Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    16natuki_mirm

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 52

    16natuki_mirm

    ☆quiet follow

    4月のさとあすオンリーで展示していた短編です。
    これにデート編を加えた本はこちら → https://pictspace.net/items/detail/407883

    #イルアズ
    iluaz.
    #さとあす
    #人間界IF
    #編作

    【さとあす】策士、策に溺れ【人間界IFイルアズ】 ピンポン、とチャイムが鳴る。予定の時間より三分程早い。
     視界の端で、昨日買ってきておいた茶菓子が予定通り、たまたまそこに置いただけに見える位置に収まっており、彼のお気に入りの茶葉が机の上に無造作に出してあり、来客用のティーカップは食器棚ほいつもの場所にきちんと並んでいることを急ぎ確認しながら、インターフォンに応対するためにリビングの反対側の壁へと駆け寄る。その拍子に、ゴミ箱に足を引っかけてひっくり返す。中身は始末済みだったのは不幸中の幸い、慌ただしく起こしてやりながら、片手を伸ばしてインターフォンの応対ボタンを押す。それからやっと体制を整えて、咳払いを一つしてから、大きく息を吸って――「はい」と、精一杯冷静ぶった声で来客へと声を掛けた。
    「明日ノ宮先生、ゲラ刷り持ってきましたー!」
     すると、インターフォンの向こうからはいつもの威勢の良い声が聞こえてくる。入れ、と短く答えてから、足早に廊下を抜けて書斎へ戻り、仕事用の椅子へと腰掛ける。さも、今の今まで仕事をしていましたと言うように。
    「先生、お疲れ様です!」
     とたとたと遠慮の無い足音がしたかと思うと、ドアが元気に開いて、ひょっこりと人影が顔を出す。
     佐藤入間――先日から有栖の担当となった、文芸誌の編集者である。明るい色のチノパンにパリッと白いワイシャツ、若干オーバーサイズのカーデガンといういつもの仕事着で、手には出版社の名前入りの大きな封筒を抱えている。
    「……相変わらず落ち着きが無いな、キミは……」
     有栖は一つ溜息をつきながら立ち上がる。
     入間を、この資料やら過去のゲラ刷りやらが無造作に床に積み上げられている書斎に通したら、何をしでかされるかわかったものではない。片付ければ良いとわかってはいるのだが、敢えてそれをしないのは、無精が半分、入間を書斎では無くリビングに通す口実を作りたいのが半分。
     キミの落ち着きがないせいで仕事部屋では打ち合わせが出来ぬのだぞ、という顔をして見せながら、有栖は入間を伴ってリビングへと向かう。
    「これ、今回のゲラです。チェックお願いしますね」
     入間をソファに座らせて、その対面に座ると、敏腕若手編集者は早速、小脇に抱えていた封筒の中から紙の束を取り出してこちらへと差し出す。先日渡した原稿が、綺麗に紙面の形にレイアウトされ、ページ番号や付記なども入り、印刷される予定の状態そのままに刷り出されている。改行や改ページの位置、ルビ等々が意図通りになっているかを確認し、必要があれば修正指示を書き込むのに使うための試し刷りである。
     今回のは、雑誌に載せるための短いエッセイ記事なので、束と言ってもいつものような数十枚に及ぶような分厚いものでは無く、ほんの数枚だ。
    「見てしまうから、待っていろ。暇なら紅茶でも淹れていてくれ」
     ちらり、と視線を机の上の茶葉へ向けながら言うと、入間は早速、机の上の紅茶缶のラベルを見て目を輝かせる。
    「わー、この紅茶! 以前も頂いたやつですよね、とっても美味しかったです! 今淹れますね!」
    「ほ、ほー、そうか、たっ、たまたま適当なのが出ていただけだが? 好みなら、紅茶くらい好きなだけ飲んでいけ」
     嘘である。以前、貰い物の紅茶を出したら、入間が美味しい美味しいと大喜びしていたので、同じブレンドをわざわざ取り寄せたのだ。しかし、それを素直に「キミのために取り寄せた」とは言わない――或いは言えない――のが、明日ノ宮有栖という人間であった。
     有栖本人としては、恩着せがましい言い方を避けているだけのつもりなのだけれど、どうにもその気持ちを言語野を介して口から出力しようとすると、一言二言余計で、嫌味のような言い方になってしまうのだった。
     文章を書かせれば、鮮やかに登場人物の感情の機微を描き出すはずの有栖の脳はしかし、自分の感情の機微を口で語るのには向いていないらしい。
     けれど、入間はそんな有栖の素っ気ない物言いも気にしていない様子で、好物の紅茶に浮かれているようだった。ふんふんと鼻歌など歌いながら、紅茶の缶片手に食器棚へと向かっている。
     有栖は入間の様子を横目に見ながら、リビングテーブルに備え付けられた小さな抽斗から赤ペンを取り出すと、ゲラ刷りの用紙を膝の上に広げた。けれどその視線はまだ原稿には落ちていかず、まるで落とし穴を仕掛けたところを誰かが通らないか隠れて見守っている子供のような眼差しで、台所へ向かう入間の様子を伺っている。
     すると、入間の視線がキッチンカウンターの上で止まる。一呼吸あってから、はっ、と期待と驚きの色に顔が染まり、頭の上でぴょこぴょこしている触角のような毛が三束、一瞬ぴんと伸びてみえた。
    「せっ、先生! こ、こ、これはっ、今大人気のパティスリーの限定焼き菓子ですね?!」
    「は、はーん、それは全然知らなかったな。差し入れに貰ったものだが」
     嘘である。甘いもの、特に話題の菓子に目がないらしい入間のために、今朝、仕事もそっちのけに二時間並んで買ってきた。
     しかし、そんなことはおくびにも出さないのが明日ノ宮有栖である。
    「流石、先生のファンは凄いですね、これ、買うのに二時間は並ぶって言うじゃ無いですか。この間もカムカムスイーツの限定ショートケーキ差し入れて貰ってましたよね」
     それも有栖が自分で買ってきたのだが、あくまでも、「誰ぞからの差し入れである」という体で入間に振る舞ったものだ。
     ファンからの差し入れであれば基本的に編集部を介して届くはずで、現在有栖が仕事をしている相手は眼前の入間が属するバビルの編集部だけで、入間の知らないところで差し入れが届くことなどまずないのだけれど、お人好しを絵に描いたような入間は、「差し入れ」だという有栖の発言を疑う様子は無い。
    「まっ、まあな……とはいえ、そんなに貰っても食べきれないからな。食べたければ少し分けてやっても――」
    「本当ですか?! ありがとうございます!」
     有栖の言葉を皆まで聞かず、入間は焼き菓子の箱を掲げ持つようにしてその場でくるくると回り出す。
     全く、キミは本当に落ち着きが無い、と口先だけは言いながら、有栖の口元は悪戯に成功した子供のようにニヤニヤと緩んでいる。くるくると回っている入間には見えていないようだが。

     ひとしきり仕掛けの全てに入間が反応してくれたのに満足して、有栖はやっとゲラ刷りに視線を落とした。
     台所から紅茶の良い香りがしてくるまでの間には一通り、訂正箇所を示す赤字を入れるべき場所は把握が済んだ。けれど、今そこに赤ペンを走らせてしまったら、ものの十分で仕事が済んでしまう。仕事が済めば、あとは入間にゲラ刷りを返して、編集部へと帰るだろう彼を見送るだけ。それでは面白くない。有栖は殊更しっかり読んでいますよという顔をして、のたりのたりと一カ所ずつ丁寧に赤字を書き付けていく。ついでに、校正者が見落としたらしい誤植も見つけて丸を付けた――自分の名前で世に出るものである、隅々まで確認することは大切だ――
     途中、入間が紅茶とお茶菓子を運んできてくれたのでペンを置いて休憩にした。
     そのついでに、茶菓子に舌鼓を打って上機嫌な入間から、それとなく今夜の予定を聞き出した。今日はもうこのまま直帰でも構わないという言質を取っておきながら、しかしその場ではなにも言わず、そうか、とその話を切り上げる。
     時計の針は四時半を少し過ぎたところだ。
     このままのらりくらり、六時過ぎくらいまで掛かれば、「定時も過ぎたことですし、夕飯時だからどこかに食べに行きませんか」という話になるだろう、或いは、こちらから提案しても違和感は無いだろう、と小狡い算段をする。入間が夕方頃やってきたり、大きめの仕事を持ってきて、長時間待たせる必要があるようなときは、大抵いつもこの手段で食事に誘っていた。
     一般的には、編集者と作家が食事でも、という話になれば、概ね、打ち合わせなり接待なりの体で、編集部の経費で――或いは編集者の自腹のケースもあろうが――支払いを持つのだろうが、個人的な欲のために誘おうというのに他人に支払いをさせるのは、有栖の矜持が許さない。しかしかと言って、ただ個人的に二人で食事に行きたがっているのだ、と悟られるのも気に食わない。そんなわけで結局有栖は、「打ち合わせ代としてこちらの経費にしたいから」と無茶なことを言って、伝票を取り上げることにしているのだった。 実際に経費として計上したことなどないが。
     ティータイムを終えた後、入間は有栖の仕事を待つのにも慣れた様子で、ティーカップを片付けた後、ソファに戻って手帳を開いたり、鞄から資料を取り出しては眺めたりと、うるさくならない程度の範囲の仕事を進めている。その、普段なかなか見せない真剣な表情に、ついつい視線がそちらに行ってしまう。
     視線には勘付かれないように気をつけているつもりだったが、偶然、不意に顔を上げた入間と視線が合ってしまった。慌てて逸らそうとするが、それより早く、入間が「ご用事ですか」と言わんばかりに小首をかしげてにこりと笑った。
    「なっ……なんでもない……」
     有栖は慌てて言い繕って視線を落とす。入間はそれ以上何も言ってこなかった。
     そのままたっぷりと時間を掛けて原稿の確認を終わらせて有栖が顔を上げた頃には、時計の針は六時を少し回っていた。目論見通りだ。
    「あっ、先生、終わりましたか?」
    「ああ。待たせてすまなかった。……もうこんな時間か」
     チラリ、と時計を見ながら言うと、入間は釣られてそちらを見て、「本当だ」と漏らす。それから、
    「定時過ぎましたし、ご飯でも行きますか?」
    と、有栖の予想通りの言葉を続けた。
     内心、大いにガッツポーズをして「勝利」の二文字を掲げて走り回りたい衝動に駆られながらも、口先だけは努めて冷静に、ふん、と眼鏡のブリッジを押し上げて見せ、有栖はチラリとだけ入間に視線をやった。
    「ま、まあ、構わんが。付き合おう」
    「やったー! 明日ノ宮先生、何食べたいですか? たまには僕が奢ります」
     「美味しいものが食べられるー!」という心の声が聞こえてきそうな、無邪気で素直な喜びの声を上げた入間は、年の割にふくふく艶々とした頬を赤くして、両手でバンザイをしてみせた後、すっと社会人の顔に戻って有栖にお伺いを立てた。そのギャップが愉快やら可愛いやら、有栖は吹き出しそうになる口元を必死に押さえる。
    「……いや、構わん、経費にすると言っているだろう。……その代わり、店は選ばせて貰おうか」
    「……うう……じゃあ、お言葉に甘えます……」
     入間は不満そうではあったけれど、ひとまず引き下がった。行こう、と立ち上がると、素直に付いてくる。
     マンションを出て向かった先は、近所にある洒落たダイニングバー。落ち着いたムードある内装ではあるが、コース料理を出すようなレストランに比べればカジュアルで、気軽に入りやすい。
     下心としてはもっとロマンチックな店でゆったりと食事を楽しみたいところだが、あくまでも仕事仲間と一杯引っ掛けようという体での席だ、あまり気合いの入った店を選びすぎても引かれてしまうことだろう。その点ここであれば、カップルがデートに使うようなムードもあり、実際カップル客も多いが、しかし仕事仲間とちょっと旨いものでも摘まんでいこうかという雰囲気の客も少なくない。
     それに何より、肉が旨いと評判だった。
    「美味しいです!」
     分厚く切られたラムのステーキを頬張って目を輝かせる入間が、一口一口噛みしめるように表情を蕩けさせながら、しかしてひょいぱくひょいぱくと結構な速度で肉を口に運んでいくのを、面白いなぁと思いながら眺めている。
    「キミは……本当に食べさせ甲斐があるな……」
    「えっ、何ですか?」
     思わず口から漏れた感想は、聞かせようと思っての呟きでは無かったのだが、肉に夢中になっていたはずの入間の耳にも届いていていたらしい。詳細までは聞き取れなかったようだが。
    「……なんでもない。好きなだけ食べるといい。もう一皿頼むか?」
    「はいっ!」
     間髪入れず、どころか若干食い気味に、潔い返事をする入間に、普通そこは一応一頻り遠慮してみせるのがマナーだろうが、と思いながら、有栖は吹き出しそうになるのを堪えて手を挙げる。やってきたウエイターに飲み物と食べ物のおかわりを言いつけると、入間は実に素直な表情で「ありがとうございます」と微笑んだ。
     そんな顔をされてしまうと、さらに追加であれこれ頼んでやりたくなってしまう。デザートでも頼むかと、ついでにメニューを要求した。
     すぐに出てきたメニューをパラパラとめくって、デザートの項目を探していると。
    「先生、いつも美味しいものご馳走して貰ってるんで、今度お礼にどこか行きませんか? もちろん僕持ちで」
    「はっ……?!」
     不意に掛けられた声に、思わず顔を上げて、頓狂な声を漏らす。
     ――お礼にどこか行きませんか?!
     入間の言葉だけがぐるぐると脳裏を駆け回り、それは所謂デートの誘いなのではないか、いやそんなつもりはないであろう、なんていう極めて高度な駆け引きのことまで思考が回らない。
    「どこか行きたいところありませんか? 映画とか、美術館とか」
     顔を真っ赤にして口をぱくぱくと開閉させているばかりの有栖の様子にはちっとも気付かず、入間は楽しそうに具体例を挙げてくれる。
     映画に、美術館、そんなところへ入間と二人で。途端に、有栖の想像力豊かな脳味噌は、その様子をくっきり克明に描き出す――薄暗い館内で、二人並んで映画を見ている。ポップコーンをもりもり食べている入間の横で、コーヒーのカップを傾けながら、映画を見ているような、入間の横顔をみているような自分。不意にドリンクホルダーに伸ばした手が、タイミング良く重なって――あるいは静謐な美術館、並んで名画を眺めながら歩く。他の人の迷惑にならないようにと声を潜めれば、必然的に二人の顔は近く――
     ――こんなの、デートではないか。
     有栖の脳はそこで思考をやめた。
     そんな、願ってもないこと、いやしかし、そんな状況になってしまっては、何が起こるか――自分が何をしでかすか――わかったものではない、どう返事をするべきか、と、思考の断片はふわふわと頭の中を漂っているけれど、その断片をしっかり捕まえて、頭の真ん中に置いて検討するだけの能力は、今の有栖にはなかったのだった。
     すると、有栖が返事をしないことに気付いた入間が、少し気まずそうに笑う。
    「あっ、でも、僕と二人で映画とか美術館だと、取材みたいになっちゃいますかね?」
     入間は、「だから嫌がっているのだろうか」とこちらを気遣っているような様子で苦笑いしながら、指先で頬を掻いている。
     しかし有栖はその言葉に天啓を得た。取材。そう、取材だ。
     取材という建前にすれば、怪しまれずに二人でどこへでも行けるではないか。
    「……なに、キミと一緒ならどこへ行っても同じ事だ」
     調子を取り戻した有栖は、ふん、と笑ってみせる。
     ちなみに今の有栖の言葉を翻訳するならば、「キミとならどこへ行っても嬉しいし楽しいからどこへでも行きたい」なのだが、肝心の入間はといえば、「僕と一緒だとどこへ行っても仕事気分で楽しめない、と言われた」とでも思っていそうな顔をしている。しかし、絶好の言い訳を手に入れたことに内心はしゃいでいる有栖は気付かない。
    「どこでも同じなら、どこでもいいだろう。そうだな、次の週末から、そこの美術館で気になる特別展がある。そこでどうだ」
     ひとまず最初は取材色の強いところにしよう、なに、取材という建前さえあれぱどこへでも誘える――そう画策した有栖が浮かれながら告げると、入間はしかし、あまり楽しそうではない表情を浮かべたまま。
    「……いいんですか?」
    「ああ。取材ついでにちょうどいい」
     有栖のその言葉に、入間は小さくため息を吐いたらしかった。
    「……わかりました。チケット、取っておきますね」
    「いや……ああ、そうだな。お願いしよう」
     費用はこちらで出す、と言いかけて、抑もお誘いの理由が「いつもご飯をご馳走になっているお礼」なのだと思い出し、入間に任せることにする。
     普段は専ら、有栖から食事に誘って――或いは、入間が誘ってくれるよう仕向けて――いるので、入間からの誘いで、しかも食事以外の所へ出かけるなんて初めてのことだ。
    「楽しみにしている」
     浮かれ気分のまま、つい、表情を緩めて呟いた。
     すると、対面で複雑そうな顔をしていた入間が一瞬、驚いたような顔をして、それからふっと笑顔になる。どこか、「仕方ないなぁ」とでも言いたげな、少し呆れの混じった、けれど、それすらも楽しんでいるような笑顔だった。
    「僕も、楽しみにしていますね」
     そう微笑んだ入間の、楽しみにしている、の一言に、おそらくお世辞なのだろうと分かってはいても、つい、期待に胸を膨らませてしまう有栖なのだった。




















     ――それから、デザートも食後の一杯も楽しんで、店の前で二人が別れた後。
    「……あーあ、結局取材になっちゃった。先生、普通のデートとか、興味ないのかなぁ……いつもご飯食べたら解散だし……もしかして、デートしたがってるの、僕だけ……?」
     僕たち付き合ってるのに、と、有栖が聞いたら卒倒しそうなことを入間が呟いていたなんて、有栖は知る由もない――
    おわり
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💘💘💘🙏🙏🙏🌸🌸🌸💙💗💙💗👏👏👏☺💖💖💖🙏🙏🙏☺🙏🙏🙏😍💯💯💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    16natuki_mirm

    DONE1/28の悪学で無配にしたセパソイです。イルアズしてるイルマくんに片思い?しているソイソイと、そんなソイソイに片思いしているセパくんによる、いつかセパソイになるセパソイ。
    【セパソイ】あなたと、あなたのすきなひとのために「先輩」
    「ぅわっ!」
     突然後ろから声を掛けられて、ソイは思わず羽を羽ばたかせた。
     ちょっぴり地面から離れた両足が地面に戻って来てから振り向くと、そこには後輩であるセパータの姿があった。いや、振り向く前からその影の大きさと声でなんとなく正体は察していたのだけれど。
    「……驚かせましたか」
    「……うん、結構」
    「すみません。先輩、自分が消えるのは上手いのに、僕の気配には気づかないんですね」
     セパータが意外そうな顔を浮かべる。それに少しばかり矜持を傷付けられたソイは、ふいっと顔を背けると、手にしていた品物へと視線を戻した。
    「……自分の気配消せるのと、他人の気配に気づくが上手いのは別でしょ。……いやまあ、確かにね、気配消してる相手を見付けるのも上手くないと、家族誰も見つからなくなるけどうち。だから普通の悪魔よりは上手いつもりだけど、今はちょっと、こっちに集中しすぎてただけ」
    5097

    related works

    recommended works