【輝く光】ヒュンポプ噂には聞いていた、パプニカ主催の舞踏会。
それが行われる事になるなんて、誰も思わなかっただろう。
世界が危機にさらされ滅亡かと思われた中、その危機を救った勇者達によって世界は再び平和へと歩み始めた。
その中で、復興を遂げたパプニカの、他の国の国賓などを呼んでの舞踏会である。
それは、平和の証として、これからも和平を結ぶという意味を持つものだった。
「あー、なんでこんなのに俺も出なきゃなんねーんだよ」
「仕方ないだろう」
「めーんどくせ」
舞踏会会場の端で壁に寄りかかりながら、シャンパンを飲むポップはブチブチと文句を呟いていた。
広間では、音楽が奏でられ彩られた人々がダンスを踊っている。
このようなパーティーには、自分は相応しくないとポップは嫌がったが、レオナの命令により参加せざるをえなくなったのだ。
もちろんヒュンケルも辞退したが、聞いてくれる訳もなく、むしろヒュンケルは華になるのだからと、強制参加をさせられた。
もちろん、服装もフォーマルなもので、ポップは深緑を基調としたスーツを、ヒュンケルは白を基調としたスーツに身を包んでいた。
ポップはトレードマークのバンダナは外している。
ヒュンケルなどは、侍女が張り切ったのか、いつもの流れるような綺麗な銀糸の髪をビシリとセットされていた。
「あー、ならせめてどっかの可愛い女の子と知り合いになりてぇなあ」
「……そうか」
もちろん、ポップやヒュンケルと同じ歳程の女性も会場内にはいて、煌びやかなドレスに身を包み、ちらちらとこちらを見ているのがわかる。
視線を感じるのはヒュンケルにもポップにもわかるが、しかし、大概がヒュンケルのことを見ているのだと分かりきっているポップには、まあ、面白くはない。
だからこそ、この場にいたくないという理由にもなるのだが。
「いーよな、お前はよ」
「何がだ?」
「だってよ、女の子選び放題じゃん」
「……意味がわからんのだが」
ほのかに酒気を帯びて目元を赤くしたポップは、恨めしそうにヒュンケルを睨みながら呟く。
だが、ヒュンケルにはポップという想い人がいるのだから、他の女性などには興味はないのだ。
この想いは告げるべきかどうかは、まだ分からないままに、今に至る。
「俺も女の子と踊りてぇなー」
「踊りたいのか」
「あ?まあ、そりゃ…」
何を言っているんだと言いそうな顔をするポップに、ヒュンケルははあ、とため息をつくとシャンパンを取り上げ、その手を掴み歩き出す。
突然の行動にポップは慌てるが、ヒュンケルは堂々とポップの手を引き広間の中央へと足を踏み入れた。
その瞬間、ヒュンケルはポップの腰に手を回し、奏でられる音楽に合わせて、動き出す。
「ちょ、まてって!おれダンスした事ねえ!」
「大丈夫だ、オレがリードする」
「いや、てかおれが女パートって…」
「嫌か」
「嫌に決まってんだろ!」
ギャンギャンと喚きながらも、ポップはヒュンケルに合わせている。出来ない、などといいながらも、こういう行動には勘が働くのか、ヒュンケルの動きに着いてきているようだった。
「その割には、踊れているようだが」
「これでも辛いんだけどな!?」
くるり、とターンするヒュンケルにポップは合わせてターンする。腰を引き寄せて密着しながら、周りに当たらないようにヒュンケルはポップを導いていく。
男女のペアの中に、一組の男同士のペア。
くるりくるりと踊る二人が目立つのは当たり前で、それがアバンの使徒の二人であるなら、誰もが振り向くだろうことだった。
中でも、女性陣からは、きゃあ!と高い声が上がり、「ヒュンケル様よ!」「ポップ様も!」「おふたりが…!」などと小さな声で騒いでいるようで、そんな中、ダンスに集中しているポップには、そんな声が上がっていることなど分かるはずもなかった。
「段々慣れてきているんじゃないか?」
「あー、まあ、そりゃなあ」
「なら、これはどうだ?」
「うわっ!?」
ヒュンケルは手を繋いだまま、少し離れるとポップの腰を掴み抱き上げ、ふわりと回る。
その突然の浮遊感に驚いたポップは慌てるが、直ぐにそれに合わせて、ヒュンケルの肩を掴み崩れ落ちないように体勢を整えた。
直ぐに降ろされたが、また直ぐにふわりと抱き上げられる。
それに合わせて、悲鳴のような声が上がるが、もちろんそれは、2人を見守る女性陣の声である。
余裕が出てきたポップは、その声に引き寄せられ周りを見渡す。だが、それも一瞬の間にしか出来ずにいた。
しかし、また悲鳴が上がりポップは、なんだ?と首を周りに向けようとしたが、その瞬間、ぎゅう、と顔をヒュンケルの胸元に押し付けられた。
そのまま、抱きしめたまま、またくるりとまわる。
「なん、だよ!」
「ポップ」
「んあ?」
半ば睨みつけるように見上げれば、少し不機嫌なヒュンケルの顔が近づく。
あわや、キスされるかと思うくらいの位置、吐息さえも触れ合いそうになる顔の距離に、ポップは怒りも忘れてドキリとした。
「ポップ、よそ見とは余裕だな」
「余裕なんて……」
慌てて目を逸らそうとするがそれは叶わず、ヒュンケルはじ、とポップを見つめながら、
「キョロキョロするな、お前はオレだけを見ていろ」
そう囁くように呟くと、ポップの唇に自分のそれを押し付けた。
瞬間、怒涛のような悲鳴があがり周りが騒然とする中、ヒュンケルはまた、ポップの腰を抱き、音楽に身を任せるようにしてダンスを続けたのだった。
その後ポップに追求され、ヒュンケルは告白する事になるという未来が待つとも知らずに。
そして、更にその後には、レオナ達からも追求を受ける運命が待ち受けていたのだった。