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    ふく波羅探題

    @fukuharatanda1

    K暁の短い小話置き場
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    ふく波羅探題

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    急に寒くなったので
    KKが焼き芋買い込んで、学生組とお芋さんパーティーする話🍠

     ここ数年、夏と冬以外の季節はなくなってしまったんじゃないだろうか。
     つい先週までは半袖でもまだ蒸し暑く、クーラーをつけていたって何の違和感もない“夏”だったはずの季節は、数日前に到来した大型台風によってすっかり“秋”へと転身していた。とはいえ秋というには肌寒すぎる。
    「寒ぃ……」
     KKはろくに天気予報も見ず半袖一枚で出てきたことを後悔しながら、吹き抜ける風に首をすくめて一人ごちた。
     KKの幼い頃は、秋が冬を引きずりながらこんなに全力駆け足でやってくることなんてなかったはずだ。空が遠のいて空気が冷たく澄んでいき、生い茂る緑が赤や黄色へ色付いてゆく移ろいを、日に日に五感で感じていくのが秋の醍醐味だろう。
     九月も終わろうとしているこの時期まで残暑とも呼べない暑さが続き、何の前触れもなく寒くなるなんて言語道断。小さな秋を見つける前に凍え死んでしまう。
     背中を丸めポケットに手を入れて歩く姿は、気温の割に季節感のない服装も相まって、想像以上に滑稽だろう。早いうちに衣替えをしなければと固く決意していると、木枯らしに乗ってポーと優しい汽笛と一緒に、聞き馴染みのある節の効いた声が聞こえてきた。
     懐かしい、癖のあるメロディだ。子供の頃の学校帰り、友達と道端に落ちていた枝を拾ってブンブン振り回しながら歩いていると、よく出くわした記憶がある。みんな急いで家に帰ってお小遣いを握りしめ、再び集まったものだったか。
     当時聞いたものとは多少違っていたが、KKはついついつられてその音の出どころを辿っていく。小銭を握りしめていたあの頃のように、とは大袈裟だが、自然と足取りは早くなる。「早くしないと行っちゃうよ〜」なんて気の抜けた独特の節で言われれば、急げ急げと走って追いかけた童心が蘇り、やはり焦りは湧くものだ。
     角を曲がった先には案の定、白い軽トラックが荷台に大きな鉄の塊と屋根を載せて停まっていた。KKは弾む息を悟られないよう軽く深呼吸してその軽トラックへと近付く。
     運転席から降りてきたのは、笑い皺の刻まれた気の良さそうな爺さんだった。恐らくこの道何十年。煤けた帽子と白い顎ひげのコントラストがよく映えている。
    「小を、……いや、やっぱり大を……四つで」
     自分一人で食べてもよかったが、この時間はきっとアジトには食べ盛りの若者達がたむろしていることだろう。他の大人が居るかはわからないが、余れば分ければよし、足りなければ我慢してもらえばよしだ。
     幸い片手に握っているのは小銭ではなくくたびれた革財布。少ない小遣いをやりくりするのに小にするか中にするかを散々悩んでいたあの頃とは違い、これくらいの贅沢は出来るのだ。
    「あいよ」
     爺さんは目尻の皺を濃くして応えた。荷台に設置された銀色の金属蓋を開けると、湯気とともに甘くて香ばしい香りが広がる。赤い皮にところどころ黒や茶色に焦げ目のついた焼き芋たちがズラリと並んだ姿に、KKは思わず唾を飲み込んだ。
     爺さんは新聞紙で作った袋に焼き芋を一つずつ詰めていく。見るからに大きな芋を二つ、新聞紙の袋をもう一袋取り出してもう二つ、ついでに一番小さなものも一つ。
    「オマケね」
     と、銀歯を光らせ爺さんは笑った。今日日珍しくビニール袋も無料なようで、何も言わずに二袋の新聞紙を収められる。
    「お、ありがとう。いくら?」
    「二千四百円」
    「……と、あった。はいよ」
    「はいちょうど。毎度あり」
     爺さんの手の平へ現金を渡して袋を受け取る。芋が五つも入っていればそれなりの重量だ。
     KKはその重みに苦笑して、すっかり口に馴染んでしまったコンビニのテーマソングを口ずさみながら幽玄坂へと歩き出した。
     優しい汽笛と「おいし〜おいし〜お芋だよ〜」の声は、次第に遠ざかっていった。

     ドアを開けると玄関には予想通り、ローファーが二足と大きめのスニーカーが一足、綺麗に並べられていた。中からは和やかに談笑する声が聞こえてくる。
     扉の開く音は届かなかったのか、笑い声が途切れることはなかった。KKはほんの僅かに寂しさを覚えたが、箸が転んでも可笑しい年頃の連中相手に何を期待しているんだと、すぐに払拭して気を取り直し、靴を脱いだ。
    「おいおい、いつからここはオマエらの溜まり場になったんだ?」
     言いながらリビングに入る。何がそんなに面白いのか、センターテーブルを囲う三人は異口同音に「KKおかえり」と言いながらも、しばらく笑いが止むことはなかった。
     テーブルの上にはスナック菓子がいくつか広げられ、コーヒーの入っていたと思わしきマグカップまで用意されている。女子高生二人に男子大学生一人の何とも不思議なメンバーでのお茶会はさぞ盛り上がっていたことだろう。
    「KKさん、寒くなかった?」
    「ああ、死ぬほど寒かったよ」
    「うちの学校、みんなほとんど冬服だったもん! KKはまだまだ風の子だね」
    「うるせえ、天気予報見てなかっただけだ」
    「KKそれもしかして焼き芋? 僕たちの分ある!?」
    「おうおう奮発したんだ。ありがたく食え」
     途端に歓声が上がる。女三人集まればかしましいとはいうが、そこに一人男が混じっても違和感なくかしましい。
    「僕、コーヒー淹れ直してくるからみんな先食べといて」
     暁人は弾んだ声で言い、並べられたマグカップを三つ持って心なしか早足でキッチンへと向かった。
     KKはその忙しない様子にため息を吐いてテーブルの前へ座り、新聞紙の袋を取り出す。新聞紙越しにもまだ十分暖かい。
     テーブルの上へ並べて折り畳まれた新聞紙の端を伸ばすと、甘い香りが広がった。
    「美味しそう! わたし焼き芋なんて久々だよ。どれにしよう。食べすぎたら太っちゃうしなぁ……」
    「じゃあ麻里ちゃん、私と半分ずつにしない?」
     麻里と絵梨花の二人はあれこれ言い合いながら、一つ手に取った。
     KK自身もそれほど食べる方ではない。半分だけで十分だろう。匂いと懐かしさにつられて四つも買って、しかもオマケまでもらってしまったが、他のメンバーを数えてもこれは買いすぎたかと一瞬後悔した。
    「お待たせ」
     そこへ四人分のコーヒーをお盆に乗せた暁人が戻ってくる。インスタントにしたって早すぎる。それほど焼き芋にありつきたかったのか、手早くカップを配り分けると待ち切れない様子で迷いなく一等デカい芋を手に取った。
     この世には痩せの大食いと呼ばれるものがいる。痩せと言われるほど痩せているか、と問われればほどよく付いた筋肉ゆえにすぐさま肯定するのは迷うところだが、体格に似合わぬ量を腹に収める目の前にいるこの男は、そう称するに値する人間だ。
    「オマエ、オレの半分食うか?」
    「え、いいの?」
     KKの申し出に、暁人は目を輝かせた。KKは頷き、芋を一つ両手に持って半分に割る。表面温度の下がったそれは持つには困らない熱さであったが、割ると途端に白い湯気が立ち上る。不規則に隆起した濃い黄色の断面が食欲をそそる。移動販売に使われる芋なんて質のよくないものだろうと決めつけていたが、意外にも蜜はたっぷり、橙色も滲んでいる。
     片方を暁人へ差し出すと、自分の大事に持っていた芋を置き「ありがとう」と満面の笑みで受け取った。
     一足先に口を付けていた麻里と絵梨花はおいしいおいしいと絶賛している。暁人もパクリと大きく食いつき、熱さに悶えながら幸せそうに目を細めた。
     それを見てからKKも小さく一口。火傷しそうな熱さと口いっぱいに広がる懐かしい甘さに思わず「美味え」と声が出る。
     子供の頃を呼び起こさせるその味に、急にやってくる秋も悪くないものだとKKは口元を緩めた。
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