阿呆考 ふざけんな。この阿呆。
同居人のロナルド君が放った言葉である。
「ロナルド君、枝毛」と髪を抜いたら非力な私には珍しく2本同時に抜けた。痛かったらしい。
時は午後十時。締切が迫り休息なき休日を過ごす退治人。その背後に佇むドラルクは俄に高揚した。
私が若造にダメージを与えたのは初めてではないか。畏怖。その二文字が私の頭で踊る。いや、踊ったどころではない。砂になる前の一瞬に目尻に溜まる涙を見た私の頭の中はさながらカーニバル、祝典である。
人は髪が抜けたら痛いのだなあ。人の枝毛など抜いたことがなかったから知らなかった。私の毛髪は言うまでもなく素晴らしい絹糸で、ジョンも完璧無欠の丸。枝毛などない。
「でもいい眠気覚ましになったわ」
1961