テディベアにお願い「なんでホワイトデーにテディベア?」
ホワイトデー用のグッズ撮影ということで渡されたのは可愛らしいテディベアだった。
「普通はクッキーとかキャンディとかですよね。」
辻も不思議そうにしている。
「『テディベアは自分の分身』らしいですよ。」
端末で検索した隠岐が教えてくれた。
「なるほど。ファンのところへは行けないからテディベアを代わりにしてねってことか。」
すでに影浦は撮影を始めている。スタッフが盛り上げようと声をかけているが、たぶん笑顔を向けてはもらえないだろう。
「お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様です。」
防衛任務より疲れる仕事を終えて、控室で着替える。
「あれ、辻ちゃんこの子連れて来ちゃったの?」
犬飼が椅子の上に行儀良くおすわりしているテディベアを見つけて聞いた。
「撮影終わった時に、それ受け取ってたのが女性のスタッフさんで、その……。」
「あー。渡せなかったんだ。」
「着替えたら他のスタッフさんに渡します。」
「いいよ、おれ持ってってあげる。」
「え?」
「今日女性のスタッフさん多いし、わざわざ男性のスタッフさん探すよりそっちの方が早いでしょ。」
キミも早くお家帰りたいよね?とテディベアの右腕を持ち上げて手を挙げさせる。
着替え終わった辻はテディベアを持ち上げると自分の顔の前に掲げて言った。
「犬飼先輩、いつもありがとうございます。よろしくお願いします。」
言い終わるとテディベアも一緒に頭を下げる。
受け取った犬飼が同じように自分の顔の前にテディベアを持ち上げた。
「『いいんだよ、辻ちゃん。澄晴くんは辻ちゃんのことが大好きだからね。』」
テディベアの柔らかい手が辻の頭にぽんと触れる。
「じゃ、返してくるね。」
テディベアの後ろから笑顔を覗かせると、犬飼は控室を出て行ってしまった。
「俺も、です。」
代わりに伝えてくれるテディベアはもう帰ってしまったので赤くなった顔は隠せなかった。
END