あるよく晴れた昼下がりのこと。
今日のおやつは何にしようか、と自室のお菓子を思い浮かべながら廊下を歩いていたら、山鳥毛さんに呼び止められた。
「小鳥、少しいいか」
「あ、山鳥毛さん。どうしたんです?」
「いや、大した用事ではないのだが。小鳥はいつも頑張っているだろう?」
「は、はい?」
「ささやかだが、これを贈らせてくれ。休憩の供にでもするといい」
そう言って、山鳥毛さんは手に持っていた紙袋を私に渡す。
そして、そのまま私がありがとうを言う間もなくその場を去ってしまった。
……何だったんだろう?
自室に戻り、とりあえず貰った紙袋を開ける。
中身は……
「箱……?」
開けてみると、銀色の小さな丸い缶が出てきた。
そこでやっと、何を贈られたのか理解する。
これ、紅茶だ。
私は、紅茶は……好きでも嫌いでもない。
苦い、渋い感じはあまり得意ではないけれど、ミルクティーにしてしまえばそこまででもないから普通。
……ミルクティーは邪道?そんなの知らない。私はどうにかして紅茶飲みたい時があるんだから放っておいてほしい。
あ、だから休憩のお供なのか。ちょうどいいや、手持ちのお菓子には市販の焼き菓子がまだあったはず。一緒に食べよう。
缶からティーバッグを取り出し、お気に入りの赤いマグカップに入れてポットのお湯を注ぐ。
蓋をして2分待つ間に、お菓子入れにしている籠の中からマカロンを探す。
2分経ったら蓋を外してティーバッグを取り出す。あんまり入れてると苦味と渋味が出て私が飲めなくなるからこれは私が美味しく飲むための手段。
この紅茶はどんな色かな?と覗き込んで、
「わぁ……」
思わず感嘆の声を上げた。
赤ともオレンジとも言えない、綺麗な水面がそこにはあった。
緋色、って言うのかな。
どことなく、贈り主の瞳に似てる……
そこまで考えて、思いっきり首を振る。
いやいやいや。私は何を考えている?
思考からの逃避にクッキーをかじる。美味しい。
それから紅茶を飲み……
「……熱っ!?」
私は猫舌なのだ。ここまで熱いと飲めない。マグを持った時点で気がつくべきだったな、と思いつつ、ひりひりする舌と残る味に眉を顰めた。
これは、このままでは飲めないやつだ。
苦味と渋味がこれは大人の味なんだ、と告げてくる。
ふと山鳥毛さんの雰囲気、と思ってしまって体温が上がるのを感じた。
慌てて部屋の戸や窓が開いていないか確認する。
開いてなかった。よかった。
でも、このままでは絶対に飲みきれないので、もうひとつマグカップを取り出して紅茶を半分ほどに減らし、冷たいミルクを9分目くらいになるまでなみなみと注ぐ。
ずいぶんと白くなった水面を見て、山鳥毛さんの髪色みたい、と無意識で思っていることに気付き、これはダメだな、とため息をついた。
そう、私は山鳥毛さんのことが好きなのだ。
今のように、ふとしたことで意識してしまうくらいには。