「……フェルディナンド様、そういえばライムントはどうなりました?」
婚約式を終え、造ったばかりの図書館や研究所を一通り見終えた後のことだった。夕食の席で今後のことをあれこれと話していると、ふとローゼマインがそんなことを口にした。
「どう、というと?」
今一つ意図が分からずフェルディナンドが問い返せば、ローゼマインは、認証のブローチですよ、と言う。
「寮から締め出されて、ヒルシュール先生の研究室にいるしかなくなっていたでしょう? 彼と彼の側仕えは大丈夫でしょうか。かなり不便をしているのではございませんか?」
フェルディナンドは一瞬思考を止めた後、ライムントの置かれた状況に思い至って、ああ、と声を漏らす。
「……忘れていたな」
「やっぱり!」
ローゼマインがこちらをじとりとした目で睨め付けてくる。何故そんな目を向けられなくてはならないのか。
「心配せずとも、寮内にいた者達も一応外と行き来が可能だ。側仕えや下働きの使う出入り口がある」
アーレンスバッハへ来たばかりの時、粛清を行うエーレンフェストからその出入り口を使って情報が漏れることを危惧したものだった。今回寮にいた者達にその出入り口のことを伝えることができたのも、粛清の警戒あってのことだった。
「転移陣が使えないのならば、大変なのは変わりませんよ。わざわざ外を通って寮と文官棟を行き来するのでしょう?」
「先日までの君の状況に比べれば大したことではあるまい」
何せ神々の御力を身に受けて死にかけていたのだ。フェルディナンドがどちらを優先するかなど自明だろう。
ローゼマインはちょっと申し訳なさそうな表情を見せると、手許の皿の野菜を切って口にする。ややあって小さく笑う。
「後で認証用のブローチを、追加で寮の方へ送る必要がございますね。それから、領主会議前にライムントにお詫びをしなくては」
「別に、ブローチさえ送れば詫びる必要はないだろう。君の不手際があった訳でもあるまい」
当たり前のことを言ったつもりだったが、ローゼマインにはすげない言葉に聞こえたのだろう、また難しい表情でこちらを見てくる。
「フェルディナンド様の側近なのに、扱いがあんまりではございませんか? もう少し大切にしてあげて下さいませ」
――利用するために側近にしたのだから、大切にするも何もないだろう。
そう返してやりたかったが