Storm「俺は、結構好きだ」
ヒュンケルは呟いて、ラーハルトの頭頂部に鼻を埋めた。
埃っぽい山小屋の寝台で。
酢漬けのニシンみたいに、二人ぴったりとくっついて。
蒼い額に皺が寄る。
「雷が?」
と、ラーハルトは絞り出すように言って、シーツをたくし上げた。
「そう」
ヒュンケルは彼の長い耳を覆うように腕を回すと、ぷあ、とあくびをした。
嵐の夜は、いつもこうだ。
ラーハルトは三度目の雷鳴で、必ず相棒のベッドに忍び込んでくる。慣れたもので、ヒュンケルは何も言わずに、大きな猫を抱きしめる。
互いの過去、心の傷については、過剰に踏み込まない。
旅を続けるうちに出来上がった、暗黙のルールだった。
子供特有の、水蜜桃みたいに柔らかな精神。
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