主演二人の恋模様※支部の方で書いてた俳優パロの設定ですが、これだけでも読めると思います。
※俳優パロです。
※強めの幻覚
映画『Ghostwire:TOKYO』が公開されてから主演の二人は大忙しだ。
かなり人気が出て、いろんな番組に、雑誌にと引っ張りだこ。
出演者はだいたい忙しくしているが、やはり主演の伊月暁人とKKは別格の仕事量だ。
映画スタッフには二人の関係はバレているが、まだ世間には漏れていない。微笑ましく見守ってくれている。
忙しい中でもひそりと関係を続けていた。
この勢いだと続編やスピンオフの可能性もあるらしい。仕事も増えて、公私共に順調だ。
映画公開直後は共演が多かったが、それも今落ち着いている。仕事の合間にKKの部屋に行って過ごすのがいつものデートだ。
今日は久々に同じ現場。
クリスマス仕様の雑誌撮影。聞慣れないスーツでの撮影は、暁人にとってかなり大変だった。
KKはというと、さすがは元モデル。バッチリ決めている。緊張している暁人をリードしながら、卒なくこなしていた。
ラフな着こなしから、カッチリとした装いまで撮影は長時間続いた。
その間、チラチラと相棒を見る。
鍛えられた体を包むスーツのラインが美しい。何を着ても自分のものとして着こなしている。
わかってはいたが、かっこいい。身長はそこまで高くないのに、独特な空気があって場を自分の空間にできる力がある。モデルをしていた時、人気があったのはそういう理由からだろう。
それに比べて、暁人はどこか初々しさがあり、どうしても着ているというよう着られている感じだ。
「どうした? 疲れたか?」
視線に気づいたKKが心配そうに顔を覗き込んでくる。
暁人は慌てて首を振った。まさか見惚れていたとは言いにくい。
とにかく仕事はちゃんとしなければ、と気を引き締める。
いつもと違い、後ろに片側だけ後ろに流した髪だとか、きっちり着こなしたベストとジャケットとか、筋ばった腕に光る時計だとか。
全部全部かっこいいことなんて、一先ず置いておかないといけないのだと己に言い聞かせる。
「はーい、じゃKKさん椅子に座ってもらっていいですか? 伊月さんは横から椅子に寄りかかる形でKKさんに近づいてください!」
カメラマンからの指示で接近して、体温とか匂いとか感じても平静を装わないといけない。
自分は俳優、自分は俳優と言い聞かせながら、表面には出さないようにした。
抱きつくようなポーズに、このままぎゅっとしたいと思っても……平常心。
体を伸ばせばキスできそうでも、グッと我慢して……平常心。
ポーズをとりながら、耳元でKKが「いいな、それ似合ってるぞ」と言われても……平常心
「はい、終了です! ありがとうございましたー!」
その声にドッと疲れが押し寄せた。なんだかいつもの撮影より倍は疲れた気がする。
これもあれもKKがかっこいいのがよくない。心臓とかいろいろなところに悪かった。
スタッフさんたちに挨拶をしながら、控室に戻る。今日は別々の控室だ。この後はそれぞれ違う仕事がある。
じゃぁ、と別れようとしたところでKKが声をかけてきた。
「暁人、ちょっとこい。渡すもんがあった」
「え、うん。わかった」
なんだろうと疑問に思いつつ、KKの後ろについて彼の控室へと入った。
ドアがバタンと閉まると同時に、KKが振り向いて暁人の腰に手をまわしてきた。そのまま引き寄せられる。
「わっ」
「おーい、暁人くん。お仕事中、随分熱い視線送ってきてたじゃねぇか」
からかうような声で囁いて、軽く唇を奪っていく。
さすがにバレていたらしい。
あれだけ必死に隠していたというのに、この年上の恋人にはお見通しだったようだ。
ぶわっと顔に熱が集まった。
「うぅ……。だって、KKかっこいいんだもん」
「そりゃな。お仕事ですから? 着こなさないと意味ねぇだろ」
「そうだけど、そうじゃなくて。あんまりスーツって着ないから新鮮っていうか」
「そうか? 割と役柄で着ること多いがな」
「違うよ。二人でいる時のこと」
「まぁ、そうか。なるほどな」
KKが喉奥で笑っている。こういう笑い方も好きだなあと唇を引き結んだ。
「じゃ、今度スーツでデートでもするか? ん?」
「……そんなことしたらバレちゃうよ」
「平気だろ。先輩俳優が後輩俳優と遊んでるってだけだ」
それもそうかと思うと同時に、少しばかり残念な気持ちになる。たとえ一緒にいたとしても、即恋愛だとは思われない。
最近では同性でも付き合ったり、結婚できるようになっているが、同性二人が一緒にいても中々「交際か」とはならない。
当たり前だが、本当にお付き合いしている身としては寂しいものがあった。
またKKが笑う。
「おっまえほんとに考えてること顔に出るな」
「えっ、そうかな。これでもあんまり悟られない方だよ。そんなこと言うの、KKだけだ」
「そうだな。お前はいい俳優だ。けど、俺には人生経験ってのがある。んで、お前も俺の前ではちょっとばかり気が緩んでんだろ。お前は俺のこと、大好きだしなぁ。あとは、俺がお前のことずっと見てきてるから些細な変化に気づきやすくなってるってことだ」
「……僕がKKのこと大好きなのは認めるけど。その言い方だと、KKだって僕のことすごく好きってことだろ」
顔を真っ赤にしつつも返すと、KKは片眉を跳ね上げてニヤリと笑った。
「そりゃそうだ。じゃなきゃ付き合ってねぇよ。俺としては今すぐにでも世間様に公表したいくらいにはお前に惚れてんだ」
こんな直接的な好意の表現は、KKにしては珍しい。
思わず目を見開いてKKを見た。
「最近、会えてはいるが忙しくてゆっくり過ごせてねぇだろ。それに加えて疲れもある。で、俺もお前の普段見慣れないスーツ姿にグッときちまってるわけだ」
ちゅっちゅっと鼻や頬に軽くキスを落としてから、最後は唇へ。
今度はさっきと違って強く唇を押し付けてくる。薄く開いた隙間からぬるりと舌が入ってきて、ゆっくりと咥内を確かめるように撫でていく。
すぐに出ていこうとする舌を、暁人は引き止めるように軽く吸った。
次の現場に行かなくてはならない二人には時間はない。わかっているのに名残惜しかった。
KKの舌はもう一度宥めるように咥内を擽ってから出て行ったのが寂しい。
はぁ、と互いの息が混じりあう。
唇の先端が触れ合う距離で見つめあう。
「なぁ、今日部屋に来いよ。どんなに遅くなってもいい。鍵、あるだろ。なるべく俺も早く終わらせて帰るから」
唇を僅かに触れ合わせながら、甘く低く囁かれる。
これで拒否できる人間なんているわけない。
暁人はコクコクと頷いて見せた。
明日も仕事はあるが、今夜はKKとの時間も大事にしたい。
KKは一度ぎゅうっと強く暁人を抱きしめてから、腕の力緩めた。
「じゃ、後でな」
今度は暁人がKKの体を強く抱きしめた。
「うん。僕もしっかり仕事して、早く帰るね」
離れる際に、最後まで手を伸ばして、互いに名残惜しさを感じながら別れた。
この日、暁人は恋人との時間を確保すると気持ちでやる気に満ち、最速で仕事を終わらせた。
それはKKも同じだったようだ。
思っていたよりは長い熱い時間を過ごすことが出来た。
後日、KKがこの日のスーツをすべて買い取っていて、スーツデートが実現したのも、暁人にとっては嬉しいサプライズだった
END