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    ねるね

    @nernenigo

    成人済 おれはデプ(ガ)スパで行く

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    ねるね

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    NWH後がすぱくんとデプの話
    本にしたやつ再掲
    できてないけどできてるかんじのでぷがすぱ(冒頭のみ)

    #NWH
    #ピーター・パーカー3
    peterParker3
    #ウェガピタ
    wegapita.
    #デプガスパ
    depgaspa

    鶏鳴と周波数.

    ──やあ、親愛なるピーター1、ピーター2。聴こえるかい? 
     あれからしばらく経ったけれど、元気?きっと今頃は、いつも通り街を飛び回っているんだろうね。もちろん僕も……ええっと、そうだね。その、実は、僕の方は──

    「え、本当に持ってきたの?」
    「だってアンタが言ったんだろ。『デートには花だ』って」
    「僕、デートで花を貰うのは初めてなんだけど」
    「わお。嬉しいこと言ってくれるね」
    「その……よく考えた事なかったんだけどさ。花束って、この後はどうするのがベターなの?持って歩こうにもポケットも鞄もないし、この後もパトロールだし。それにここ、」 

     地上一〇二階だし。
     そう言った瞬間、強いビル風が嵐のように吹き上げた。ラッピングの紙とリボンがばさばさと荒々しく羽ばたきし、百ドルくらいしそうな大きな花束の何割かが、散り散りになって夜空を飛んでいく。

     ──ああ、愛する兄弟たち。
     僕は今、エンパイアステートの天辺で、デートを申し込まれています。

     * 

     事の始まりは、何気ない雑談だった。深夜のパトロールの途中、警察から傍受する無線も穏やかになってきて、そろそろそろそろ休憩しようかとビルの屋上に降り立った時だった。

    「よう、スパイディ!」

     掛けられた声に振り返る。薄ぼんやりした影が手を振っていた。暗くて、顔は見えない。街の灯りの届かない高層ビルの屋上は案外、月のない夜は闇が濃い。
     でも、彼が誰かは知っている。こんな時間にこんな場所で、僕に話し掛けられる相手はそういない。

    「やあ、ウェイド。毎度毎度、どうやってこんなところまで登ってきてるのさ?」
    「ここのドニーとは親友なんだ。社食はマカロニグラタンがお勧め」

     ウェイド・ウィルソン、お喋りな傭兵デッドプール。不死身の超回復持ちで、僕のパトロールを邪魔することを趣味にしている大きな問題児──彼も他の世界に複数いたりするんだろうか?考えるだけで頭と鼓膜が痛いな。
     ぶんぶんと勢いよく振られるその手には、古びたオーディオプレイヤーが握られている。どうやらお気に入りらしいそいつから今日も大音量で流される音楽が、ただでさえ騒がしい彼を更に喧しくしている。

    「今日のそれは何の曲?登場BGMのつもり?」
    「知らないのか?今日のは階段昇降の応援曲だ」

     曲も知らないし、階段昇降もしたことないし、さっきのドニーが誰かも知らない。その人がウェイドに脅迫されたりしてなきゃいいんだけど。
     咄嗟にそう思ってしまうくらいには乱暴なウェイドのことを、僕は最初、実はかなり警戒していた。いや、それ以前に人間を警戒していたのかもしれない。色々あった後だったから。
     だからだろうか?彼とは今でも会うたびに、ついつい皮肉の応酬ばかりしてしまう。

    「まったく、飽きもせずによく来るね。ここ、僕専用の特等席だったんだけど」
    「ちゃんと入場料は持ってきてるぜ?ホットドッグとハンバーガーとタコス。あとキティちゃんのシール」
    「僕のこと鳩か野良猫か五歳児だと思ってる?餌があればいいって話じゃないんだけど」
    「ちなみにお勧めはハンバーガーだ、冬季限定のふわふわオムレツな。デミグラスソース味の」
    「……ならまあ、いいかな」

     なのに何故だか、一緒にいることが多い。差し入れに釣られているのと、あと多分、数少ないスーパーパワー持ち同士ということで、なんとなく気楽なせいだろう。僕の周りには、僕ぐらいに変てこな奴なんて敵しかいない。可愛い末っ子の世界には、敵味方どちらも沢山いたみたいだけれど。あのグランドキャニオン大好きおじさんとか。彼は元気だろうか?

    「そういや、今日も大変だったみたいだな」
    「えーっと、銀行強盗三件とスリが五件。あと八匹のチワワに追われてた犬嫌いのひとを守って、それから脱走した熊を」
    「捕まえた?」
    「ううん。通りすがりのご老人が叩きのめしたやつを、動物園に運んできた」
    「そいつ仙人?ミュータント?右腕がサイボーグだったりする?」

     その人の終わらない昔話が今日一番の強敵だったと言うと、僕の戦果を聞いたウェイドはお腹を抱えて笑った。僕は鳴らない無線機を横目に、大袈裟に溜息を吐く。

    「あーあ。僕もたまには、悪い宇宙人とかと派手に闘いたいよ。イヤ、平和なのはいいんだけどね」
    「銀行強盗が一日三件も起きる街って、平和か?」
    「平和じゃないのに敵がしょぼいって?なにそれ、散々じゃないか」

     ぐんにゃりと顔を顰めると、ウェイドがハイハイとハンバーガーを差し出してきた。

    「俺ちゃんはアンタのそーいう、お茶の間との距離が近いとこが好きだけどね」
    「……………ありがと」

     訂正。僕が彼といるのは、多分、ウェイドが案外いいやつだからだ。
     もにょもにょとお礼を言いつつ、バーガーを受け取った。正面から褒められるのはちょっと照れる。そういえば、この前はピーター2に慰められたな。自分を卑下するのはよくない。僕は居心地の悪さにもぞもぞしながら話題を変えた。

    「そういやこの前、久々に恋バナしちゃったよ」
    「わお、青春じゃん」
    「だろ?って言っても僕はそういう青春とかって、ものすごくご無沙汰なんだけど」
    「そーなの?まあ別になきゃ死ぬってモンじゃないしな。アンタ忙しいし」
    「そうそう、スパイダーマンやって働いて生活してたら、どんどん縁遠くなっちゃってさ……まあ、」

     ふと、言葉を止める。胸の痛みと共に、脳裏に優しい笑顔が浮かんでくる。彼女が、僕の中から消え去ることは永遠にない。それを望むことも絶対にない。
     だからきっと、これまでの僕なら、『そういうのはもういいかな』と続けていたことだろう。その隣に、僕は諦めなかったよと微笑む、兄のような人がいなかったら。

    「……またいつか、って思ってる。いつかね」
    「へー。……んじゃ、俺ちゃんと青春してみない?」
    「へっ?」

     思わず落としそうになったバーガーを、慌てて掴み直す。危なかった。下の通行人の皆さんに、僕のオムレツとデミグラスソースがご迷惑をお掛けするところだった。いや違う、そうじゃなくて。なんだ?今なんて言われたんだ僕は?

    「あのさ、今、君ってひょっとして、」
    「好きです。俺ちゃんと付き合ってください」
    「……えええ」

     思わずぴょんと飛び上がる。顔が一瞬で熱くなる。マスクがあってよかった……いや、そうじゃない。

    「ごめん、ちょっと急すぎる。近所に卵買いに行ったら、急に前からカーニバルの大行列が押し寄せてきた気分」
    「急っていうか、俺ちゃんこれまでも割と好き好き大好き超愛してるって事あるごとに言ってきたつもりなんだけど。覚えてない?ついさっきも」
    「えっ……そうだっけ……」

     首を捻ってみても、たった数分前のことが思い出せない。そんなに僕の人生はお祭り騒ぎだったっけ?
     僕があまりに分かりやすく頭上にクエスチョンマークを浮かべていたからだろうか、ウェイドがやれやれと首を振る。

    「俺がアンタとこうやって並んで飯を食うようになって、もう結構経つ。年単位で経つ。そうだよな?」
    「そうだね、確かに」
    「三日に一度は会ってるし、会ったら少なくとも十回は言ってるぜ。さて何回だ?これでも急か?」
    「本当に一日平均十回かは検証の余地があるし有効数字を考えると」
    「ごめんストップストップ。俺ちゃんの論旨はそこじゃなくて」

     そもそも、とウェイドが僕の話をぶった斬る。

    「あのさあアンタ、今日一体どこんちのベッドからご出勤したか覚えてる?」
    「……………きみんち」

     思わず、顔を押さえて蹲った。ピーター2に言った「恋人はいない」という言葉は本当だ。でも、まあ、複雑なんだ。複雑なんだよ大人は。

    「アンタがずっと、あんまり青春気分じゃなかったのは知ってたさ。ていうか、現世にアンテナが向いてない感じがしてた。たとえベッドの中であってもな」
    「………」
    「だから俺もこれまで、幼稚園児のママゴトみたいなアプローチしかしてこなかったんだ」

     無理させる気はねえし、とウェイドが小さく付け足す。気付かなかった。彼の言う通り、僕という受信機はいつでもオフだった。もしかしてウェイドはそんな僕に、ずっと周波数を合わせようとしてくれていたのだろうか。

    「……いやちょっと待って。あの、君には出会い頭に散弾銃で撃たれたこともあったと思うけど。あれもアプローチ?ママゴトのつもり?負担じゃないと思ってる?」
    「エッ、アンタ相手なら水鉄砲でパチャパチャやるようなもんだろ?もちろんアプローチでママゴトだ。負担かどうかはアンタの受け取り方による」

     それはひとまず置いといて、とウェイドが傍に置くジェスチャーをする。勝手にどけるなよ。

    「そんなアンタが、何があったか知らないけど、折角その気になってるんだぜ?ちょっとくらい本気出してもよくない?」

     ウェイドがぐぐっと距離を詰める。お互いの息が掛かるくらい近く。思わずごくんと喉が鳴った。

    「こ、これでちょっとなの……?」
    「もちろん。まだ第二段階も第三段階もあるし、お望みなら最終形態の俺ちゃんもお見せしちゃう」
    「ちょっと待って……」
    「待つぐらい待つけど。もう結構待ってるし」

     ずいぶん待たせているようで悪いけれど、もうちょっと待ってくれなきゃ困る。だって、分からないことが多すぎる。

    「あのさ、付き合うって何するの?なんで付き合うの?定義は?」
    「それもケースによるだろ?締結した契約内容とかさ。パートナーシップに関して、アンタのご希望は?前はどうしてた?」
    「わ、分からない……」

     どうしたらいいかわからない。心臓が痛いぐらいに鳴っていて、もう少しで発作でも起こしそうだ。もしかして青春なんてものは、ティーンの強靭な心肺機能がないと耐えられないものなのかもしれない。
     どうしよう。昔の僕はどうしてた?

    「待って、僕の経験値、数年のブランクですっかり初期値に戻っちゃったみたい。今はもう生まれたてのヒヨコぐらいしかない」
    「それはなんとなく分かる。元気にピヨピヨ鳴いてそうだよな」
    「君の想像の十倍は酷い。まだ目も開いてなくてベソベソに湿ってて、頭に殻載っけてオバケみたいな顔してるやつだ」

     あの恨めしそうなやつ?と嫌そうに言いながら、ウェイドがヒヨコの顔をする。ちょっと似ていた。彼にもヒヨコ時代があったんだろうか。

    「俺ちゃん、こう見えて諦めは悪い方でね。時間が必要なら、アンタが立派な鶏になるまで待ってもいい。なあ、ヒヨコってどんくらいで成長するんだ?」
    「一般的には半年程度だけど、世の中には一生大きくならない雛もいるらしいよ。実験棟に行くと、購入記録もないのに夜な夜なピヨピヨと鳴き声が……」
    「それホラー?それとも次の映画のヴィランの話?」

     ていうか、アンタってそういう系の仕事してんの?と言われて目を逸らす。ヒーローは謎の存在であるべきだ。いや、付き合うならいいのか?

    「まあそれまでは、引き続きオママゴトでもいいさ。せめて幼稚園からは卒業したいけどな。俺ちゃんと青春ごっこしようぜ」
    「ごっこ?」
    「それとも最終形態がいい?」
    「………いやいい、お、お手柔らかに」
    「まかしとけ」

     あれ?今僕、オッケーしちゃった?

    「てことで、これからデートしない?パトロールしながらでいいから」
    「ええ、どこまで……?」

     夜中にパフェ食える店知ってるぜ、このビルくらい大っきいやつ、とウェイドが言う。それはかなり心惹かれるけれど、今はヤバい。一旦落ち着かないと、何を言い出すか分からない。僕が。

    「えーっとえーっと今日はちょっと。ほら、デート用の花束も用意できないしさ。家訓なんだよ、デートには花だ」
    「アンタは絶対花よりパフェの上のチェリーの方が嬉しいタイプだとは思うけど、まあ確かに準備は大事だ。オーケー、花がありゃいいんだな?」
    「は?」

     鳴り続けるプレーヤーを僕の手に押し付けて、ウェイドがスタスタと歩き出す。縁石をぴょんと踏み越え、忙しなく煌めく、百万ドルの夜景へ。

    「待ってて。んで心の準備しといて。マキシマム・エフォート!」
    「えっ?ちょっと、ウェイド」

     チュッとキスを飛ばしながら、ウェイドが夜へと落ちていく。慌ててウェブシューターを構え身を乗り出した僕の眼下で、ポンと音を立ててパラシュートが開いた。街の灯りにぷかぷか浮かぶ、賑やかなデッドプールマーク。電飾付き。君ってそんなものまでうるさいのか。
     いや、問題はそこじゃない。そうか彼のことは助けなくていいのか、とか、下の通行人の皆さんにご迷惑だ、とかも違う。

    「………おい、嘘だろ」

     僕は、『いつか』って言ったんだ。ほんの少しずつ、周波数を合わせていくつもりだった。なのにスイッチを入れた途端、こんなに大音量で鳴りだすなんて予想外だ。僕の人生は予想外ばっかり──いや今更か。それにしても。
     ああ、教えてくれよ、ピーター1、ピーター2。

    「青春って、こんな感じだったっけ……?」 

     呆然と呟く僕の手から、喧しい歌と黄色い卵がひとかけら、地上一二五〇フィートを自由落下していく。
     十分後に戻ってきたウェイドが目の前に花束を差し出すまで、僕はその行く先を呆然と眺めながら、脳内の兄弟たちに問いかけ続けたのだった。

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