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    xxshinopipipi00

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    28×17の波に乗った転生現パロ教師×生徒の五夏です。記憶あり、ガッツリ教師が生徒に手を出してます。

    #五夏
    GoGe

    秘密の箱庭 一日の授業の終わりを告げるチャイムが高らかに鳴り響くと、学校内はにわかに賑やかになった。押し込められていた環境から解放されたように、わっと騒ぎだす学生たち。これから明日の朝までは、彼らの時間である。
     高校生の放課後。それも金曜の授業が終わったばかり、これから来週月曜までの長い自由時間、青春の最前線ともいうべき時を前に、彼ら彼女らが色めき立つのも当然だ。教室の中は一気に秩序を失い、今日一番の盛り上がりを見せる。
     今日どうする? とか。あそこのお店の新作見に行こ、とか。そんなことを口々に言いあってはきゃあきゃあと騒ぐ同級生たちの中で、夏油傑は一人のんびりと鞄を片付けていた。
    「夏油はどうする?」
     前の席の同級生が振り返ってそう尋ねる。今日はゲーセンに行こうと思っているのだと、彼はにこやかに言う。顔を上げた夏油は、ゆるく首を横に振った。
    「今日はごめん、用事があるんだ」
    「またぁ? 最近そんなんばっかじゃん」
    「ごめんって。また誘ってよ」
    「おう、お前がくるとみんな喜ぶからいつでも来いよ」
     気を悪くすることもなく、彼はそう言って手を振ってくれた。それに夏油も手を振り返して、片付け終わった鞄を背負って夏油は席を立った。
    「え、夏油もう帰んのぉ?」
    「うちら今日カラオケ行くんだけど夏油も来なよ」
     出入り口付近の席の女子たちが、教室を去ろうとする夏油に気づいてそう声をかける。それにも夏油はにこりと笑った。
    「ごめん、家の用事あってさ。また今度ね」
    「夏油の家ってそんな忙しいの?」
    「うーん、まあ、そうかも。いろいろね」
     返事に困ったように眉を下げてみれば、女子たちはそれ以上は聞かずに「そっか」と笑い返してくれた。
    「また今度ね」
    「約束な」
    「うん、じゃあね」
     まだまだ帰るつもりのなさそうな女子たちにひらりと手を振れば、他のクラスメイト達も夏油が帰るのに気づいたらしく、それぞれに手を振ってくれた。
     じゃあな、また来週。またメールするわ。口々に夏油に声をかけてくれるクラスメイト達の声を背中に受けながら、ようやく教室を後にした。
     廊下から玄関までの間も、浮かれ切った高校生たちでいっぱいだった。夏油のことを知る生徒はみな夏油に声をかけ、その一つひとつに夏油は視線を向けては軽く言葉を返す。彼らから帰ってくる肯定的な反応は、夏油が学校全体に広く認知されていること、そのうえで彼が好意的に受け入れられていることの証でもあった。
     学年で一番の長身に、後頭部でまとめた黒の長髪、校則違反ギリギリの黒い大きなピアス。そんな見た目とは裏腹に優等生然とした態度と、仲間内でだけ見せる砕けた態度。そのギャップが彼を有名たらしめるものだ。顔も広く、話は真摯に聞いてくれるし、悪ふざけにも適度に付き合ってくれる。教師陣への態度は良好で評判もいい。一度話せば、誰もが彼のことを気に入るとも言われていた。
     そんな彼に声をかける人間が多いのは当然だった。しかし彼はかけられる誘いのどれにも応じず、始まったばかりの休日に向けて浮足立つ校内をのんびりと抜ける。
     玄関に到着したところで、一人の人物が校門の脇に立っているのが見えた。
     一般人離れした長身に真っ白い頭のポロシャツ姿の大人は、この学校の数学教師兼物理教師、五条悟である。
     生徒の見送りをしているらしいその姿は、非常によく目立つ。その長身や色彩もそうだが、彼はとにかく顔がいいのである。モデルや俳優をしていれば間違いなく売れっ子になっただろう見た目の彼は、しかし今この学校で教鞭をとっている。
     目立つ見た目の故に女子生徒からの人気は高いのだが、それだけではなく不思議と彼は男子生徒からも好かれていた。生徒たちとの距離感はほどほどに近く、何かと気軽に話しかけられる雰囲気もある。多少軽すぎるノリでたまに他の先生に怒られているところも見られるが、それもまた生徒からすれば親近感がわくというものだ。
     そんな彼が見送りに出ているのだから、生徒たちが集まるのも無理はない。集まった生徒たちはみな口々に先生、先生、と何かを話しかけているようだった。女子生徒の割合が高いけれど、男子生徒の姿もある。
     生徒たちは少しその場で言葉を交わすと、すぐに友達同士でつるんで校門を出ていく。彼らには輝かしい休日が待っているのだ。
     五条はそれをにこやかに手を振って見送って、また次の生徒の言葉に耳を傾けていた。恐らく何十人、下手をすれば何百人という生徒たちが声をかけていくのに、どうやら五条はその一人一人の顔と名前を覚えているらしい。そう言うところも人気の秘訣なのだろうか。
     夏油はその人だかりに若干眉をひそめて、それから誰にも気づかれないように小さくため息をついた。
     ほとんどすべての生徒が五条に声をかけていく中で、夏油はその隣を黙って通り過ぎる。同時に何人もの生徒が校門を抜けていくのだから、彼が一人挨拶を返さなかったからと言って、なんということもないだろう。
     するりとその隣を抜けたあたりで、五条の顔が足元の生徒たちから少しだけ持ち上がった。
    「夏油」
     ――彼の声が、夏油を呼び止めた。ぴくり、体を止めた夏油は、そちらに顔を向ける。
    「気を付けて帰るんだよ」
     明るいブラウンの瞳が、まっすぐに夏油を見ていた。その大きな瞳がにこりと丸く弧を描く。
    「……さようなら、五条先生」
     その視線をまっすぐに受け止めた夏油は、ひらりと振られる手に同じくにこりと微笑んで手を振り返す。一瞬立ちどまった体を再び前へと進めれば、すぐに五条の視線は彼から外された。
     彼の暮らすマンションは、学校から電車で数駅のところにあった。まだ帰宅ラッシュの始まり切らない車内は多少空いていて、体格のいい夏油でもあまり気にすることなく座席に腰を下ろすことができる。
     がたんがたん、と一定間隔で揺れる車体にその前髪を揺らすこと十数分、そうして到着した駅から徒歩五分ほどのところにあるのが、目的のマンションである。
     ふと携帯端末の画面を付ければ、学校が終わる少し前の時間にいくつかのメッセージが送られていた。
     内容は夕飯の買い出しの依頼だ。牛乳と卵と玉ねぎ、それに鶏もも肉が安かったら二パック。食器用洗剤とスポンジのストックが切れそうだから、ドラッグストアに寄れそうだったら。そんなことが端的にまとめられたメッセージに、夏油は目を通す。
     駅に直結した建物の中に、彼がいつも使うスーパーマーケットがあった。タイムセールの時間にはまだ少し早いかもしれないけれど、買い出しのためだけに出かけるのは面倒だ。制服姿のままで夏油はスーパーに足を踏み入れた。
     頼まれたものを手際よく買い物かごに入れる。鶏もも肉はちょうどタイムセールが始まろうとしているところだったらしく、うまく安く手に入れることができた。そのかごを持ってレジに並んでいる間に、背負っていたスクールバッグから買い物用のエコバッグを出していれば、あっという間に買い物は完了した。
     スーパーを出たところで「買い物完了」の旨を返信する。そうすぐに既読はつかないだろうと思って、そのまま画面を眺めることもなくぽんと端末をポケットに放り込み、彼は帰路に戻った。
     マンションのエントランスを抜けて、エレベーターで目的階へと上る。校門を出るときにはまだ黄色かった太陽の光は、少しずつ赤みを帯びてオレンジへと染まっていく。着実に夕方へと近づいていく空気の中で、夏油は玄関の鍵を開けた。
     家の中は真っ暗だった。カーテンを引いたリビングは、そのカーテンの下の端から少しだけ光が差し込んで、部屋の中をうすぼんやりと明るくしている。
    「ただいま」
     誰もいない家の中にそう告げて、夏油はまっすぐリビングへと足を向けた。そのまま閉ざしていたカーテンを開けば、ぱっと明るい光が部屋を満たして、その眩しさに彼は思わず目を細める。
     そのままスーパーで買ってきたものを冷蔵庫に移し、ダイニングテーブルの上にスクールバッグをぽんと投げ出した。制服の襟を緩めながら、彼はポケットの中の端末を取り出して、バッグの隣に置く。
     新着メッセージはまだ入っていなかった。まだ端末を見られていないのだろう。
     まあそりゃそうだろうな、と宛先の人間の今を思い浮かべ、夏油は小さく息をつく。まだ仕事が忙しいころだろうから、端末など見ているはずもないのだ。
     ダイニングの椅子を引いてそこに腰を下ろして、彼はテーブルの天板に伏せた。腕に額を乗せるようにすれば、夕方の日差しを遮って目元に影が落ちる。
     疲れた、と夏油は口の中だけで呟いた。
     嘘だ、そんなに疲れているわけではない。学校の授業は別に難しくもないし、通学も大変ではないし。ただ、少し疲れたな、と思うだけだ。
     ――ほんの数十分、余計なことを考えていただけだ。自分の中にある感情をうまくコントロールすることができなくて、それがいらぬ疲労感を彼に与えているだけ。
     大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。それを幾度か繰り返していると、不思議ととろりと眠気が落ちてきて、彼の瞼を重くする。思考が眠りに沈む。
     寝るのであれば自室に戻ればいい。ふかふかの使い慣れたベッドが待っているのだから。
     ――そうしないのは、この場所に意味があるからだ。この場所であれば、帰ってきたときにすぐにわかるから。
     早く帰ってくればいいのに。そんなことを考えながら、夏油の意識は眠りの底へと引きずり込まれていった。


    「傑。こんなところで寝てると体痛めるよ」
     肩を揺さぶられる感触で、夏油は意識を浮上させた。
     ううん、と小さく呻いて瞼を持ち上げれば、蛍光灯の白い光が開いた瞳孔にちかちかと入り込む。眩しさにしばらく目を細めていると、その目の前に一つの顔が入り込んだ。
    「起きた? おはよ、傑」
     よく寝てたね、と言ってにこりと笑うのは、明るいブラウンの瞳の男だった。その瞳を縁取るまつ毛は白。髪もそれと同じく白である。
    「……おかえり、悟」
    「ただいま。買い物ありがとね」
     ――五条悟。数時間前に校門前で手を振ったはずの、同じ学校の教師が、そこにはいた。
     瞳を細めた彼に、夏油はぺたりと手を伸ばす。その目元をゆるりと指先で撫でれば、くすりと五条は笑みをこぼした。
    「なんでまだ外してないの」
    「今帰ってきたところだからねえ」
    「ここで外して」
    「……いいよ」
     机に伏したままの夏油の頭を、彼の手がくしゃ、と撫でた。そのまま彼は洗面所へと足を運んで、コンタクトの洗浄液と保存容器を持ってくる。
     彼の要望通り、五条は彼の目の前で、その瞳へと指を伸ばした。
     きゅ、とつまむようにしてその瞳孔からコンタクトレンズが外される。ブラウンのそれがぷちゅりと指先に外れれば、彼の本来の瞳があらわになった。
     昼間の空のような青い瞳。それが、五条悟の本当の目の色である。教職という仕事の都合上、外に出る彼はその目の色をカラーコンタクトで隠しているのだ。外したコンタクトレンズを保存容器に入れて保存液で満たして、きゅ、とふたをすれば、次の月曜までは用なしだ。
     あらわになった青い瞳に、夏油はじいっと見入る。
    「これでいい?」
    「うん」
     伏せていた体を起こした夏油は、改めてその目元を指先でするすると撫でる。人差し指で撫でていたのを親指に移せば、残りの指は五条の頭を掴まえるように、その白い髪に埋まる。
    「悟」
    「なぁに」
    「キスして」
     彼の唇からこぼれた言葉に、五条は一瞬目を丸くする。それから自身がされているのと同じように彼の頬をそっと撫でて、口角を緩く持ち上げた。
    「目、閉じて」
     五条の言葉に、夏油は素直に従った。見上げるように持ち上げた顔、その真ん中で黒い切れ長の瞳がそっと閉じられる。意外と長いまつ毛がふるりと震えるのを見て取って、五条がふは、と呼気を漏らした。
    「かわいいね、傑」
     夏油の強請るまま、五条はその唇を自身のそれで塞ぐ。かさついた柔らかな皮膚同士が触れ合って、ぴくりと夏油の肩がわずかに跳ねた。
     五条の目元に触れていた手が、するりとその首へと流れて絡みつく。それと同じタイミングで五条は目の前の体に自身の腕を回した。制服のままの体は高校生にしてはよく鍛えられた方だが、それでもまだ大人の体には至らない。
     ちゅ、ちゅ、と幾度かの触れ合いの後、どちらともなく唇はゆるりと開いて、その先への侵入を互いに許した。差し出された舌を五条がちゅっと吸ってやれば、またぴくりと目の前の体が震える。
    「む、……ん、ぅ」
     首に絡まった腕がきゅうと力を強める。それに合わせて五条も抱きしめる力を強くして、二つの体をぴったりと重ね合わせた。
     玄関を入ってすぐのダイニングで、立ったまま抱き合って唇を重ねて。それぞれが身にまとうのは属性のマークで、片方は教師でもう片方は学生。外では決して公言できない関係は、しかしこの家の中ではないに等しいものだった。
     教師と学生、という立場以前に、彼らは唯一無二の親友で、恋人だった。
     両親を亡くした夏油を五条が引き取ったのは数年前のことだった。当時まだ大学生だった五条が少年を引き取るにあたって、五条はずいぶんいろいろなところに根回しをしてくれたらしい。どうして、と尋ねると、彼は「傑のことが好きだから」と答えてくれた。
     二人には、前世の記憶というものがあった。前世では二人は同級生で、呪術という未知の術を使っていて、二人で最強だった。同級生という枠からは少し外れた重すぎる執着と愛情を抱えてともにあるうちに、彼らは恋人という概念まで包括する友人、親友となった。けれど二人はある時点で道を違え、前世の夏油は五条の手で最期を迎える。その後も五条は一人で生き続けたらしいけれど、その先の人生の話を五条は夏油にしてくれたことはなかった。
     初めて出会った瞬間によみがえった記憶。目の前にいる男が、前世で自身の命を賭しても愛した相手であるとわかって、ともに生きるという選択肢以外を選べなくなった。引き取られてきた初めの夜に、彼らは前世の関係を取り戻す。体や身分の差などは、もう一切意識に上らなかった。
     互いが互いであれば、それだけでよかったのだ。それ以上のことなど、何も考えられはしなかった。
     ぬる、と入り込む舌に応えるように、夏油は大きく口を開いてあごを持ち上げる。上から押し付けるようにして与えられる口づけにぞくぞくとその体を震わせて、腹の底からたまらない気持ちが沸き上がる。
     年齢差はおよそ十年。その十年の肉体の成熟の差か、夏油は五条に与えられる刺激には非情に弱かった。キスだけで足が震えそうなほどの快楽が彼の体をぐるぐるとめぐって、首に回していた腕を背中へ移して縋るように抱き着く。その体を支えるように、五条の腕が夏油の腰を抱いた。
    「ぁ、う」
     唇の隙間から漏らす吐息に熱がこもる。もっと、と強請るように背中にしがみつけば、くっつけた五条の唇が楽しそうに震えた。
     ちゅぽ、と音を立てて離れていく唇の間に、唾液の糸が伝った。すっかりとろりと溶けた夏油の表情に、五条はその唇を指で拭ってやる。
    「はい、一回ここまでね。着替えておいで」
     心なしか息の上がった夏油に、余裕の表情で五条は微笑んだ。その余裕にむ、と夏油は唇を尖らせる。
    「もっと」
    「だぁめ。晩ごはんが先」
     抱きしめていた体を離して、背中に縋る腕をそっと外させる。そうして腕から抜けるようにして、五条はキッチンへと足を運んだ。
    「悟」
    「そんな顔しないでよ、止められなくなるでしょ」
    「止めなくていい」
    「よくないよ。僕もお腹空いたの。傑だってお腹空いてるでしょ」
    「……それは、そうだけど」
    「晩ごはん、チキンドリアなんだけど。食べないの」
    「……食べる」
    「いい子。じゃあ着替えておいで」
     エプロンをするりと身に付けながら、五条は夏油に背を向けて、ひらりと手を振った。その背中を拗ねたように見つめた夏油は、仕方ないなとため息をついた。
     自室に戻る前に、自身に向けられた背へとするりと近寄る。夏油よりもなお高身長の男の背中にそっと抱き着いて、その肩口へと口元を寄せて。
    「――今夜、準備しとくからね。五条先生」
     囁いた言葉に、五条がぱっと振り返る。その瞬間には夏油は自身の体を離して、いたずら成功とばかりに五条に笑って見せた。
    「……お前ねえ」
    「じゃ、着替えてきまーす」
     五条がどんな顔をしているかなんて、見なくても分かった。くるりと体をひるがえして自室へ戻る、その背中に突き刺さる視線。
     その視線を向ける彼の青い瞳に、いったいどれだけの情欲が滲んでいるのか。それを想像するだけで、夏油は胸がすく思いだった。
     ――彼の手にわずかに触れる、誰かの手を見た。帰り際、校門前で見送りをする五条の手に、誰かの手が触れているのを。
     五条の手に比して小さなそれは、きっと女子生のものだ。どこの誰かは分からないけれど、きっと夏油とは違う、小さくて柔らかくて、もっと簡単に彼を受け入れられる体の持ち主の。
     五条はそれに何の反応もしていなかった。ほんの一瞬ぶつかっただけだと思ったのかもしれない。
     けれど、夏油には分かっていた。その手の持ち主は、五条の気を引きたかったのだと。
     ――ごめんね、名前も知らない誰か。
     彼が情欲を孕んだ目を向けるのは、自分に対してだけなのだ。事故のような一瞬の触れ合いなんて、夏油には不要だった。彼がこの体を、自分自身を何より求めてくれることを、夏油は知っているから。
     誰にも知られてはいけないけれど、間違いなく五条は夏油のものだ。夏油もまた、五条のものだ。彼の本当の瞳の色も、その瞳が肉欲に揺れて燃える瞬間も、夏油だけが知っている。
     だから、ごめんね。初めから勝負になんてならないのに、それを教えてあげられなくて。不毛な思いを終わらせてあげられなくて。
     鼻歌交じりに夏油は自室に戻る。今から月曜の朝までは、五条は彼だけのものだ。
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    💜🌋
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    xxshinopipipi00

    SPUR ME7/30新刊サンプル第4話です。
    当主×呪専の五夏、唯一の1年生すぐるくんが五条家の当主様に気に入られる話。
    すぐるくんが五条のおうちに行く回です。モブが若干でしゃばる。

    前→https://poipiku.com/532896/9061911.html
    イカロスの翼 第4話 目の前に聳え立つ大きな門に、夏油はあんぐりと口を開けた。
     重厚な木の門である。その左右には白い漆喰の壁がはるか先まで繋がって、どこまで続くのか見当もつかない。
     唖然としている少年の後ろから、五条はすたすたと歩いてその門へと向かっていく。
     ぎぎ、と軋んだ音を立てて開く、身の丈の倍はあるだろう木製の扉。黒い蝶番は一体いつからこの扉を支えているのか、しかし手入れはしっかりされているらしく、汚れた様子もなく誇らしげにその動きを支えていた。
    「ようこそ、五条の本家へ」
     先に一歩敷地に入り、振り向きながら微笑んで見せる男。この男こそが、この途方もない空間の主であった。
     東京から、新幹線で三時間足らず。京都で下車した夏油を迎えにきたのは、磨き上げられた黒のリムジンだった。その後部座席でにこにこと手を振る見知った顔に、僅かばかり緊張していた夏油は少しだけその緊張が解けるように感じていたのだけれど。
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