それなら先輩は宇宙一かわいい(仮) 文化祭の準備真っ最中。
クラスの出し物である演劇のため、背景に木材を打ち付けていると、制服のポケットに入れたスマホが震えた。
本部からの連絡だろうか。と、片手で木材を押さえながら急いでスマホを見ると、犬飼先輩からのメッセージ。
『そっち、終わった?』
教室を見渡してから、そのままの体制でメッセージを返す。
『まだ、ですけどあと三十分くらいです』
『りょーかい。じゃ、三十分後に視聴覚室ね』
待ち合わせて本部に向かうだけなら、玄関とかで良さそうなのに、と首を傾げつつ『辻、了解』と返信して、スマホをポケットに仕舞った。
カラカラと音を立てて視聴覚室の戸を開ける。
電気の付いていない薄暗い教室に差し込む太陽の光で、窓際に人がいるのが分かった。
「先輩?」
「おそーい」
「すみません、後片付けが思いのほか時間かかりました」
言い訳をしつつ、窓際へと足を進める。
窓は開いているらしく、風に靡くカーテンとスカートのシルエットが眩しーー
ん?スカート??
あと三歩のところでぴたりと足を止めた俺を、犬飼先輩は見逃さなかった。
「辻ちゃん、はやく」
両手を広げて楽しそうに先輩が笑う。
影になっていて表情は見えないのだけど、きっと笑っているのだろう と、少しむっとしてから仕方なくそこに収まる。
「なんで」
「ん?これ?」
ひらひらとスカートの裾を広げて見せる犬飼先輩の肩に、頭をぶつけるように頷く。
「ウチの出し物、喫茶なんだよね」
無言でまたひとつ頷くと、先輩が続けた。
「接客は女子がってなったんだけど、ウチのクラス女子少なくてさ。イケそうな奴、女装させることになっちゃってーー」
自然とため息が漏れる。
「で、せっかくだし辻ちゃん呼んでみた。」
犬飼先輩は、まだ肩に貼り付いている俺の頭を両手で起こして、どう?と聞いた。
はっきりと見える喉仏、スカートから伸びた足は筋張った筋肉がしっかりと付いている。
完全に男の人なのだけれど、悔しいことに可愛いと思ってしまって、顔が熱くなっていくのが自分でも分かってしまった。
ふふん、と犬飼先輩が満足げに笑う。