
    四半時(三十分)が過ぎる頃には酔っ払いが一名出来上がっていた。

    *

    「なあおそ松、もっと話を聞かせてくれ」
    「弟達が此処に居着いてからはなかなか無かっただろう?こんな事」
    「ん〜そうだね、ふたりっきりっでじっくり喋んのはぜぇんぜん無かったね〜」
    「しょうがないなぁ、カラ松がずぅ〜っと知りたがってた話でもしてあげよっか」
    「!それは……!」
    「そう、昔話」
    ……ついに、来た!オレは勝ち誇ったような気になりながら、居住まいを正した。こっそりと、千里眼の用意をしながら。
    おそ松は盃に視線を落として話し出していた。
    「昔々の話……。」

    ある所に、九尾の狐の兄弟がふたり仲睦まじく暮らして居ました。ふいに、兄の方が友垣の頼みで隣国へ行く事になった時、寂しがりの弟が自分も連れて行って欲しいと懇願しました。当時、隣国は凶悪な魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこしており未熟な弟が行くには危険そのものでした。兄は当然止めましたが、帰って来られぬ可能性があった為に弟は決して引き下がりませんでした。最終的には友垣の助言もあり弟も行く事となりました。
    三者が無事に渡国した後、暫くは何事も起こりませんでしたが、油断した束の間に弟は流れ弾をくらい魂の一片を撃ち貫かれました。
    それは神力を創り出す核となる所でした。弟は神ではなくなり、妖狐となって、神力を持つ兄に恐れをなしました。弟はそれが兄であると頭では理解しつつも体が言う事を聞きませんでした。弟はそのまま兄の元から一目散に逃げ出しました。その後の行方は知れません。
    兄は己の判断を悔いました。
    安全な場所から決して出るなと言い聞かせておけば良かったと。
    頑として来るなと告げていれば良かったと。
    友垣の頼みを聞かなければ良かったと。
    唯怠惰に日々を過ごし続けていれば良かったと。
    どれ程過去を呪っても、時が戻る事はありません。弟が帰ってくる事もないでしょう。
    兄は急激に活力を失い、その場に倒れ伏しました。そこからはごろりと寝転がり、唯怠惰に生きることを誓いました。

    「これ以上、何も失わない為に。」
    「──話はこれでおしまい、俺はそろそろ寝るよ」
    「……ああ。聞かせてくれてありがとう」
    「なんのなんの。酒と引き換えだも〜ん」
    おそ松は蒸気した顔と完全には回りきっていない呂律でそう言っていた。少しやりすぎたかもしれない。
    それでも過去の話を語る時はずっと辛そうだった。オレに話した事で少しでも楽になっていたらいいな。そう考えていた時既に襖の前に立っていたおそ松は振り返り、こちらを見て言った。
    「ああそうだ、大事な事言ってなかった」
    「今の話、うっそ〜!」
    ……えっな、どういう事だ
    「そんな、だって、千里眼は……」
    「うん、話自体は本当。だけど、俺の過去の話って訳じゃないから〜まあ実質嘘だよね!残念でしたー!なははははっ」
    「これから過去の話聞いたりしてもこうやって誤魔化すから!信用しないでね〜」
    「酒美味しかったよ!残りはおとなになったら呑みな!」
    「じゃ〜おやすみぃ!」
    「まっ、待て!」
    「どうして、そうまでして……っ」
    そこでオレは急激に抗いがたい眠気に襲われた。
    「何、だ……?」
    「ごめん、言霊縛りだよ」
    カミサマがおやすみって言ったからね」
    「そ……んな……」
    まぶたが徐々に重くなり、視界が暗くなっていく。
    閉じる間際に見た赤は、襖に向かっていた筈のおそ松の着物の色だったようだ。身体がぐんと持ち上げられた感じがする。寝所まで運ぶつもりなんだろう。ならばとオレは最後の悪あがきで千里眼を使った。薄れゆく意識の向こうで、オレは確かに視た。おそ松が、『過去の話はお前らにだけは絶対知られたくない』と、心の中だけで言っているのを。

    なあおそ松、どうしてお前はそうやって、あまたの事をひた隠しにしているんだ?
    オレ達との間にひとつ線を引いているようなきがしてならなくて、なんとなくさみしいんだ。
    兄弟、なのに。
    オレ達みんながお前の言うおとなになったら、全部話してくれるのかな。
    むっつでひとつになれるのかな。

    *

    寝所の襖をそっと開けて、カラ松を一松の隣に寝かせた。すうすうと聞き心地の良い音のする寝息が五つ聞こえてくる。俺もここに混ざりたくなったがまだ後始末が済んでいない。俺は音を立てないよう細心の注意を払って寝所を後にした。
    今日は随分とひやひやさせられた。まさかカラ松がこんなにも成長していたとは。嬉しい反面、不安も覚える。いつかカラ松が、千里眼を完璧に使いこなせるようになったら俺の後ろ暗い過去が知られてしまうのではないかと。カラ松だけじゃない、視る力に長けるチョロ松も、山神に成る可能性のある一松にも、見透かされてしまうのではないかと。十四松とトド松にはその類の力を持つ事はないが、気を抜いた一瞬の内にぽろりと零してしまいそうで時折たまらなく恐ろしくなる。丁度、太古の妖が神を恐れたように。──なんて。
    あの話には助けられた。彼の御神はここまで見通していたのか。つくづく神とは空恐ろしいものだ。
    そこで表情がかなり強ばっていた事に気づいた。落ち着く様子がなかったので化かして隠す。誰かに見られたら堪ったものじゃない。
    『表面上だけならいざ知らず、根本からというのは時間をかけねば成し得ない』
    そう言っていたのは誰だっただろうか。
    変化の術は便利だ。さっきだって、酔いどれのていを装う事ができた。用するに化けの皮さえ剥がれなければどうとでもなるのだ。中身がどれだけ醜いとしても。ああいけない、ひとりで居るとどんどん思考が沈んでいく。暗い夜は嫌いだ。早く、日が登らないかな。
    弟達に会いたいよ。
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