包まれたい※ハイプビースト×ワイルドスピード
※ワイスピが「みゃーみゃー」鳴くので注意
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朝自然と目が覚めて、時計を見れば起こされる時間はとうに過ぎていた。ごろんと寝返りを打てば、珍しく寝息を立てたままの恋人。
(あぁ、仕事一段落して…、疲れてんだよな)
ここ数日仕事部屋に缶詰状態だったことを思い出す。ようやく昨日それも終わって、そのまま寝たがったのを何とか風呂に入らせたんだった。久々の休みだゆっくりさせてやろう。
ベッドの中でぐぐっと伸びをして、起こさないようにそっと出る。顔を洗って歯を磨いて、キッチンでオレンジジュースをグラスに入れてリビングのソファで落ち着けば、差し込む太陽の光が眩しい。
ちびちびとオレンジジュースを啜りながら、テレビのリモコンに手を伸ばそうとしてやめた。
(テレビの音で起こすかも)
時間は10時を少し過ぎたところ。朝ご飯にはちょっと遅いし、昼ごはんにはまだ早い。
普段ならクリプトが先に起きていて、朝飯ができた頃に起こしてくれる、大体8時半。食い終わったら二人で散歩して、休みならそのまま買い物に行くし、仕事や予定があれば各自の予定を優先する。
(そもそもクリプトより俺が早く起きるとかなかったな)
一緒に暮らし始めてから、ずっと。俺が撮影のために朝早く出るって言った時だってなぜかあいつは先に起きてる。寝てていいって言ってんのに「見送りたいから」とか。や、まあ嬉しいけどよ。
ずずっ。
気がついたらグラスの中は空っぽで。時計の長針はちょっと進んで真下を向いている。
(やることねえな)
ソファに身を埋めながら、空っぽのグラスを弄ぶ。
あいつが仕事に没頭してる時は構ってもらえないのが常だし、それは仕方がないことだとわかっているから我慢もできるが、仕事が終わって折角構ってもらえるもんだと思っていたらこれだ。
構ってほしい気持ちとゆっくりさせてやりたい気持ちがせめぎ合ってムズムズする。
(俺も一緒に二度寝すりゃよかった)
そうしていれば、こんな穏やかな天気の中でちょっぴり寂しい思いなんかせずに済んだはずで、でももう目が冴えてしまって今更二度寝なんかできやしない。
(でもちょっと、様子見るだけみて……)
グラスをテーブルに置いて、できるだけ物音を立てないように寝室に入れば、まだクリプトはベッドで山を作ってる。今朝自分が寝ていた場所に乗り上げて、クリプトを覗き込めば光を吸い込みそうなあの黒曜石はまぶたに隠されたまま。起こさないようにゆっくりと寝転んで、クリプトを見つめる。長い睫毛、通った鼻筋にぽってりとした厚めの唇。
「くりぷと」
寂しいから起きて。
疲れているだろうから今日はゆっくりして。
ずっとふたつの気持ちはせめぎ合ったまま。クリプトを見ていると思い切り揺さぶって起こしたくなる衝動に駆られる。でもやっぱり起こすのは忍びなくて、ごろんと寝返りをうって背を向ける。
寂しい。構って欲しい。クリプトの作ってくれたチーズトーストと蜂蜜入りのホットミルクを飲んで、その後一緒に散歩に行って、できれば今日はすぐ帰ってきてずっと一緒にいて欲しい。
膝を抱えるように曲げるとカチャと義足が鳴る。
(寂しいなぁ…)
厚手の遮光カーテンの隙間から入ってくる光を見ていると光がだんだんボヤけてくる。
「みぃ〜……」
鼻をスンスン啜って、勝手に鳴き声が出てしまって。声を抑えるように口を塞いでぎゅう、と身を縮めて我慢していると、急に後ろにズルズルと引っ張られた。
「っ?」
「…遠慮なんかしてないで、起こせばいいだろ」
温かな布団の中に迎え入れられて、ぼそぼそといつもより低い音で呟かれた声が耳を擽る。
「みゃぅー」
胸の辺りに回されたクリプトの太い腕をぎゅうぎゅう握り締めれば、力が入ってクリプトの方を向くようにひっくり返されて、向かい合わせになる。
「くりぷと……。俺起こしちゃった?」
「むしろもっと早く起こしてくれてよかったんだ」
「でも疲れてるだろ?昨日仕事終わったばっかで…」
「休ませようとしてくれたのか?優しいなオクタビオ」
クリプトの指が俺の顎の下を撫でてきた。こちょこちょと擽られていると、喉がぐるぐると鳴る。
「寂しい思いをさせて悪かった。今日はずっと一緒にいよう」
「ん」
「朝、にはちょっと遅いからブランチにしよう。お前の好きなやつ作ってやる。晩飯も何か考えておけ」
「チーズトースト食べたい。ホットミルクも」
「アボカドサラダと、ハムエッグと……コンソメスープあったよな」
「デザートは?食べていいか?」
「りんごとブドウな」
「うさぎの形がいい」
ブランチのメニューについて要望を出せば、任せろと頼り甲斐のある言葉。顎を擽っていた手が輪郭を辿ってピンと立った耳を撫でてくる。耳の付け根を撫でられると気持ちがよくて、頭をクリプトの胸に擦り付けてしまう。
「昼の散歩は暑いから今日は夕方にしようか」
「うん。なぁ」
「おやつはダメだ」
「なんで。おやつ…」
「俺が仕事で籠ってる間、いっぱい食ってたろ。知ってるぞ」
クリプトが美味しく作るのが悪いのに。と思ってブスッとしていればそれもバレていて、くつくつと喉で笑われる。何が面白いんだ、こっちはおやつ食べたいんだぞ。おやつを食べれないなんて死活問題だ。
「おやつ食べたい。おやつ。おやつ、おやつ」
こうなりゃやけくそだ、とクリプトを押し倒して上半身だけ乗っかって、間近で目を見つめて訴えれば、クリプトは困ったように笑っていた。
「仕方ないな。今日だけだぞ」
「へへ、好き」
ちゅ、とガキみたいなキスを押し付ければ、離れ際にペロリと唇を舐められた。
「オレンジジュースの味がする」
俺の後頭部に回った手に力が入ったのを感じて、もう一度ゆっくりと唇を重ねる。
さっきまで俺を支配していた寂しさは嘘みたいに朝の光に溶けて消えていた。
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スキンのあれこれはご都合主義。尻尾つけたいぐらい。つけたい。
2022−06−18 一生休日
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ベッターから移行。このあとからのSSには尻尾つけてる。
2022-08-31 一生休日