失われるものたちへ八月の終わりにその地域に向かったのは、そこでしか観察されないという動植物の調査のためだ。やや緯度の高いその国は、短い夏を終えようとしているところだった。空港に降り立つと、乾いた風で景色が白っぽく煙って見える。
ここから電車で40分かけて市内に移動し、さらにバスで4時間半走ったところが、今日の目的地だ。長時間のフライトを終えた身体は、筋肉が凝り固まって多少の疲労を感じている。しかし、観光に来たわけではないのでゆっくりする時間はなかった。目的地に向かうバスは1日おきにこの街と目的地を往復している。乗車を予定している便を逃すと面倒だから、急がなければならない。それでも足取りが重くならないどころか、浮足立ってすらいるのは、今回の調査を心待ちにしていたからだ。
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