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    四 季

    @fourseasongs

    大神、FF6、FF9、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドが好きな人です。

    boothでブレワイに因んだ柄のブックカバー配布中:https://shiki-mochi.booth.pm/

    今のところほぼブレワイリンゼルしかない支部:https://www.pixiv.net/users/63517830

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    四 季

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    百年前のリンクも孤独を抱えていたと思うので、それを、「同じ孤独を抱えていて、リンクの孤独を唯一理解できた姫が癒す」……
     みたいな話が読みたいです(そしてベクトルの違う話が出来上がりました🫠)。

    #ブレワイ
    brawley
    #リンゼル
    zelink
    #ブレスオブザワイルド
    breathOfTheWild
    #ゼルダ姫
    princessZelda

    old days 母は、自分が幼い頃に亡くなった。

     父と母の結婚は、比較的早かったという。理由は単純で、父の家系が代々騎士の家柄であり、戦争などの有事によって、血の断絶が起きるのを避けるためだ。
     とはいえ、父と母は恋愛結婚で、子どもの自分の目から見ても、それは仲睦まじい夫婦だった。身分はそれほど高くないが、代々王族からの信任厚い、近衛騎士の家系に生まれた勤勉な父と、地方の信心深い聖職者の娘であった母。二人の結婚は、周囲からも温かく歓迎された。
     ただ、もともと身体があまり丈夫でなかった母は、二十歳を迎える前に家の後継ぎである自分を、そして自分に続いて妹を産んだことで体調を崩しがちになり、自分が物心ついた頃には、臥せりがちなことが多かったように思う。
     その一方で、近衛騎士である父は、宮仕えの仕事だけでなく、王命を受けてハイラル中を駆け巡っていることが多く、家に留まり家族と共に過ごすことが難しかった。人の何倍も健康だった幼い頃の自分は、身体の弱い母と、母に似てあまり丈夫でなかった妹を置いて、父に連れられハイラル各地に出かけることもあれば、父の代わりに母や妹を護って欲しいと、父から留守を任されたこともある。そしてそんな時は、忠義の騎士として主君に忠誠と生涯を捧げたいと思う一方で、愛する家族と共に過ごしたいと願う父の悩みを、幼心に垣間見たような気がするのだった。
     父は時折、自分が仕える主君について話をしてくれることがあった。近衛騎士には任務上の守秘義務が課せられるから、父の口から語られる話は、主君についての意見や批判といったものではなく、ただ、お仕えする「ゼルダ姫」のその不思議な力や、同じ名前を持っていたかつてのハイラルの姫にまつわる不思議な言い伝えなどがほとんどだった。
     「ゼルダ姫」についてなら、ハイラルに暮らす誰もがその名を知っている。とはいえ、自分にとっては優秀な近衛騎士である前に一人の父である人が、小さな少年が憧れや夢、あるいは女神様のことを語るときのように、「ゼルダ姫」について話すのが、幼心には不思議であり、また少し不服なこともあったのだが。
     そうして二人きりで赴いた旅先で、父が寝物語に語る「ゼルダ姫」の物語を聞いているうちに、自分はあることに気がついた。それは、父が目を輝かせながら生き生きと話す「ゼルダ姫」が、二人いるということだった。
     ある時の父は、あどけない少年の眼差しで「ゼルダ姫」のことを語った。父から語られる「ゼルダ姫」の物語に登場する父は、自分と同じ年頃か、少しばかり年上の、いずれにせよ少年の姿をしていた。少年である父は、憧れの姫君のことを、少し興奮気味に語り聞かせた。
     またある時、父は、優しく穏やかな眼差しで「ゼルダ姫」のことを話した。父は「ゼルダ姫」と会話するときはいつでも身を屈め、姫と目線の高さを合わせるようにしているようだった。「ゼルダ姫」について話すときの父は、騎士というよりはむしろ、年長者として年少者を優しく見守っている者の顔をしていた。
     そうして自分は理解した。父が幼い日に出会い、騎士としていずれお仕えしたいと考えていた「ゼルダ姫」は、今の王妃様だ。そして父が、優しく穏やかに見守っている「ゼルダ姫」は、父にとって息子である自分と同じ年頃の、姫様のことなのだ、と。
     そのことへの理解は、自分にとって、それまでハイラルにずっと伝わってきた物語の登場人物であった「ゼルダ姫」が、急に現実味を帯びて感じられてきた瞬間であり、これまでただ漠然と「父の跡目を継いで騎士になる」と考えてきた自分の奥底に、いいようのない思いが生まれ出た瞬間でもあった。
     「ゼルダ姫」はいついかなる時も、ハイラルに棲む生きとし生ける者全てのために祈りを捧げてくれる。有事にはその聖なる力で、勇者とともに戦い、何度もハイラルを危機から救ってくれた。
     その尊い人をその手で護れることの誇りを、目を輝かせて語る父の横顔を見つめながら、留守を守る母が、いつも父の無事を祈っている姿を思い出しては、胸の内に小さな疑問が生じてきた。
     そんな疑問が高まって、いつだったか、父の留守を守り、その無事を願い祈る母に問いかけたことがある。
     ──「ゼルダ姫」の祈りが何度もハイラルを救ってきた。それならば、なぜ母は「ゼルダ」の騎士である父の無事を祈るのか。
     そして、「ゼルダ」を命を賭けて護る父、その妻である母の病は、なぜ自分や父がどれだけ祈り、願おうとも癒えないのだろうか、と。
     その問いかけが、女神ではなく自分の内なるものへの祈りの否定であることに気づかないまま問いかけた自分に、母は儚い、柔和な笑みを崩さないまま言った。
    「誰かの身の安全を祈り、願うことは、女神様でなくてもできるのよ」
     息子を戒めるわけでも諭すわけでもなく、ごく自然に放たれたその言葉に、自分の問いかけが、母が父の無事を願う気持ちをも否定するものであることに気づいて恥じ入り、俯いていると、母の白い手が優しく自分の頬を撫でた。
    「リンク。
     あなたがこれから生きていく中で、時に理不尽だと思うことや、どうしようもなく悲しいことがたくさん起きるでしょう。どれだけ祈っても願っても、それは仕方のないことなの。
     でも、それは、私たちの祈りや願いが無意味だということでは決してないのよ。
     だって、女神様はご自身の愛し子を、このハイラルに遣わしてくれたのだから。
     私たちと同じ、限りある力と生を持つ、ハイリア人として」
     母の言葉に驚愕を隠しきれず呆然とした自分を見て、母はおかしそうに笑った。
    「あなたの御父様の語る『ゼルダ姫』は、ほんとうに女神様のような方ね。
     ハイラルの少年はみな幼い頃、勇者と『ゼルダ姫』の物語を聞いて育つわ。だから、『ゼルダ姫』は、すべてのハイラルの騎士にとっての憧れなの」
     とくに、あなたの御父様は幼い頃、先代の『ゼルダ様』──今の王妃様の御母様と、同じ年頃の幼い『ゼルダ様』にお会いして騎士になりたいという志を深めたそうだから、と、母は少し拗ねたように唇を尖らせた。母から知らされたその秘密に、妙に腑に落ちたという感慨を抱く自分に気づかないまま、母は続けた。
    「あなたの御父様も、同じく近衛騎士だったその御父様も、ずっと『ゼルダ姫』を護り続けてきたの。そして『ゼルダ姫』の血を受け継ぐ新しい『ゼルダ姫』のこともね。
     あの方を御護りすることは、全てのハイラルの騎士にとって、憧れであり、誉れそのものでもあるのよ。
     そしてハイラルに暮らす全ての少女にとっても、あの方は憧れなの。
     あの方たちは、私たちと同じ、限りある力と生しか持たないハイリア人でありながら、女神様として、私たちの言葉を聞いて下さっているから」
     そう言いながら、母の細い指は優しく、自分の穂色の髪を梳いた。
    「誰かが誰かを想うのに資格は必要ない。誰かのために祈ることも。
     ──でも、このハイラルで、『ゼルダ姫』だけは違うわ。
     『ゼルダ姫』は全てを措いてハイラルの平和を祈り願わなければならないし、そしてその祈りには、責務と力が伴うの。
     そしてそんなあの御方の心と身体を護るのが、あの御方の真の騎士だから」
     あなたの御父様が忠義を全うできなかったのは私のせいね、と、母は力なく笑った。
    「そんなこと……!」
     むきになって否定しようとした自分に、母は緩く頭を左右に振った。
    「いいえ。私も時に、あなたの御父様の忠義の深さに、あの御方が羨ましく思えたこともあるわ。そしてあの御方をお護りすることを生き甲斐としている御父様を、恨めしく思ったこともね。
     でも同時に、もしあの御方に──あの細い肩にハイラルの全てを背負ったあの御方に、その力と知恵と勇気の全てを懸けて、あの御方を護ろうとする騎士がいてくれたならば、どれだけ良いだろうかと思ったこともあるわ。
     あなたの御父様には私たち家族がいて、だからあなたの御父様は、あの御方の真の騎士になることができなかったから」
     地上に降りた女神である姫巫女。
     その人を力と知恵と勇気を全て懸け、身も心も捧げて護るというのは、幼い自分にはまだ信じられないほどの献身だった。それではまるで、生贄のようではないか。
     絶句した自分を、母は愛おしそうな目で見つめた。
    「すべてのハイリア人は、女神と勇者の血を受け継ぐ子孫。
     だから全てのハイリア人の少年は勇者となり得るし、また全てのハイリア人の少年は、かつて愛した女神の生まれ変わりである姫君を愛するようになる。
     でも、女神の生まれ変わりは、その時代においてただひとり。
     女神の血を受け継ぐ姫君だけ」
     ──リンク。騎士の家に生まれたあなたもきっと、その宿命に囚われることになるでしょう。
     あなたの心はいずれ家族より、友人より、誰よりも、姫に捧げられることになる。
     けれどあなたならば、あの御方の真の騎士になれるかもしれない。──
     予言めいた母の言葉に、幼い自分はわずかに畏れを感じながら、首を傾げた。
    「真の騎士……?」
     父でさえなれなかったという真の騎士。それがどのようなものなのか、顔を上げて母に問う。
     母は厳かな口調で告げた。
    「女神である姫と魂で結ばれた者。何度生まれ変わろうと、生まれる地平が変わろうと、いついかなる時も姫と共にあり、姫を護ろうとする騎士の魂を持つ者。
     ──その人はこのハイラルでは、『勇者』と呼ばれるわ」
     勇者──。
     その響きに、己の心が大きく震えた。
     それはその呼び名を冠するものへの憧れや、陶酔からではない。定命の人間が、女神と魂で結ばれ、何度生まれ変わろうと女神の傍にある。生まれ変わることで果たされる永遠の約束。それを体現する者の呼び名を知ったからだ。
     そして、「あの人」の真の騎士になろうとするならば、勇者にならねばならないのだと、母の言葉によって思い知らされたからだった。
     さながら天啓を受けたように打ち震える自分の姿を見て、母は笑った。少し、寂しそうに。
    「そう。
     あなたが、あなたこそが、あの御方に選ばれし勇者──リンクなのよ」
     どこで、いや、母はなぜその真実を知り得たのだろうか。
     そのたった一つの予言を残し、母は間もなくこの世を去った。
     間もなく春の足音が聞こえてくるだろう、ハイラルの東の果ての、永い冬の終わりのことだった。

      ※

     父の訃報を聞いたのは、十三の頃だった。
     魔物との戦いで魔物と共に崖から転落したのだという。遺体は帰ってこなかった。
     城では王が喪に服し、半旗が掲げられたと聞いた。葬儀自体は近親者と村の人のみでしめやかに行われたが、空っぽの棺を前に別れの言葉を述べても、まるで実感が湧かなかった。
     思えばその頃からだったろうか、ハイラル各地で魔物が村や里に出没することが増え始めたのは。もともと留守がちだった父は以前にもまして、魔物の討伐のため各地に出向くことが増えた。アデヤ村近くではイワロックが、ゾーラの里の近くではヒノックスとライネルが姿を現したと聞くし、ゴロンシティへ向かう道にはマグロックが陣取っていて、ハイラル王の遣いが難儀したと聞く。これはいよいよ厄災復活間近ということかとハイラル中が危ぶんでいた、その矢先の出来事だった。
     父が亡くなって間もなく、妹も亡くなった。病だった。母に続いて父を亡くしたことが、妹の心と身体に致命的な傷を与えたのだろうと、最期を看取った医者は言っていた。
     そうして自分はあまりにもあっけなく、一人きりになってしまった。どうしようもなく孤独だった。
     もはや自分がふるさとの村に留まる理由はなくなった。護るべき家族も約束もない。家族のなきがらが眠る小さな墓の前に佇んでいると、どこかから、いつかの父の言葉が脳裏に浮かんできた。
     それは、母の言う「真の騎士」について、父に問いかけた時のことだ。──

    「リンク。
     俺の小さな手では、家族を護るだけで精一杯だった」
     数え切れないほどの剣だこを作っては潰してきた、大きな力強い手を握りしめながら、父が言った。
    「だが、あの小さな姫様が、いずれこのハイラルに棲む生きとし生ける者全てを護るために過酷な運命に身を投じることになる。
     ハイラルの全てをその身に背負う方を護ろうとするならば、お前はその力と、知恵と勇気の全てを振り絞って、その身を御護りしなければならない」
     そう言いながら、父はその力強い手で、息子の頭を撫でた。
    「勇者は勇者として生まれてくるわけじゃない。
     あの御方のために力と知恵と勇気を振り絞ることができる者。
     その者こそが勇者になれるのだ」
     退魔の剣は、その証だ。退魔の剣を抜く者が勇者なのではない。剣はただ、選ぶだけだ。
     女神の代理人、姫巫女の対となるに相応しい者を──。
    「……父さんは、勇者になりたかったのですか?」
     自分の問いかけに、父は首を横に振った。
    「男なら誰もがみな、勇者に憧れるものだ。だが、俺にその天命は下されなかった。
     その代わり、お前の母に、そしてお前や、お前の妹に出会った。
     俺はお前の母の夫であり、お前たち子どもの父でありたかった。
     お前の母に出会った時から。
     生まれたばかりのお前たちをこの腕に抱いた時から。
     だから、勇者にはなれなかった」
     自分が知る限り、誰よりも勇気があり、力強く、聡明な父が勇者になれなかったというのなら、このハイラルの一体誰が、勇者たり得るのだろうか?
     見上げる自分に、父は豪快に笑った。
    「幼い頃は、俺も、ハイラルのために! ハイラルに暮らすみんなの笑顔のために!
     と思いながら剣をとった。
     だが実際の現実は不公平で、不条理で、だからこそなおさら、姫と勇者が代々紡いできた伝説に憧れていたのかもしれない。
     努力する人が報われ、心の美しい人の祈りが届き、誰もがみな幸せになれる結末。
     幼い頃に誰もが心に抱いていて、成長すると失ってしまう願いや祈り。
     それを、あの方たちに求めいてたんだ」
     勝手な話だがな、と、父は朗らかに笑った。
     ひとしきり笑った父は、ふと真顔になると、母親によく似た色の息子の髪をくしゃりと撫でた。
    「リンク。
     これは強制ではないが、もしお前がこの先、騎士になることを志すというのなら、どうかあの方を──護って差し上げて欲しい」
     ──母さんを、妹を、よろしく頼む。
     出かける度にそう言っていた父の姿と重なるその口調に、自分は呆然と父を見上げた。
     母が知っていたように、父も、知っていたのだろうか。自分の息子の宿命を。
     父は遠い目をして告げた。
    「そしてもしもお前がこの先、あの方を『護りたい』と希うなら、お前はあの森へ行き、その力と知恵と勇気でもって、剣を抜かなければならない」
     ──マスターソード。
     誰に教えられたわけでもない。だが、その剣の在処も、名前も、そして、その剣を自分が抜かねばならないことも、なぜか自分は知っていた。分かっていた。

     そして自分は「あの森」へ向かった。
     父と母が教え諭し、導いたからではない。それが己の宿命だと信じていたわけでもない。

     待っていると分かったからだ。
     それは森に住む精霊たちのことでも、剣のことでもなく、ましてや運命でもない。
     「あの人」が自分を待っている。
     遠い未来に。
     この広いハイラルのどこかで。

     そして──
     自分は、「勇者」となることを選んだ。

       ※  ※

     長い話をようやく終えると、自分の隣に腰掛けて、長い話に黙って耳を傾けていたその人は、優しく微笑んだ。
     在りし日の母を思わせる、つましくも心ゆかしい、ハテノ村の衣装に身を包んだ姿で。
    「……貴方が自分の幼い頃の話をしてくれるなんて、珍しいですね」
     そう言いながら満天の夜空を見上げたその人に倣い、自分も空を見上げる。
     ハテノ村から見上げる星空は、ハテノ村が標高の高い場所にあるからか、あるいはたんに村の灯が少ないからか、他の村や里で見るよりいっそう星が美しく見える。子どもたち──自分と妹──が寝静まった頃、父と母は、こうしてよく二人肩を並べて夜空を見上げていたものだといつだったか父に聞いていたが、その気持ちがよく分かる。この美しい夜空の下で二人きり。いくら語り明かしても語り足りないようであり、あるいはまた、いつまででも黙ってこうして二人で夜空を見上げていられるような気さえする。
     話したいだけ話して黙り込んでしまった自分の隣で空を見上げる人は、星を繋いで星座と、それにまつわる物語を少しずつ語り始めた。遠い昔にどこかで聞いた物語。百年前にはどこにでもありふれていたおとぎ話。かつて母から聞いたその物語を、自分にとって、このハイラルで最も美しい声が語るのに耳を傾けながら、そっと呟くように告げた。
    「最近、少しずつ思い出してきました。……昔のこと」
     自分のその小さな囁きに、隣の人が小さく息を呑んだ。
     百年の眠りの中で、少しずつ失われていった記憶。そのうちでも、「貴女」に纏わる想い出だけは、継ぎ接ぎな状態でも、色鮮やかに蘇った。
     だが、幼い頃の思い出は、百年の眠りの中にほとんど置き去りにしてしまった。魂となった友人たちが心配していた通り、彼らの日記から得られた「記録」としては残るだろうが、「実感を伴った記憶」が戻ることは、もうないだろう。
    「俺の人生は、貴女のためにあったんです。
     そして、これからも」
     そう言うと、隣の人が少し寂しげな表情をした。かつて自分が感じた通り、貴女に捧げたその人生を、さながら「生贄」のようだと捉えたからかもしれない。
     自分は何でもないことのように明るく笑った。
    「悲しまないで下さい。ましてや、哀れんだりもしないで下さい。
     母の言った通りです。ハイラルに生きる少年ならば誰もが、貴女の騎士になりたいと希う。
     父はその道を示してくれただけです」
     それは母もかな、と、付け加えるように小さく呟く。
     幼い頃から、他の人には見えざるものが見える自分のことを、父や母はどう考えていたのだろうか。嘆き悲しんだかもしれない。哀れんだかもしれない。そもそも母が体調を崩したのも、素質を備えた子どもである自分を産んだからかもしれないし、父が優れた騎士として各地に討伐へ赴いていたのも、もしかしたら自分のことと、全く関わりがなかったわけではないかもしれない。
     ハイラルは女神ハイリアの地。だとすれば、ハイリアの生まれ変わりである少女と、少女を護る少年を中心として、その理が巡っている。
     百年前、死すら二人を分かち得なかったように。リンクは命ある限りゼルダの騎士だ。
     ゼルダがリンクの手に自分の手を重ねる。リンクはその手を強く握りしめた。
    「……巻き込んでしまったと、一人で後悔しないで下さい。
     貴女と共にあるために、俺の全てはあるんですから」
     泣きそうなゼルダの短くなった髪を、夜の冷たい風が揺らす。
     言葉で言い尽くせない想いの数だけ、リンクはその白い頬に唇を寄せた。
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    四 季

    DONEリンクが姫様に自分の家を譲ったことに対する自分なりの考えを二次創作にしようという試み。(改題前:『ホームカミング』)
    帰郷「本当に、良いのですか?」
     ゼルダの問いかけに、リンクははっきり頷き、「はい」と言葉少なに肯定の意を示した。
     リンクのその、言葉少ないながらもゼルダの拒絶を認めない、よく言えば毅然とした、悪く言えば頑ななその態度が、百年と少し前の、まだゼルダの騎士だった頃の彼の姿を思い起こさせるので、ゼルダは小さくため息を吐いた。

     ハイラルを救った姫巫女と勇者である二人がそうして真面目な表情で顔を突き合わせているのは、往時の面影もないほど崩れ、朽ち果ててしまったハイラルの城でも、王家ゆかりの地でもなく、ハイラルの東の果てのハイリア人の村・ハテノ村にある、ごくありふれた民家の中だった。
     家の裏手にあるエボニ山の頂で、いつからか育った桜の樹の花の蕾がほころび始め、吹き下ろす風に混じる匂いや、ラネール山を白く染め上げる万年雪の積もり具合から春の兆しを感じたハテノ村の人びとが、芽吹の季節に向けて農作業を始める、ちょうどそんな頃のことだった。ゼルダの知らないうちに旅支度を整えたリンクが、突然、ゼルダにハテノ村の家を譲り、しばらく旅に出かける──そう告げたのは。
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