無題リンクとリーバルは近所に住む幼馴染同士の5歳の男の子だ。リンクの方が半年ほど年上のお兄ちゃんで、来年には同じ小学校に通うことが決まっている。
「俺、大きくなったらリーバルをお嫁さんに貰うから!」
リンクは定期的にそう宣言しており、お父さんもお母さんもその度「じゃあ頑張りなさい」と言っている。別に子供の言うことだから適当に流してるとかそういうわけではなく、2人ともリンクが本気なのを承知しているので反対しても無駄だとわかりきっているだけだった。3歳ぐらいの時にはじめてリンクが「りばると結婚する!」と言いだした時は「まあ子供の言うことだしね、すぐ変わるだろ」と2人とも思っていたのだが半年経っても1年経ってもリンクの決意は変わらず、七夕の短冊にも保育園で聞かれる将来の夢の欄にも必ず「りばるとけっこん」と書くのでそのうち本気だと分かったのだった。
リンクはリーバルが孵化した瞬間を覚えていた。その時リンクは生後半年の、つかまり立ちすらできない赤ん坊でしかなかった。だからお父さんもお母さんもリーバルのお父さんお母さんも「テレビか動画で見たのを勘違いして覚えているんだろう」と本気にしていない。でもリンクは間違いなく覚えているのだ。リーバルが孵化した瞬間を。
その時からずっと、この子と結婚しよう、リンクはそう決めていた。
一方リーバルの方も「りばる、りんくと結婚すゆ」と言っている(リトの雛はハイリア人に比べ言葉の発達が遅い傾向にある)。はじめはリンクに流されて訳も分からず言ってる感はあったが、リーバルのお父さんとお母さんはリーバルが本気でリンクと結婚するつもりだということを知っていた。
というのも、先日、ある事件が起こったからだ。
その年のクリスマス、リンクとリーバルはお父さんお母さんからクリスマスプレゼントを買ってもらうため、8人揃って車で30分ほどの距離にあるおもちゃ屋さんに遊びに来ていた。子供たち2人は往路では揃ってリーバルのおうちの車に乗せてもらい、復路はリンクのおうちの車に乗せてもらった。普通子供が2人揃えば収集がつかなくなるので引き離したくなるのだが、この2人、引き離せばこの世の終わりのように泣いてしまうので一緒に乗せてもらう方がそれぞれの親にとって楽なのだ。それに2人揃えばずっとお喋りしてくれるので親が相手をしなくていいという利点はある。
そんな感じで到着したおもちゃ屋は郊外によくあるチェーン店で、駐車場が充実して総面積もかなりの広さだった。
おもちゃ屋というものは幼児にとって脳内アドレナリンがフルスロットルで花開くするこの世の桃源郷である。しかしリンクは他の子供と違って(一番そうしそうではあるが)おもちゃ屋で興奮のあまり走り回ったり叫んだりすることはない。お父さんお母さんにヤバイぐらい叱られるし、何よりリンクには自分より小さいリーバルをエスコートしてあげるという尊い使命があるのだ。
リトの雛というのは確かに飛行に関しては他の民族より優れているが、歩行に関しては幼い頃は他民族に大きく後れをとる傾向がある。鉤爪がつるつるとした床を歩くのに向いてないうえに、足が短くて歩幅が狭い。気を抜いたらあっという間に置いて行かれるし、体も軽いのではしゃぎ回るハイリア人やゲルド族の子にぶつかられて転んでしまうことが多い。
リーバルは運動神経抜群の雛ではあったが、例にもれず他民族の子供がたくさんいる場所は苦手だった。でも今日はリンクがいる!リンクはいつも自分の翼を握って一緒に歩いてくれるし、いつも特別に自分だけに優しい。リーバルはリンクがいれば安心だったし、リンクも幼い騎士道精神を発揮して大好きなリーバルを守れるのが誇らしかった。
「リーバルちゃん、今日はクリスマスプレゼント選ぶのよ、欲しいものなんでも選んでいいからね」
リーバルのお母さんは大人たち4人の中で一番天然な人だった。名家の娘でお見合い結婚して専業主婦になったから一度も働いたことがなく、すごくおっとりしている。世の中に悪い人がいるのは理解しているがそれはあくまで遠い世界の話で、自分の周りにいる人は全員善人だと信じている。良い人ではあるがある意味厄介な性格をしていた。しかし、グラタンとクッキーを作るのが上手でリーバルにとっては最善のお母さんと言えた。
「リンク、あんたも絶対今日で決めるのよ!」
一方リンクのお母さんはバリバリのキャリアウーマンでいつもちょっと洒落たスーツを着ている人だ。リンクに大量の習い事をさせたがっているが、お習字教室もソロバンもリンクは秒で脱走してしまった。しかし諦めることなくリンクを剣道道場に入れたら、併設されている弓道道場でリーバルが弓を習っていたので唯一あ剣道だけ続けることが出来ている。なのでリンクのお母さんはリーバルのお母さんにとても感謝しているのだ。それにこのお母さん同士、性格が全く違うのに妙に馬が合って仲が良かった。
お父さん同士は特に特筆することはなかった。いまどきのお父さんらしく家事にも育児にも仕事にもちゃんと本気の、ちょっとがんばりすぎているお父さんであるのは間違いない。
「「はーい」」
リンクもリーバルもおもちゃ屋をきょろきょろ見渡し何を買ってもらおうか、何が一番自分たちを楽しませてくれるか小さい頭で必死に考えた。これは時間がかかるな……と思われたが、意外にプレゼントは割とすぐに決まった。
「おかあさん、りばるね、プレゼントこれにすゆ!」
「俺も!俺も!」
「あら、なあに?」
リンクとリーバルが一緒に持ってきたのは「ポロロンクエスト」という子供向けのゲームソフトだった。よくある異世界RPGでパッケージにはエルフや妖精、不思議な生き物がたくさん描かれていて、いかにも子供心をワクワクとくすぐりそうな世界観だった。
「りばるりばるがね、これ選んだの!」
「あらそう、どこがよかったの?」
「あのね、絵!」
確かにポロロンクエストは温かい水彩画風のイラストで絵本のような雰囲気だ。キャラクターの等身も低くてすごく可愛らしい。リーバルはアニメみたいな絵柄より、こういった温かい絵を好む傾向があった。
「俺ね、剣持ってるからこれにした!」
リンクはそう主張した。確かに剣を持つ男の子キャラクターもいる。リンクははじめこそリーバルに釣られて剣道を続けていたが、そのうちコレが自分に向いていると分かったのか自然に剣道に夢中になりはじめていた。だから漫画やアニメでも剣を持つキャラクターに感情移入する傾向があった。更に誰かを守る騎士という設定だったら、リンクは大体いつもそのキャラを好きになって必殺技を一緒にマスターする。
「じゃあこれね」
「リンク、ほんとにこれでいいのね?」
「「うん」」
子供たちはきれいにパッケージしてもらったゲームにリンクは緑のリボン、リーバルは青いリボンをかけてもらい、上機嫌で一緒に車に乗っておうちへと帰って行った。
「リーバル、ゲーム一緒にやろうね!」
「ウン、りばる、りんくと一緒にゲームやる!ピィ」
帰りにコンビニでソフトクリームを買ってもらい、口の周りを揃ってベタベタにしながら未来の恋人同士はそう語り合っていた。