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    @t_utumiiiii

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    リッパー(パティシエ)とヘレナ・アダムス(甘いケーキ) 広義のリパヘレ ※日記のないキャラクターの背景推理等から言動を捏造※荘園設定の捏造※キャラクターの一人称としての女性蔑視・ルッキズムに基づき外見を貶す描写

    ヘレナ・アダムスは“才媛”である。(広義のリパヘレ) 獲物が八体に増える協力狩りの場はただでさえ混沌状態に陥り易いものだが、リッパーは今しがた刃を引っ掻け転ばせたサバイバーが、何かを落としたことには気が付いていた。

     心眼ヘレナ・アダムス。視力の代わりに忌々しい暗号解読の才を得たという“才媛”である。リッパーはヘレナにその言葉を向ける時に限って、そこに若干の皮肉を交えていた。
     というのも、リッパーの評するところのヘレナ・アダムスは、女の身体に生まれながらこれといって華やかなものがなく、彼女が失った視界はどれほど美しいものだったのだろうと思いを馳せさせるような風情も持たない娘であった。その顔には、美しさに肝要な条件である凹凸が無いとは言わないが、どこを取ってもぱっとしない。どことなくのっぺりとして、カエルに似た容貌の娘。故に、見目に現れない“才”への褒め言葉が第一に来るということだ。つまり、ヘレナ・アダムスは“才媛”である。

     その彼女が、ケーキを模した派手なピンクの衣装を着て、所在なさげにおろおろと、曲がりなりにも生死を掛けた試合中というには、やけに緊張感に欠く動作で蹲り、遊園地のフィールドをこそこそ隠れまわっていた。
     たまたまそれを見掛け、道端で親とはぐれたカモの雛を見かけるような気分になってくつくつと嗤いだしてしまったリッパーは、調香師の纏う香水の香りを追跡するのを止めると、間抜けなほどに童女めいてリボンとフリルに縁どられたピンク色の背中に、その刃を引っ掻けたという訳だった。
     すると、三段になったケーキの層を模したスカートを野暮ったく揺らして、マジパンに包み込まれたデコレーションケーキのようなものを載せた大仰な帽子を被っているヘレナ・アダムスは倒れた。その時に何かが落ちた。

     協力狩りの場はただでさえ混沌状態に陥り易いものだが、残り暗号機の数にはまだ余裕があった。この局面にしては負傷者も多く、健康状態の者を数える方が早いような有様だった。今もボールを片手に物陰からこちらの様子を窺っているオフェンスの姿が見え隠れしているが、その男にしたって、全くの健康状態と言う訳でもない。
     つまり、この時点において、リッパーには余裕があった。少なくとも、一定以上のダメージを受けて地面に蹲ったヘレナの身体を風船に括りつけて吊り下げる前に、一体何を落としたのかを確認する程の余裕もなかった、とは言い難い。

     だが、リッパーはそうしなかった。そういう気分だったからだ。そもそも、ここに携帯品を持ち込むことは禁止されているのだから、違法に持ち込んだものをどう扱われようと、それは持ち込んだ者の責というものだろう。
     嗜虐的というにはささやかな思いつきに身を委ね、気付かないフリをすることにしたリッパーは、鼻歌混じりに爪先でそれを蹴飛ばした。蹴飛ばされたそれは、存外に軽い音を立てて、板の裏へと吸い込まれていった。

     そして、程なくしてロリポップを模した杖を片手にぱたぱたと力なく手足を揺らしている心眼を吊り上げると案の定物陰からオフェンスが飛び出してきたが、その攻撃を上手く躱しながら心眼をチェアに座らせたところで、着席した獲物を満足気に見下ろした――それは、ハンターとしての気質が満たされるいくつかの瞬間の一つでもある――リッパーはそこで、ただでさえぱっとしない彼女の容貌が、さらに物足りない様子になっていることに気が付いた。
    「おや」
     椅子の周りを取り囲んだ柵の中で獲物が見せるに相応しい怯えの表情というには妙に憮然とした態度で、むくれるように座っているヘレナは、それこそ飴細工を加工したような厚ぼったいピンク縁の眼鏡を掛けていなかった。


    ***


     その日の対戦相手に心眼が含まれていることを確認したリッパーが、寄ってきたサバイバーの首根っこを掴んで抱き上げはするものの、椅子に座らせはしない――つまり、狩人の役目を放棄するに至ったのは、彼自身が己の故意に反省の心を起こしたというより、時折顔を合わせ言葉を交わすこともあるハンターの間での評判を、その一件によって落としたからであった。

     彼が女性を切り裂くことに至上の喜びを得ていることと、一人のサバイバーを気まぐれに甚振ってみたことは、どちらも等しくハンター、もとい、リッパーの気質に起因するところであった。故に彼にとって、それは何ら責められる行いではないのだが、一部のハンター――己の職責を狩人ではなく「監管者(管理者)」として定義している白黒無常のような者や、視界を失い常に杖をついて歩く例の娘を憐れんでいるような、リッパーから見れば、狩人(ハンター)を務めるにしては過度に感傷的な気質のある者が何名か、リッパーが心眼の眼鏡を壊したらしい、ということに対して、非難めいたことを言うこともあった。
     その中でも、彼が特に気に入っている“同僚”の内のひとりである芸者――彼女は目の見えない心眼に対して、妙な肩入れをしているようにリッパーには見えるが――が、彼に対して口を利かなくなったというのが堪えた。ツンケンと振舞う美しく高慢な女――自分の身の程というものを、高く見積もりすぎている――を見るのも、リッパーにとってひとつの被虐的な喜びであったが、この扱いにいつまでも甘んじているわけにはいかなかった。曲がりなりにも紳士として売ってきた名が廃るというものだ(それにしたって、彼女らはいささか感傷的が過ぎており、自分たちの狩人としての役割をより積極的に享受するべきだ、というのが彼個人の意見だったとしても)。

    「仲直りしましょう」
     白地に内側はピンク、独創的な破れ目のあるジャケットの襟を芸術的に立て、それと揃いの白いシルクハットの上から、ライトグリーンのクリームを被ったような愉快な格好――パティシエの衣装に薔薇の杖を携えやってきたリッパーがそう言うと、その日は普段通りの妙に明るい色の帽子に、冴えない色の服を着ていた心眼は一瞬、船の残骸横に設置されている解読機の進捗を進める手を止め、近づいて来たその日のリッパーが、職務を放棄していることを確認するように顔を上げた。
     しかし、リッパーが予想通りハンターの責務を放棄していることを確認してから、彼女はそれに特段何か喜んで見せるという訳でもなく、解読に戻る。
     あんまりにも堂々としたその態度に、リッパーは一瞬、誤って空の人形(bot)を相手にしているのかと疑いすらしたのだが、五指の代わりに吊り下げたナイフの間に満ちた霧の刃を放ってみると、彼女はbotらしく機械的に正確な動きで解読機から離れるでもなくそれはあっさりと命中し、心眼は背中を丸めてその場に蹲っていた。恐怖の一撃。botではないようだ。

     この娘も、自分の美しい「同僚」たちの多くがそうであるように、眼鏡を壊されたことを腹立たしく思っているのだろうか?
     リッパーはそのようなことを考えては、さて困りましたね、どうやってご機嫌を取りましょうか。などと口には出さず、僅かに首を傾ぎながら、兎に角その場に蹲っていた、冴えない赤毛の娘の首根っこを掴んで抱き上げる。
     そこには見ているだけで嫌気の差すような醜さがあるわけではないが、見ていて目を楽しませるような華らしいもののない、相変わらずの顔立ちをしていた。リッパーはそこで、はたとあることに気がついた。
    「……そもそもあなた、眼鏡は入用なんですか?」
     ハンターに開示されている情報によると、心眼は全盲者である。それならば、真っ先に見つけてしまえばそれで終わりではないかというとそうでもなく、彼女は目が見えない代わり、聴覚――「音の反響」を利用し、マップを構成することができるらしい。それにしたって、見つけてさえしまえば、そこそこに容易い獲物という点に変わりはないが、やたらとすばしっこい一人の背中を追わされている最中なんかに、異常な程の速度で上がっていく暗号機と、姿の見えないところからこちらの居場所を一方的に浮き彫りにするあの白杖の音を聞くと、心底忌々しくなることもある。
    「あなたのアクセサリーを壊してしまったことについて、私は申し訳なく思っていますとも、ええ」
     例の白鳥の旋律を鼻歌で辿るような軽やかさでリッパーが口遊む謝罪に、無抵抗に横抱きにされていたヘレナは己の白杖を胸の前で握りしめながら、「アクセサリーではないです」と、そこに特段苛立った調子もなく、ただ、誤りを訂正するという調子で淡々と口を挟んだ。
    「私は目が見えませんが、視界は完全な闇に覆われていると言う訳ではないんです」
    「というと?」
     それが和解の糸口かはともかく、ヘレナが自ら利いた口に、リッパーは芝居めいて上機嫌な口調で続けながら、腕の中の彼女の顔を覗き込んだ。
     眼鏡の奥の薄ぼけた印象の目は、それが実質的に機能していないことを悟らせない程度に動き、リッパーの身に着ける、縦に長細く、今は衣装と合わせられた淡いピンク色の、骸骨めいた仮面を見る。しかし、そのようにして顔を過度に近づけられたところで、ヘレナが気まずげに言い澱むことはなかった。
    「私は、物の輪郭を目で見ることはできませんが、目の前が明るいか暗いかはわかるんです」
     「ですから、目の前が過剰に明るくならないために、サングラスが必要なんですよ」と、事も無げに説明を続けたヘレナに、リッパーは「それはそれは!」という大仰な相槌を付けつつその場でくるりと一回転ターンした後、暗号機の目の前で、彼女の身体を素っ気なく振り落とした。特段気分を害したわけではなく、それは習い性からの振る舞いだった。

    「私もね、光が苦手なんです。私たちは案外似ているのかもしれませんねぇ」
     急に地面に振り落とされ、打ち付けられた腰を擦りながら解読に戻るヘレナ・アダムスの手元を、背後から覗き込む――ともすれば、彼女を壁際に追いつめるような体勢で、リッパーは相変わらず愉快そうに続けた。
    「そうだ、いいことを思い付きましたよ。次の試合も、私はこの衣装を着て来ますから、あなたも、あのケーキの衣装を着て来て下さいよ。折角ですからね、眼鏡を作り直して差し上げましょう。何せあなたの「甘いケーキ」は、「私(パティシエ)」の作品なんですから、ね、いいでしょう?」
     パティシエはただ心を込めて労を尽くし、前代未聞の食材を取り入れながら驚く程美しい作品を作り上げる――というのは、リッパーに与えられた「パティシエ」の役柄、もとい、衣装に付随する謳い文句である。
    「その時にはね、これも、せっかくですから、あなたの顔のラインや鼻の形も、綺麗に整えて差し上げましょう。いい考えでしょう?」
     異様に近い背後からヘレナの解読を見守るリッパーの、左人差し指――ただでさえハンターと比較すると、人形めいて見える程体格の小さなサバイバーの身体相手であれば、それだけで首を容易に断ち切りかねない刃渡りの刃――で、小鳥の頭を撫でるように、頬の輪郭をつつ、と辿られたところで、ヘレナは特段何も言わなければ、これといって怯えたり、或いは微笑んで見せたり、といった、所謂可愛らしいような反応を示すようなことはなく、黙々と解読を続けた。

     この荘園で繰り返される試合の再現において、ハンターの「役割」はサバイバーを追い込み、脱落させることであって、それ以外の“約束”を守る必要は一切ない。
     諸般の事情により荘園に足を踏み入れた招待客(サバイバー)らの中でもヘレナは年若く、海千山千の経験を積んできたような者と比べれば、彼女はたしかに、随分と世間を知らない娘だったが、リッパーの分析通り、彼女は正しく才媛だった。
     およそ彼女を自分と対等の存在と見做してもいない、まして、思い付きの悪意を心底悪びれているわけでもない様子の“敵”からの、耳障りの良い音の連なり程度の意味合いしかもたない言葉を、逐一真に受ける程の娘ではないのだ。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE公共マップ泥庭

    ※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定
    一曲分(泥庭) 大勢の招待客(サバイバー)を招待し、顔も見せずに長らく荘園に閉じ込めている張本人であるのだが、その荘園主の計らいとして時折門戸を開く公共マップと言う場所は、所謂試合のためのマップを流用した娯楽用のマップであり、そのマップの中にもハンターは現れるが、それらと遭遇したところで、普段の試合のように、氷でできた手で心臓をきつく握られるような不愉快な緊張が走ることもないし、向こうは向こうで、例のような攻撃を加えてくることはない。
     日々試合の再現と荘園との往復ばかりで、およそ気晴らしらしいものに飢えているサバイバーは、思い思いにそのマップを利用していた――期間中頻繁に繰り出して、支度されている様々な娯楽を熱狂的に楽しむものもいれば、電飾で彩られたそれを一頻り見回してから、もう十分とそれきり全く足を運ばないものもいる。荘園に囚われたサバイバーの一人であるピアソンは、公共マップの利用に伴うタスク報酬と、そこで提供される無料の飲食を目当てに時折足を運ぶ程度だった。無論気が向けば、そのマップで提供される他の娯楽に興じることもあったが、公共マップ内に設けられた大きな目玉の一つであるダンスホールに、彼が敢えて足を踏み入れることは殆どなかった。当然二人一組になって踊る社交ダンスのエリアは、二人一組でなければ立ち入ることもできないからである。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE※日記のないキャラクターの言動を背景推理等から捏造
    ※捏造荘園設定

    マーサが香水使ってたらエブリンさん超怒りそう みたいな
    嫌いなもの:全ての香水の匂い(広義のウィラマサでエブマサ) チェス盤から逃れることを望んだ駒であった彼女は、空を飛び立つことを夢見た鷹の姿に身を包んでこの荘園を訪れ、その結果、煉獄のようなこの荘園に囚われることとなった。そこにあったのは、天国というにはあまりに苦痛が多く、しかし地獄というにはどうにも生ぬるい生活の繰り返しである。命を懸けた試合の末に絶命しようとも、次の瞬間には、荘園に用意された、自分の部屋の中に戻される――繰り返される試合の再現、訪れ続ける招待客(サバイバー)、未だに姿を見せない荘園主、荘園主からの通知を時折伝えに来る仮面の〝女〟(ナイチンゲールと名乗る〝それ〟は、一見して、特に上半身は女性の形を取ってはいるものの、鳥籠を模したスカートの骨組みの下には猛禽類の脚があり、常に嘴の付いた仮面で顔を隠している。招待客の殆どは、彼女のそれを「悪趣味な仮装」だと思って真剣に見ていなかったが、彼女には、それがメイクの類等ではないことがわかっていた。)――彼女はその内に、現状について生真面目に考えることを止め、考え方を変えることにした。考えてみれば、この荘園に囚われていることで、少なくとも、あのチェス盤の上から逃げおおせることには成功している。
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    @t_utumiiiii

    DOODLEクリスマスシーズンだけど寮に残ってる傭兵とオフェンスの象牙衣装学パロ二次妄想ですが、デモリー学院イベントの設定に準じたものではないです。
    the Holdover's Party(傭兵とオフェンス ※学パロ) 冬休み期間を迎えた学園構内は火が消えたように静かで、小鳥が枝から飛び立つ時のささやかな羽ばたきが、窓の外からその木が見える寮の自室で、所持品の整理をしている――大事に持っている小刀で、丁寧に鉛筆を削って揃えていた。彼はあまり真面目に授業に出る性質ではなく、これらの尖った鉛筆はもっぱら、不良生徒に絡まれた時の飛び道具として活用される――ナワーブの耳にも、はっきりと聞こえてくる程だった。この時期になると、クリスマスや年越しの期間を家族と過ごすために、ほとんどの生徒が各々荷物をまとめて、学園から引き払う。普段は外泊のために届け出が必要な寮も、逆に「寮に残るための申請」を提出する必要がある。
     それほどまでに人数が減り、時に耳鳴りがするほど静まり返っている構内に対して、ナワーブはこれといった感慨を持たなかった――「帝国版図を広く視野に入れた学生を育成するため」というお題目から、毎年ごく少数入学を許可される「保護国からの留学生」である彼には、故郷に戻るための軍資金がなかった。それはナワーブにとっての悲劇でも何でもない。ありふれた事実としての貧乏である。それに、この時期にありがちな孤独というのも、彼にとっては大した問題でもなかった。毎年彼の先輩や、或いは優秀であった同輩、後輩といった留学生が、ここの“風潮”に押し潰され、ある時は素行の悪い生徒に搾取されるなどして、ひとり一人、廃人のようにされて戻されてくる様を目の当たりにしていた彼は、自分が「留学生」の枠としてこの学園に送り込まれることを知ったとき、ここでの「学友」と一定の距離を置くことを、戒律として己に課していたからだ。あらゆる人付き合いをフードを被ってやり過ごしていた彼にとって、学園での孤独はすっかり慣れっこだった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE象牙衣装泥庭二人とも怪我してるみたいで可愛いね🎶という趣旨の象牙衣装学パロ二次妄想(デモリー学院イベントの設定ではない)です
    可哀想な人(泥庭医 ※学パロ) 施設育ちのピアソンが、少なくとも両親の揃った中流階級以上の生徒が多いその学園に入学することになった経緯は、ある種“お恵み”のようなものであった。
     そこには施設へ多額の寄付したとある富豪の意向があり、また、学園側にもその富豪の意向と、「生徒たちの社会学習と寛容さを養う機会として」(露悪的な言い方になるが、要はひとつの「社会的な教材」として)という題目があり、かくして国内でも有数の貧困問題地区に位置するバイシャストリートの孤児院から、何人かの孤児の身柄を「特別給費生」として学園に預けることになったのだ。
     当然、そこには選抜が必須であり、学園側からの要求は「幼児教育の場ではない」のでつまりはハイティーン、少なくとも10代の、ある程度は文章を読み書きできるもの(学園には「アルファベットから教える余裕はない」のだ)であり、その時点で相当対象者が絞れてしまった――自活できる年齢になると、設備の悪い孤児院に子供がわざわざ留まる理由もない。彼らは勝手に出ていくか、そうでなければ大人に目をつけられ、誘惑ないしだまし討ちのようにして屋根の下から連れ出されるものだ。あとに残るのは自分の下の世話もおぼつかないウスノロか、自分の名前のスペルだけようやっと覚えた子供ばかり――兎も角、そういうわけでそもそも数少ない対象者の中で、学園側が課した小論文試験を通ったものの内の一人がピアソンだった。
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    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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