【ツルツルのみかん】※そしかい後
「降谷さんお一ついかがですか?」
僕の家のこたつで風見と一緒にぬくぬくする。
たまの休みを恋人と合わせてのんびりするというのはいいものだ。まあ、警察官という仕事柄や立場上、完全にオフにすることは出来ないが、自宅で酒も飲まずにのんびりするくらいは許されるだろう。
風見は僕の向かい側に座り、一生懸命みかんの筋取りをしている。筋にも栄養が……という話は前にして喧嘩になったので口には出さない。
みかんは今日風見と過ごすと決めてからスーパーで袋入りのものを買ってきていた。こたつにはみかんだから、という安直な考えだが、風見も喜んでくれたからいいだろう。
「貰おうかな」
みかんの袋は風見が独り占めしている。というか、僕はあまり食べないからこたつに入った時にひとつ貰って食べたので、袋ごと風見に渡したのだ。あれからしばらく経ったしもう一つくらい貰ってもいいだろう。
そう思って手を伸ばすも……
「? ……風見?」
風見が袋からみかんを取り出して渡してくれるわけではないらしい。風見の真剣な眼差しは今筋を取っているみかんに向いたままだ。
空耳か? と思いながら、それでも食べる気になったからと身を乗り出してみかんの袋に手を伸ばす。
すると、サッと風見がこちらに手を伸ばしてきた。手にはキレイに筋が取られた一粒のみかん。ほんのり耳と頬を染めてこちらを見ているという事を考えれば、取るべき行動は一つだろう。
「あーん」
パクリと風見の手からみかんを食べる。風見を窺えば、頬を染めながらキラキラした目でこちらを見ていた。どうやら楽しいらしい。
「も、もう一ついかがですか?」
「貰おうかな」
風見が可愛くてにこにこと微笑んでそう言えば、風見はパッと顔を明るくさせてまた真剣にみかんの筋を取り始める。
大方『降谷さんに差上げるんだからキレイに剥かないと!』と思っていそうだが、生憎と僕はみかんの筋は取らない派。そこまで気にしなくてもいいのにな、と思いながらも、僕の為にと恋人が頑張ってくれているのだから、その姿を微笑ましく見守る。
しばらくするとみかんと向き合っていた風見の真剣な顔がパッと明るくなる。きっと風見が満足するくらいキレイに筋が取れたんだろう。思わず吹き出しそうになりながらもなんとか抑え、「降谷さん、どうぞ!」と言われて身を乗り出した。
筋が取れてツルツルになったみかんを風見の手から食べる。いつも食べるみかんとは舌触りが違って不思議な感じだが、風見が僕の為に手をかけてくれたみかんだからすごく甘くて美味しく感じる。
殺伐とした日々を過ごしていたから、こういうのんびりとした時間に憧れがあった。しかもそこに風見がいて、風見が手ずから剥いてくれたみかんを食べる。それの、なんと幸せなことか。
「風見」
「なんですか?」
「もっとくれないか?」
「! 良いですよ! ちょっと待っててくださいね!」
僕のお願いに嬉しそうに顔をほころばせた風見は、袋から新しいみかんを取り出していそいそと剥き始める。
その様子に『愛されてるなぁ』と実感しながら、今夜の夕食はちょっと豪華にしようと心に決めた。