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    @t_utumiiiii

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    ※謎時空探偵パロ(1990年代を想定)
    Mr.ミステリーが男やもめのレオ・ベイカーの依頼を受けて失踪した娘の行方を探す二次妄想です(還…パロ)

    弁レオが「友人」関係だった頃を回想するレオの話です

    🕯🕯 「親愛なるレオ」という書き出しから始まる、丸みを帯びた女手の文字がつらつら並べられたその置き手紙――あなたがこの手紙を見つけても、喜ばないことはわかっています。むしろ、あなたは激怒することでしょう。フレディが私にプロポーズしました。そして、私はそれを受け入れました。云々――を目にした時、レオの脳裏に瞬いたのは、リサ一歳のバースデーパーティーの記憶だった。

     眠たがるリサを寝かしつけるために、あの女、彼女が――マーシャが、幼い娘を抱いて寝室へ向かうのを見送ったあと、彼のビジネスパートナーであり、その頃のレオは――何となれば、その手紙を目にし、書かれている内容を理解するその瞬間まで――“友人”と思っていたその男は、何食わぬ態度で『お前、これからが頑張り時だな』と言った。
     言葉の真意を汲み取れなかったレオがきょとんとしながら言葉の続きを待っていると、程無くして、まるで意図が伝わっていないことを察したフレディは、薄いため息を吐きながらいかにも嘆かわし気に自分の額を押さえ、そのついでに中指で眼鏡のブリッジを押し上げながら『……子供は何かと金がかかるだろう』と、祝いの場だからとことあるごとに注がれたワインで彼も多少酔っているのか、大袈裟に聞こえる程度に声を高くして言った。
    『それにあの子が、将来何をしたいと言い出すかわかったもんじゃないだろう? まあ、女の子だからな、たかが知れているのかもしれないが……いや、これからはわからんぞ。女が飛行機に乗る時代だからな……お前も、あんまりのんびり構えていられないんじゃないか?』


     当時のフレディは、工場経営者であるレオの良きビジネスパートナーだった。職業柄か流石に諸々と抜け目がなく、何かとどんぶり勘定で済ませてしまいがちなレオの経営の見通しに、法律上、「法人格」として保つべき体面という目線から、諸々の助言や指摘を授けた。彼の鋭利ともいうべき視点や知性、生き馬の目を抜くような機転といったものは、これまでレオの目の前に見えていたシンプルな人生――手を動かし、作った分を売って、それを求める人々の幸福に貢献するという素朴な有り様――にはないものだった。
     レオはその男のことが好きだった。弁舌の巧みな栗毛の男。彼は賢く有能であり、時に他人を小馬鹿にした態度を取りこそすれ、ビジネスパートナーであるレオに対しては、常に親切だった。レオが本来経営相談を持ち掛けるにあたって管理・整理しておく帳簿が整っていない様を見ると、その男は深々と眉頭を寄せた苦々し気な渋面で溜息さえ吐いて見せながら、『お前は顧客だから、ここは俺が面倒を見てやるが……』というようなことを言ったかと思うと、フンと高慢に鼻を鳴らして帳簿を確認し始める。彼の手で書かれ並べられる数字は、レオからすると恐ろしくきめ細やかだった。そして、先日新聞に掲載されていた契約に関するコラムを見た彼が、契約外のことをいきなり要求する輩はそもそも「契約」を結ぶ精神の段階にない幼稚なやつだ、などと悪しざまに言っていたことを思い出すにつけ、これこそまるで契約外のことをさせているのではと思い至るといよいよ気の引けたレオが『出直す』といくら言ったところで、彼は帳簿を離さなかった。
     フレディの第一印象は親切で有能、そして、多少気心の知れたような仲になるとやはり有能で、そうであるがゆえに皮肉っぽく、しかし親切、それ以上に、その男は仕事熱心なのだとレオは理解していた。フレディは仕事熱心であり、故に、クライアントには忠誠を尽くすよう振舞うのだと――実のところ、レオはフレディの言う事の半分も理解できないことが多かった(これは何も、レオが殊更に愚鈍だったというわけではない。彼らの専門領域は大きく異なっていた)が、その心意気はレオにも理解できた。彼が仕事熱心な男であると、レオはよく理解していた。そのように信じていたと言ってもいい。彼はそれを強く確信していた。少なくとも、そう理解しているつもりになっていた。


    『一人でも大変なんだから、これから二人三人とこさえるんだったら、お前もこれまでのようにはいかないだろう……』
     何を言い出すでもなくきょとんとし通しているレオを相手に、フレディはやれやれと言いたげに肩を竦めながら、初対面の時の、心なしか人のよさそうな笑顔――当時から、彼の目つきは怜悧と言って差し支えない程鋭いものだったのだが、彼は歯並びが悪く、前歯がやや飛び出ているところが愛嬌めいて、不思議と脅威のない顔立ちを印象付けていた――からは考え付かないような、しかし、当時のレオは「打ち解けた友人に見せるような」と理解していた、口角だけをにやっと引き上げ、冷笑めいて見える程に皮肉っぽい笑い方をすると、ペンだこの他は目立った傷のない白い手でレオの肩を叩いた。
    『がんばれよ、“お父さん”』
     それについ、背筋の伸びる心地で息を詰めたレオの仕草に気付いたフレディは遂に噴きだし、レオの肩口を二度三度と軽く払うように叩きながら背を丸めて笑っていたかと思うと、歪んだ口角から笑いの余韻が消え切らない様子で顔を上げながら『……まあ、あまり心配するな』と、気安さのある柔らかな声色で続けた。
    『お前には、俺がついているからな』
     その言葉は当時のレオにとって、この上なく頼もしいものだった。熱意のある経営の専門家、彼にとってこの上なく頼もしい友人が、レオの将来設計に思いを巡らせ最良のプランを約束してくれるのだ、と。


     投資失敗の果てにある経営者の末路に関する新聞記事見るたび、あの男は『考えなしが金をつぎ込むからこうなるんだ』と嘲笑った。言うことはもっともだとは思いながらも、やはりそれを聞いていていい気分はしないレオが、(そうやって人の不幸を悪し様に言って捨てるやり方は良くない)というようなことを言って窘めたとき、皮肉っぽく笑うあの男は、何と言ったか――『まあ、あまり心配するなよ』『お前には俺がついている』ドジを踏む前にどうにかしてやるさ、と続く言葉は、それを耳にしたその時には、いかにも頼もしく響いたものだった。何せ実のところ、レオは経営の何たるかというものを、己が熟知しているという自信はなかったから……。


     これまで見たことのない桁数の負債、原因不明の病に苦しむ娘、そして、夫を信じひたすらに夫を支えるべき存在である妻の離反。手に取った手紙を握りつぶしながらレオは、彼の“友人”が、工場の経営転換を進めた時の顔を思い出そうとしていた。
     彼を、信頼のできる友人だと思っていた。仕事熱心な男、頼もしい友人、フレディは軍需工場の買収をこう請け合った。
    『無論リスクはあるが、その上でも、これが最良のプランだろう』
     その時、あの男はどんな顔をして、間抜けな俺を嘲笑っていたのか? それを考えるにつけ、レオの頭は、それこそ血管が内側から焼け爛れるように痛み、熱くなった。
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    Replies from the creator

    @t_utumiiiii

    DOODLE弁護士の衣装が出ない話(探偵と弁護士) ※荘園設定に対する好き勝手な捏造
    No hatred, no emotion, no frolic, nothing.(探偵と弁護士) 行方不明となった依頼人の娘を探すため、その痕跡を追って――また、ある日を境にそれ以前の記憶を失った探偵が、過去に小説家として活動する際用いていたらしいペンネーム宛に届いた招待状に誘われたこともあり――その荘園へと到達したきり、フロアから出られなくなってしまった探偵は、どこからが夢境なのか境の判然としないままに、腹も空かず、眠気もなく、催しもしない、長い長い時間を、過去の参加者の日記――書き手によって言い分や場面の描写に食い違いがあり、それを単純に並べたところで、真実というひとつの一枚絵を描けるようには、到底思えないが――を、眺めるように読み進めている内に知った一人の先駆者の存在、つまり、ここで行われていた「ゲーム」が全て終わったあと、廃墟と化したこの荘園に残されたアイデンティティの痕跡からインスピレーションを得たと思われる芸術家(荘園の中に残されたサインによると、その名は「アーノルド・クレイバーグ」)に倣って、彼はいつしか、自らの内なるインスピレーションを捉え、それを発散させることに熱中し始めた(あまり現実的ではない時間感覚に陥っているだけに留まらず、悪魔的な事故のような偶然によって倒れた扉の向こうの板か何かによって、物理的にここに閉じ込められてもいる彼には最早、自分の内側に向かって手がかりを探ることしかできないという、かなり現実的な都合もそこにはあった。)。
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    recommended works

    @t_utumiiiii

    DOODLE #不穏なお題30日チャレンジ 1(2).「お肉」(傭オフェ)
    ※あんまり気持ちよくない描写
    (傭オフェ) ウィリアム・ウェッブ・エリスは、同じく試合の招待客であるナワーブと共に、荘園の屋敷で試合開始の案内を待っていた。
     ここ数日の間、窓の外はいかにも12月らしい有様で吹雪いており、「試合が終わるまでの間、ここからは誰も出られない」という制約がなかろうが、とても外に出られる天候ではない。空は雪雲によって分厚く遮られ、薄暗い屋敷の中は昼間から薄暗く、日記を書くには蝋燭を灯かなければいけないほどだった。しかも、室内の空気は、窓を締め切っていても吐く息が白く染まる程に冷やされているため、招待客(サバイバー)自ら薪木を入れることのできるストーブのある台所に集まって寝泊まりをするようになっていた。
     果たして荘園主は、やがて行われるべき「試合」のことを――彼がウィリアムを招待し、ウィリアムが起死回生を掛けて挑む筈の試合のことを、覚えているのだろうか? という不安を、ウィリアムは、敢えてはっきりと口にしたことはない。(言ったところで仕方がない)と彼は鷹揚に振る舞うフリをするが、実のところ、その不安を口に出して、現実を改めて認識することが恐ろしいのだ。野人の“失踪”による欠員は速やかに補填されたにも関わらず、新しく誰かがここを訪れる気配もないどころか、屋敷に招かれたときには(姿は見えないのだが)使用人がやっていたのだろう館内のあらゆること――食事の提供や清掃、各部屋に暖気を行き渡らせる仕事等――の一切が滞り、屋敷からは、人の滞在しているらしい気配がまるで失せていた。
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