ゼルギウスが人間不信になりそう「ユストクスは、実は文官だったのですか?」
「いえ? ゼルギウスも知っての通りの側仕えですよ。文官の仕事もできるだけで」
「本当ですか? フェルディナンド様のお話から察するに、戦場でも前線で戦っていたのでしょう。文官でも普通そんなことはしませんよね?」
「あれは、成り行きもありますね。講堂という限られた空間で、是非とも捕らえねばならない相手がいましたし、敵も非常に強かったですから」
「そもそも、普通の側仕えや文官は戦えないと思うのですが……」
「おや? ローゼマイン様はあれほど虚弱でいらっしゃっても、前線で戦っておられましたよ?」
「恐れながら、ローゼマイン様も一般的な領主候補生とは言い難かったかと……」
「ユストクス、ゼルギウスをからかうのもほどほどにしておけ」
「フェルディナンド様も人聞きの悪い。――まあ、率直に言いますと私はかなり変則的な側近ですね。フェルディナンド様が貴族院にいらした頃は側仕えとしてお仕えしましたが、ご卒業なさった後は、時に応じて側仕えにもなれば文官にもなりました。情報収集能力を買われておりますので、収集先に合わせてどんな役でもこなしますよ」
「エックハルトと情報収集でエーレンフェストの下町に下りて以来、商人の真似ごともしていましたね」
「あの時は大変だった……」
「エックハルトもそのようなことを?」
「フェルディナンド様の命令だったのだ。だがユストクスはそれ以降も折に触れて下町に下りては、色々な情報を集めて来るようになった」
「こちらへ来てからは、厨房で野菜の皮むきもしていたな」
「していましたね」
「え、え……? こちらへ来てからもそのようなことを?」
「ゼルギウスの目を誤魔化すのは訳ないことでしたが、ゲオルギーネ様の目が厳しくて。なかなか大変でしたよ」
「という訳だ、ゼルギウス。これからもユストクスはこそこそと動くだろうが、特に気にしないでいてくれれば良い」
「は、はあ……?」