ココイヌ/東リ『姉の制服』
脚の上を剃刀が滑る感触がむず痒かった。
「動くなよ」
思わず身じろぎをすると、足首を強く掴まれる。跪いた一に下から睨め上げられ、バスタブに腰掛けた青宗は眉根を寄せることで返事をした。
しかし一は気にした様子もなく作業に戻る。てのひらで丁寧に青宗の脛に泡を伸ばすと、再び剃刀を当てる。ゆっくりと動かして毛を剃ると、洗面器に貯めたぬるま湯につける。その繰り返し。青宗は手持ち無沙汰に、一の慣れた手つきを見ていた。彼の捲り上げたズボンの裾が濡れて色が濃くなっている。自分でやると言ったが、お前はすぐ肌に傷をつけると却下された。
「イヌピーは毛、薄いよな。色素も薄いし……」
シャワーをかけて汚れを落とし、すべらかになった青宗の肌を指でなぞりながら、一がぽつりと零す。あまり気にしたことがなかったから、青宗は黙っていた。それきり一は黙り込んでしまったが、何を考えているかは容易に知れた。
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