金色、名月、月見酒満ちた月を見ると、思い出す刀がいる。
その髪は、日の光を浴びて輝く、月の色をしている。
◇◇◇
今日は中秋の名月、満月らしいから月見酒でも、と大倶利伽羅を誘った。
ここは綺麗に月が見えるから、と自室に呼んだが、肝心の月は、今は大部分が雲に隠れてしまっている。
これでは何のために誘ったのかわからない。
ひとつ、ため息をついてお猪口の酒をあおる。
もう一杯注ごうとして、ふと、大倶利伽羅がこちらを見ていることに気がついた。
「……どうした」
「…………いや、こういう月見酒も悪くない、と思ってな」
そのまま月の方に目をやった大倶利伽羅は、目を細めてそう言った。
月が出てきたのか、と思い空に目をやるも、見えるのは月光を受けて光る雲と、わずかに見える月の端。
「これでは月見酒ではなくただの酒盛りじゃないか?」
「……はは、そうかもな」
大倶利伽羅は口の端を緩めてくつくつと笑うのみ。
何がそんなにおかしいのだろうか。それとも相当酔っ払っているのだろうか。
……いや、大倶利伽羅に限って前後不覚になるまで酔うなんてそんなことはない。実際、宴会の翌日でも普通に過ごしている。
飲む量は考えているんだ、とはいつ聞いたのだったか。
と思考を飛ばしていると、不意に大倶利伽羅がこちらに手を伸ばしてきた。
その手は布を落として、さらり、と頬を撫でる。
そのままふわ、と笑って、
「ああ、やはり綺麗な月だ」
瞬間、思考が止まった。
こちらをじっと見つめるとろりとした金色が言わんとしていることを正しく理解した俺は、いつもの常套句を吐きながら、落ちた布を被り直して布大福になったのだった。
満ちた月を見ると、思い出す刀がいる。
その目は、苛烈で、でも優しい、月の色をしている。
◇◇◇
今日は中秋の名月、満月らしいから月見酒でも、と山姥切国広を誘った。
ここは綺麗に月が見えるから、と昔言われたことを思い出し、彼の自室に酒とつまみを持っていった。
綺麗に丸い月を見ながら、お猪口の酒をあおる。
もう一杯注ごうとして、ふと、国広がこちらを見ていることに気がついた。
「…………どうした」
「……いや、やはり月見酒は良いものだと思ってな」
ふわり、微笑む国広は、じっとこちらを見つめるばかり。
布のない彼としばし見つめ合い、唐突に理解する。
「…………あんた、言うようになったな」
「そうか?あんたがあんたの月を愛でるように、俺も俺の月を愛でているだけだが?」
月を見て口の端を緩める国広は、本当に去年ここで同じく月見酒をした国広と同じなのだろうか。
おもむろにこちらを振り返る国広は、何が面白いのかくつくつと笑っている。
「はは、月が綺麗だな、伽羅?」
「……あんたと一緒に見るからだろうな、国広」