6「ホワイトサンドの羊飼い」という団体名を聞いたとき、Mr.ミステリーは実のところ、私立探偵の看板を掲げておきながらもピンとは来ていなかった。
しかし警察署の伝手に照会してみると、それはMr.ミステリーが想定していたよりも、この辺りではある程度有名な「祈祷師」を擁する団体であったことがわかり、Mr.ミステリーは己の不勉強を数秒の間恥じたのだが、照会相手も「貴方が知らなくても無理はない」程度のことを言って寄越してきてはいた。
何せ、政治家の娘などを被害者に含んで相次いだ失踪事件との関連を疑われ、この手の宗教組織への大規模な締め付けが行われた結果、その他多くの団体と同じように「ホワイトサンドの羊飼い」の音沙汰がなくなった頃のMr.ミステリーは、私立探偵Mr.ミステリーではなく、一傭兵のナワーブ・サベターとして、東方の叢林に潜んでいたのだ。
宗教団体による失踪事件への関与、という点で、Mr.ミステリーは若干この情報にも目配せをしたものの、その点において、ホワイトサンドの羊飼いは、大した団体ではないようにも見えた。
当時有力者の失踪にも絡んでいると睨まれていた“名だたる団体”としては、有力者の庇護下のもとサバト的な宴を催し、かねてより問題視されていた「オルフェウスの竪琴」や、その関連団体の「エウリュディケー荘園」(これらの名前は、Mr.ミステリーにも聞き覚えがある)などがあるが、一方で「ホワイトサンドの羊飼い」は、警察データベース上に登録されている情報から見るに、その零細ぶりから、それらの大規模団体の系列であるというよりも、むしろ、それらの団体が幅を利かせる風潮に乗っかり、それらしい名を名乗っただけの、無関係な団体だと考えるほうが自然であった。確かにホワイトサンドの羊飼いに対する被害届も出てはいたが、それらは失踪事件ではなく、もっぱら詐欺や霊感商法に関することだ。
とはいえ念のため、Mr.ミステリーが、照会情報に記載のあった電話番号に事務所の電話から掛けてみたところ、案の定、その電話番号は既に使われていなかった。