今年もよろしくな台牧 ベランダへと続く窓を開けると冷たい風が頬を撫でた。
「間におうてよかったな。もうすぐ日ぃのぼるで」
窓の開閉音に気づいたウルフウッドが振り返って笑う。その頬は寒さでほのかに赤い。手招きされるので急いで彼の隣に並んで街並みを眺めた。
「大丈夫? 寒くない?」
問えば「どっかの誰かさんに厚着させられとるからな。おどれは心配しすぎやねん」とウルフウッドは呆れたように言った。素足でサンダルをつっかけベランダに出ようとしたのを止め、厚手の靴下を履かせ、もこもこの帽子を被せたことを言いたいらしい。
「俺の優しさ! 新年早々風邪引きたくないでしょ?」
そう返して手に持ったマグカップを渡す。中身は蜂蜜入りのカフェオレだ。彼はすんとこれまた赤くなっている鼻を鳴らして、カップに何度か息を吹きかけてゆっくりと飲んだ。
「うまいな。これなんか入っとる?」
カフェオレの違いに気づいたのかカップを少し持ち上げて尋ねてくる。
「蜂蜜いれたの。ほら、昨日喉いっぱい使ったし」
顔を覗きこむようにして、昨晩のことに触れれば分かりやすくうろうろと目を漂わせた。いつまで経ってもウブな反応が可愛くて思わず腰に手が延ばせば呆れたように叩かれた。
「今はせんで」
「後ならいいってこと!?」
「おどれの頭はそれしかないんか」
「そうじゃないけどさ。まぁ今日はどっちにしてもゆっくりしようぜ」
撤退と腰に回しかけた手を手すりに置いて景色を眺める。ビル群の隙間が明るくなり、ゆるゆると太陽が隙間から顔を出すのが見えた。いわゆる初日の出というやつだ。目が眩むほどのまばゆいほどの光に今年一年いいことがありそうなそんな予感が湧いてくる。
綺麗だねと同意を求めたくてウルフウッドの方を見れば幸せそうにこちらを見つめる彼とバチリと目があった。
「綺麗やな。おどれによう似とる」
切れ長の瞳を細めた彼が幸せそうに笑う。風で乱れた僕の髪の毛をそっと直されて、唇に触れるだけのキスが彼から降ってくる。
普段ない彼からの好意の印にじわじわと嬉しさが込み上げてきて、たまらず彼を抱きしめた。
「どうしたのはお前! 急にデレて可愛すぎるんだけど!?」
「まぁ、たまにはな」
柔らかい声と共に、器用にエアコンの室外機にカップを置いたウルフウッドの手が僕の背中にふんわりと回される。
「愛されとるから、返さなあかんなぁ思うて。今年もよろしゅう」
肩に顔を埋めた彼の顔は見えないけどきっとはにかんだ微笑みをたたえているはずだ。
「うん。 今年も全力で幸せにするから!」
急な新年の誓いにウルフウッドがまた笑う。揺れる髪の毛が頬に当たってくすぐったい。
「ワイも幸せにしたる」
そっと身体を離してこちらをしっかり見据えて彼が言う。
「ふたりで幸せにならうね」
噛み締めるように言って今度はこちらから口付けた。
太陽はどんどんと登っていく。いつのまにか俺たち2人も眩い光の中にいた。