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    16natuki_mirm

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    16natuki_mirm

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    2023年6月3日に開催されたイルアズオンリーイベントで配布した無料配布「Happy Birthday From You」(前半)および、その続編となる11日開催のWebアフター用のネップリ「世界でひとつの」をおまとめ便で。
    イベント終了したのでパスワード解除しました。

    #イルアズ
    iluaz.

    【イルアズ】Happy Birthday From You/世界でひとつの 降魔の儀なんて、そうそう毎年やるものでもない。
     手間も費用も掛かるし、まあ、身も蓋もなく言ってしまえば「贈り物を持ってこい」という企画である。嫌なら参加しないのが悪魔という生き物なので、人生に一度なら、記念だし、と集まってくれるだろうが、二度三度と重なれば誰も来なくなるだろう。それが魔界標準である。
     アリスもご多分に漏れず、そう考えていた。だから。
    「私の降魔の儀は去年行ったではないですか」
     今年はやりませんよ、と当たり前のように入間に告げた。
     ら。
    「………………エッ?!」
     嘘でしょ、という顔をされた。
     アリスの脳裏に、去年の今頃の記憶が過る。入間に、降魔の儀は幼少の頃に済ませたから、もうやりませんよと告げたら、全く同じ顔をされたのだ。それでアリスは大慌てで降魔の儀の手配をして、それはそれは盛大な儀式を行った。入間のそれよりは一回り小規模に、けれど、クラスメイト全員を招待して、開場もかなりの格の所を借りた。そしてその結果、集まってくれたクラスメイト達に散々揶揄われたのだ、「イルマくんの期待に応える為だけに、こんな盛大な儀式をしたのか」と。
    「だって……去年みんなもやったし、クララだってこの間やったし」
    「クララは去年やっていないではないですか。一年生の頃など誰もやっていませんよ。入間様がやって、そのあと私までやったものだから、それをクラスの連中が面白がって、全員やることになっただけです」
    「えっ、僕去年もやったよ?!」
    「入間様は良いのです! 入間様ですから!」
     アリスの言葉は全く理由になっていなかったが、その勢いに押されて入間は納得したらしかった。
     降魔の儀は幼少の頃にやってしまうことが多い中、入間がまだ済ませていないというものだから、一年生の入間の誕生日には降魔の儀を行った。そして、翌年の六月、アリスが入間の期待を受けて開催した。こんな歳になってから降魔の儀をやるなんて珍しいが、集まって騒ぐのは楽しかったのだろう、アリスの誕生日を皮切りに、二年生の間の一年間、皆が代わる代わる降魔の儀を開催し、三年生になった今、先月のクララで一巡りというわけだ。
    「流石に今年もまた開催したら、良い笑いもの……とまでは行きませんが、シャックスやプルソン辺りに『嘘でしょ』くらいは言われるでしょうね」
     ――嘘でしょ、のところを少しシャックスに寄せた口調で発言したせいか、入間はそこで一度吹き出してから――そうなんだ、と肩を落とした。
    「今年はアズくんのお誕生日、お祝いできないのかぁ。プレゼント何にしようかなって、楽しみにしてたんだけどなぁ」
     しょぼん、と頭上の髪の一房までもしおれた様子で残念がる入間の姿を目の当たりにしたアリスは、その偉大な心に思わず胸を熱くさせる。
     他人への情が薄く、個人の利益が最優先される魔界において、他人の誕生を祝って捧げ物を贈るなど、よほど親密な間柄でなければ、相手を祝う気持ちが半分くらい、あとは捧げ物をしておけば相手に好印象を与えられるだろうとか、良いものを贈れば同等かそれ以上のものが返ってくるだろうという打算が働かなければ、嬉々として用意するようなものではない。
     無論、アリスが入間への捧げ物を用意しろと、いや、用意してもいいと言われれば、それはもう誠心誠意入間の気に入るであろうものを厳選して、金だろうが手間暇だろうが惜しまずに準備することだろう。が、それだって、全く見返りを求めないかと言えばおそらく、心のどこかに少しくらいは、入間の気に入るものを差し上げて褒めて貰いたいとか、自分が差し上げたものを使って貰いたいとかの欲がある。
     そして、入間とアリスが世間一般に言えば「度を超して親密」であって、どころか、問題児クラスの十三人全員が、魔界標準からすれば「かなり親密」な関係であるので、確かに、見返りを期待せずに嬉々として捧げ物を用意したっておかしくない――そうでなければ、年に十三回もの降魔の儀をやって、それに全員がちゃんと出席するようなことがあるものか――けれど、それでも尚、「プレゼントを選ぶのが楽しみ」なんて言葉、恐らくは誰の口からも出ないことだろう。
    「あ、アズくん? 急にどうしたの?」
     いつの間にか泣いていたらしくて、入間が狼狽えている。アリスは慌てて袖口で涙を拭って顔を上げた。
    「入間様が……私の誕生を祝うことを楽しみして下さっていたと……そのお優しさのあまりの深さに……心が……震え……っ」
     涙を拭くそばから溢れてしまう。しゃくり上げながら何とか伝えると、入間はどことなく戸惑ったように微笑んでから、手を伸ばしてアリスの頭を撫でてくれた。
    「そんなに大層なことじゃないよ、だってアズくんには、生まれてきてくれてありがとうって、いつだって言いたいのに…………あっ」
     入間の、そのあまりにも優しい言葉に、アリスの涙は再び止めどなく溢れ出す。入間は慌てた様子でアリスの背に腕を回して、よしよし、と言いながら背中を撫でてくれた。そんな仕草にまたアリスの目頭は熱くなる。
    「……もう、降魔の儀などなくても、充分すぎるほどのお言葉を頂いてしまいました……」
     アリスの涙と呼吸が落ち着いて、やっと喋れるようになるまでには暫くの時間を要した。
    「そうかな、そう思ってくれたら嬉しいけど……でも、やっぱりちゃんとお祝いしたいな……あっ、ねえアズくん、降魔の儀ってさ、本当は自分でやるんじゃ無くて、両親とかが、大切な人のために、って開くものなんだよね?」
    「……はい……まあ、建前上はそうですが……」
    「じゃあ、僕がアズくん降魔の儀をやっても、良いんだよね」
    「……はっ?!」
     素晴らしいことを思いついたぞと言いたげに、前のめりに、拳を握りしめながら、キラキラと輝く瞳で得意気にしている入間の、言っていることがよくわからなくて、アリスは頭上に二つ三つ疑問符を浮かべる。
    「そ、それは、理屈ではそうなりますが、家族のため以外に降魔の儀を開くなど、聞いたことが」
    「僕の育った辺りだと、大切な人のお誕生日は毎年祝うんだ。……だから……ダメ、かな?」
     小首をかしげた入間の、透き通るような深い青を湛えた瞳に見上げられれば、アリスにはもう、「ダメなわけがありません!」と叫ぶことしか出来ないのだった。

    ****

     入間が開いてくれた降魔の儀は、恙なく閉幕した。
     入間が、サリバンやオペラの力を借りず、自分で調べて、手配してくれた会場は、街外れの小さな廃屋だった。小さいところでごめんねと入間は言ったけれど、入間が自力で準備してくれたというだけでアリスの胸はいっぱいである。
     級友達は「今年もやるの?」と驚いていたけれど、入間の「僕がやりたいから」の一言を面白がって結局集まってくれた。集まって騒ぐのが楽しいだけだったのかもしれないが。
     皆が持ち寄ってくれた贈り物を両手いっぱいに抱えながら帰路につく。最後まで片付けをしていた入間と二人――片付けが終わるのが遅くなりそうだったので、クララはエリザベッタ達に託して先に帰したのだ――夜道を行く。月明かりは煌々と夜空を染めて、二人の影を緩やかに地面に映した。
    「入間様、今日は――ありがとうございました」
    「何言ってるのアズくん、今日は僕がアズくんにありがとうを言う日、でしょ?」
    「……それはそうですが……入間様が下さった言葉をお返しするなら、私の方こそ、入間様がこの世に生を受けたこと、入間様と出会えたこと、入間が私をシンユーとしてくださり、お側においてくださること、全てに毎日感謝してもし足りませんから、今日だって、入間様が私のために心を砕いて下さったことに感謝したって、構わないでしょう?」
     堂々と胸を張ってアリスが微笑むと、入間は月明かりの下でもわかるくらいに頬を赤くして、「僕、アズくんにそんなこと言ったかなあ」と照れくさいのを隠すように笑い、その真っ赤な頬を人差し指で掻いた。
    「……ね、アズくん」
    「なんでしょうか」
     不意に入間が足を止めたので、アリスもそれに倣って立ち止まる。一歩分の距離を振り向くと、入間は月の光を背に負ってこちらをじっと見ていた。先程までの曖昧な笑顔はなりを潜め、真剣な眼差しが、すっとアリスをまっすぐに映す。
    「もう一つ……あげたいものがね、あって」
     その瞳の真っ直ぐさとは裏腹な、どこか煮え切らないような戸惑いを孕んだ声。
     いつもの入間とはどこか違った雰囲気に、アリスは思わず息を飲んだ。
    「もう――充分すぎるほどの贈り物を頂きましたが――」
     入間に「それ」を差し出されてしまったら、何かとんでもないことが起きてしまうのでは無いか――そんな空恐ろしさにも似た予感が過る。入間が用意してくれた捧げ物も、掛けてくれた暖かな言葉の数々も、アリスの胸をいっぱいに満たしているというのに、これ以上何があるというのだろう。
    「いっ……一番、あげたかったのがね、まだ……なんだ」
    「……はっ……はい……」
     緊張に足を震わせながら応える。入間の顔が、何故だか見られなかった。
     ざっ、と、地面を踏む音がする。地面に落とした視線の先に入間の影が入ってくる。
     思わず背筋に力が入った。
    「あ――あのね――……」
     珍しく言い淀んでいる入間の声に、一瞬だけ視線を上げる。
     真剣な眼差しと、目が合った。
     息が、止まる。
    「好き――だよ」
     掠れた声は、夜風に乗せて辛うじてアリスの耳に届いた。
     心臓の音が聞こえなくなる。
     好き――という、たった二文字の、シンプルな、如何様にでも受け取れるはずの言葉を、しかし、今、この場で、こんなにも真剣な眼差しで告げられることの意味が、わからないほど子供ではない。
     頭が真っ白になって、何も考えられなかった。
     ただ鼻の奥がつんと痛くて、堪えきれなかった何かが溢れて瞳から落ちていった。
    「そんな――」
     震える声が勝手に口からこぼれていく。
     入間の、緊張に強張っている様子の唇が、今のは無かったことにして、等と言い出さないうちにと、アリスの中に残された微かな理性が、必死に言葉を探す。
    「そんなお言葉を――頂いてしまって、本当に、よろしいのでしょうか……」
     ぽろぽろと涙は止めどなく頬を濡らす。拭いたいけれど、両手は皆からの贈り物でいっぱいになっていて、動かすことができない。
     すると、入間の手がアリスの目元まで伸びてきて、そこで止まる。触れても良いかと確認するような眼差しを受けて、アリスはゆっくりと瞼を下ろした。
     温かな手がそっと頬を包むように触れ、親指がぐいと目元を擦っていく。
    「貰って、くれるかな――僕の、気持ち」
     優しく包み込むような声で問われれば、アリスにはただ、涙に濡れた声で「はい」と答えるしかできない。
    「謹んで――頂戴致します――」
    「……うん……ありがとう、アズくん」
     ほっと、入間の表情が緩む。ふわりと柔らかな笑顔が浮かんで、頬に触れていた手が離れていく。
     ほんの一瞬触れただけ、涙を拭ってくれただけだったはずの手が、離れてしまったら急に頬が寒く感じられてしまう。数分前までの自分なら、その手で頬に触れてもらうことすら望外のことであったというのに、入間のたった一言を受けて、恐ろしいほどに欲深くなってしまったことに気付く。
    「お礼を――言わねばならないのは私の方です――」
     必死に涙を目の縁に押しとどめながら答えると、入間はふふっと嬉しそうに笑って、アリスの瞳を覗き込んだ。
    「これからは、恋人、だね」
    「――ッ――!」
     はにかみながらの入間の言葉に、目の縁に押しとどめていたはずの水分がまた溢れてしまう。
     入間が、慌てたように両の目元を拭ってくれたけれど、涙は後からあとから溢れてしまう。
    「こんなに喜んで貰えるとは、思ってなかったな……」
     指先だけでは用事が足りなくなって、ついに懐からハンカチを取り出した入間が笑う。アリスも必死に涙を飲み込もうとするのだけれど、暫くは止まりそうに無かった。
     やっと気持ちが落ち着いてきて、二人が再び歩き始められる様になるまでの間に、入間のハンカチは随分としっとりしてしまった。
    「――洗濯して、お返ししますので――」
    「いいよいいよ、気にしないで。アズくんがいっぱい、喜んでくれた証――だから」
    「入間様――」
     うっかりまた涙が零れそうになってしまって、慌てて鼻をすすって誤魔化そうとする。
     ほんの少しの入間の言葉で簡単に涙が溢れてしまいそうになる程、心の震えはまだ収まっていないというのに、その一方で、急に解き放たれてしまった欲は、留まるところを知らずに膨らみ続けてもいた。
    「――こんなにも沢山の贈り物を頂いてしまったというのに、恐縮なのですが――お別れの前にもう一つだけ、望むことを許して頂けませんか」
     お互いの家に向かう道が分かれる曲がり角で足を止めたアリスは、勇気を振り絞って口を開く。
    「もちろん、僕に出来ることなら、何でも言って?」
     入間は一瞬驚いたような表情を見せてから、すぐに満面の笑みで答えた。
    「二人の時は、アリス、と――呼んでは、下さいませんか」
    「……えっ……いいの……?」
    「……入間様になら……呼んで頂きたい、です」
     驚いたような、戸惑うような表情で首を傾げる入間に、アリスは頷いて応える。
    「あ、アズくんが、いいなら……その……じゃあ……お、おやすみ――――アリスっ」
     顔をまっ赤にしながら、消え入るような声でアリスの名前を呼んだかと思うと、入間は踵を返してサリバン邸へと続く道を駆けて行った。
    「……」
     おやすみなさいませ、とその背中に声を掛けることもできないまま、アリスはしばらくの間、呆然とその場に立ち尽くしていた。
     やっとのことで我に返り、両手一杯の贈り物と共に自宅へ続く道を歩き始めたアリスは、ただ必死に、明日どんな顔をして入間の前に立てば良いのか、そればかりを考えていた。
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    16natuki_mirm

    DONE1/28の悪学で無配にしたセパソイです。イルアズしてるイルマくんに片思い?しているソイソイと、そんなソイソイに片思いしているセパくんによる、いつかセパソイになるセパソイ。
    【セパソイ】あなたと、あなたのすきなひとのために「先輩」
    「ぅわっ!」
     突然後ろから声を掛けられて、ソイは思わず羽を羽ばたかせた。
     ちょっぴり地面から離れた両足が地面に戻って来てから振り向くと、そこには後輩であるセパータの姿があった。いや、振り向く前からその影の大きさと声でなんとなく正体は察していたのだけれど。
    「……驚かせましたか」
    「……うん、結構」
    「すみません。先輩、自分が消えるのは上手いのに、僕の気配には気づかないんですね」
     セパータが意外そうな顔を浮かべる。それに少しばかり矜持を傷付けられたソイは、ふいっと顔を背けると、手にしていた品物へと視線を戻した。
    「……自分の気配消せるのと、他人の気配に気づくが上手いのは別でしょ。……いやまあ、確かにね、気配消してる相手を見付けるのも上手くないと、家族誰も見つからなくなるけどうち。だから普通の悪魔よりは上手いつもりだけど、今はちょっと、こっちに集中しすぎてただけ」
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