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    barechun

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    barechun

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    アゼ♀←ヘル←光♀

    余命僅かの光が残った命で何をしたいか考えて、自分の得られるだけのエーテルを使って終末前のアーモロートへ転移する話。
    個人的に解釈違いだけど性癖な話を書いた。まだ途中。未推敲のプロット文。

    泡沫 ある所に、人間の王子に恋をした人魚の姫がいました。彼に会うために人魚の姫は声を失い、歩く度に千本の針に貫かれるような痛みのする人間の足を手に入れます。それでも人魚の姫は、痛みを堪えて王子に会いに行きました。けれども王子は人魚の姫を愛することは無く、別の人を愛してしまい、人魚の姫は泡になり消えてしまいました。





     案外、自分の終わりというのは早いものだった。

     以前ならば歩けていた場所が歩けなくなったり身体が痛んだり。そんなこんなで調べてみたらあっさりと病に冒されていて生きているのが不思議なくらいの惨状だなどと言われて。
     身体は痛いけれどまぁ、戦う時の方が痛いことは多いし些細なものだと思っていた。そのせいか発見も遅れていたようでいつ終わるかもわからない身体なのだと宣告される。実感がないけれど何もしなくてもジワリジワリと痛む身体に少しだけ頭が追いついた。

    「なにを、しよう」

     終わりを知って、自分が何をした方がいいのか、何をすべきなのか、何がやりたかったのかを考える。
     たくさんの行きたい場所が、会いたい人が、やりたい事が浮かんでは消えて、そうして最後に行き着く想い。

    「…うん」

     ありったけの物を集めて、私は其処へ行く事を決めた。






     たくさんの人が行き交う道を小さくひっそりと歩く。自分という存在がどう思われているのかはわからないけれど、声を掛けられないのならば幸いだ。残された時間は短い。
     第一世界の海底、冥き水底で訪れたことのあるその場所と全く変わらない、美しい都市だった。

    「……カピトル、議事堂…」

     最後の望み。自分の世界は救われたから、それならばここで別の分岐を作れたならば。叶うかもわからない願いを抱いて、持てるだけの物を、エーテルをかき集めて、終末が起きる前の1万2千年前に転移をした。場所はアーモロート。出会えるかもわからないけれど、ここで、誰かに出会えたならば、もしかしたら。

    「、……、ぅ、……」

     全身を刺すような痛みが襲う。ここに来るために色々無理をしたのが祟ったらしく、いよいよ残り時間が少ない。まだだ、まだ、誰にも、出会ってもいないで還るわけにはいかない。ずりずりと体を引きずるように足を持ち上げて、カピトル議事堂を目指して進む。以前エルピスを訪れた時の効力なのか、エメトセルクの補強が残ってくれているのかははわからないけれど、幸いにも自分の身体のサイズはエルピスと同じだった。はやく、はやく、消えて無くなる前に。一段一段、階段を登る。息が上る。苦しい。嫌だ、まだ死にたくない。

    「全く、いい加減にしろ! なんだこの報告書は!!」

     聞き覚えのある声に、心臓が高鳴った。手が、震える。

    「ふ、ふふ、まぁ、そんなに怒らなくても…ふふっ」

     必死に足を動かした。あの人達が、生きているあの人達がそこにいる。もしかしたら、話ができるかもしれない。

    「ま、まぁ、大した事態にはならずに済んだから、この部分をもっと詳細に書けば」
    「甘やかすなファダニエル!!」

     その声を、呼ばれた名を聞いて足が止まった。頭が真っ白になる。いや、確かに、会う事を期待はしたのだ。でも、本当に会えるとは思っていなかった。そっとカピトル議事堂の入り口前、集まる四人を見つめる。赤い仮面と白い仮面が並び、仲が良さそうに会話をしている。

    「やー割と今回真面目に書いた方なんだけどな。駄目?」
    「ど・こ・が・だ!! それに一枚謎の走り書きが挟まっているじゃないか!! 提出前に整理すらしていないのか!」
    「これは…この間魔法生物のイデア出しに来てた人と話した造名案のメモだわ」
    「みせてみせ、っ、ひっ…!! なんだいこれっ、ふ、ふはははは」
    「ヒュトロダエウス!!!」
    「エメトセルク、どうか落ち着いて…アゼム、自分としてもこの辺りを詳しく知りたいので追記をしてもらえるだろうか?」
    「そうか、ファダニエルに必要なら加筆してくるよ」
    「…ありがとう」
    「全く、いつになったら一人でまともな報告書を作成できるんだお前は…真面目にやればそれなりの物が仕上がるのにどうしてこう…」
    「褒めてくれてありがとう〜」
    「褒めていない!!」

     ぼんやりと四人の会話を見守っているけれど、どうにも、苦しくて座り込む。楽しそうで、幸せそうで。とても羨ましく思った。
     初めてアゼムを見た。なんとなく、どんな人なのかは話を聞いて想像していたけれど、こうしてほんの少し見るだけでよく理解できる。
     彼女は、とても愛されている人なのだと。
     会話の内容はほぼ叱責だが、エメトセルクもヒュロトダエウスもアゼムを大切に想っていることが理解できた。そして、ファダニエルも。ここでは皆がフードをかぶり仮面をつけているので詳細な表情はわからないけれど、それでも分かる程に。その感情がどれほど深いかまではわからないけれど。

    「…いたい……」

     身体も胸の奥も何もかもが痛い。
     それでも自分の痛みは殺して、せめて、少しだけでいい、話がしたい。

    「まともな報告書が仕上がるまで議事堂に戻ってくるな」
    「……はーい………」

     一人が取り残されて三人が議事堂の中へと入っていった。残ったのはアゼムだと理解して急ぎ立ち上がる。

    「あ、あの、……アゼム……!」

     議事堂を去ろうとした後ろ姿に声を掛けた。ゆっくりと振り返る赤い仮面の人。

    「きみ、」

     アゼムは背の低い自分を見下ろして首を傾げた。

    「もしかして、“アゼムの使い魔”?」

     その言葉に胸が大きく音を鳴らした。それはかつてエルピスで動き回った際、自分が名乗った肩書きだったのだから。それを知っているということはもしかして彼女は。その問いかけに頷いて、言葉を返す。

    「…ヴェーネスから聞いていますか?」
    「そうか…君が……うん、師匠からはエルピスでの事を聞いている。でも、どうしてここに? 君は、もうとっくに…」

     話が早くて助かった。安心したら身体の痛みを思い出す。体が崩れる前に、エルピスから戻った後の話を伝え、その先に果ての宙で終末を退けた話を彼女に伝える。
     ハイデリンとなったヴェーネスの話を伝え、助けに来てくれたエメトセルクとヒュトロダエウスの話をすると、仮面の奥で彼女の顔が少し歪むのがわかった。

    「私の世界は救われたから、この時代もできるのならば救われて別の分岐へと歩みだしてほしかった」

     目を伏せてそう呟けばアゼムは少しの沈黙の後、そっと自分の頭を撫でた。

    「…ここまで来てくれて、ありがとう。でも、それだけ? きみが良いのなら、君のここまでやってきた本当の願いを聞かせてほしい」

     ああ、きっと彼女は、自分の時間がもう僅かな事を理解しているのだろう。まぁ、エーテルの量や質としてもボロボロなのだ。きっと彼女でなくても一目でわかってしまうのかもしれない。

    「ヘルメスが…メーティオンに…花を届けて欲しかった」

     私の心残りを吐き出した。

    「二人が約束をしていて、それは、私じゃ駄目だった。ヘルメスが届けなきゃいけなかった。だから、私は」

     それが叶うのかはわからないけれど、そして叶ったとしてもその様は私は見ることはできないけれど。
     全てが終わってから理解してしまった愛情。どうにも自分は、あの人を愛していたようで、それを知ったのは旅を終えてからだった。

    「そう、そうか…ファダニエルは……君を、」

     何かを納得したように呟くアゼムに首を傾げる。けれども先ほどの彼らを見てわかったのだ。ファダニエル、ヘルメスは、アゼムを慕っているのだと。エルピスではどこか寂しそうな顔と声色で過ごしていた彼が、アゼムと話をしているときはとても嬉しそうだった。詰まる所、そういう事だ。

    「どうか、この時代に訪れる終末を退けて。きっと、あなたなら、糸口を見つけられる」

     アゼムの手を握り、そう伝える。私は伝えることしか、もうできないけれど、それでもこの出会いで何かが変わるのならば。

    「君の願いも受け取ったから、絶対に成し遂げてみせる」

     全く知らない、初対面の人なのに、どうにも私とこの人は似ているように思った。そう、アルバートと出会った時のような、安心するような、奇妙な気持ち。

    「絶望に、負けないで」




     引き止めるアゼムに首を横に振り、彼女と別れる。身体が痛い。もう目的も果たした。こんなに痛いのならいっそ早く終わってくれないだろうかと思うほどで、ふらふらと広い路地の端を歩く。マカレンサス広場なら寝転んで休んでも何も言われないだろうとそこを目指して足を進めるけれど、どうにも足が進まない。胸が痛い。
     ほんの少しだけ見ることができたけれど、もう、あの人の中には自分はいない。あの日、花の色を変えてありがとうと笑ってくれたことも、全て、何もかも消え去って。

    「………い、た………」

     苦しくて、耐えきれなくて座り込んだ。寂しくて、虚しくて、せめて元の世界に戻る力や方法を残せばよかったと後悔する。それでも、元の世界で死んでも、下手に死体を悪用されたくなかったし、これでよかったのだと言い聞かせる。一人で死ぬのは、思っていたよりも、寂しい。

    「……ぁー………つら………」

     どくどくと音を立てる心臓。まだ動いている。いつ止まるかもわからないけれど、あと少し、広場にたどり着くまでは、動いて欲しかった。

    「きみ、大丈夫だろうか?」

     突然背後からかけられた声に耳を疑う。

    「きみ、は、使い魔? 主人は近くにいるのかい?」

     手が、震える。振り返りたくない。死の間際に見る都合のいい夢かもしれない。

    「……いいん、です。もう、わたしは、還る、から…だから…」

     話がしたい。ううん、話なんてしたくない。声が聞きたい、いやだ、苦しくなるだけだ。矛盾した想いが溢れていく。

    「ごめん、なさ、広場まで…連れていって、くれますか」

     振り返り、背後から声をかけてきた赤い仮面の人に懇願する。
     最後くらい好きな人の傍で終わる事を許してほしい。



     身体も心も痛い。
     あの日を手離したあなたと、今更何を話すのだろう。それでも、もう一度話せる事が、嬉しくて、ああ、矛盾している、だけど。

    「歩けるかい?」

     痛みに頭がぼんやりとして、反応に遅れた。すると返事をする前に身体を抱き上げられた。返事をする気力も無いと思われたのだろうか。実際、歩くのは辛かったから助かった。

    「ふぁだ、に、える、様、ですか?」

     この名で彼を呼ぶのは初めてだった。赤い仮面をつけている所を見るのも。けれどフードの端から覗く髪は変わらずに美しい深緑をしていた。

    「ああ、新米だけれども」

     彼は苦笑して答えた。そこで思い出す。彼が座に着いたということは、先代は還ってしまったのだと。自分の選択が他者を星に還す事になるのを拒んでいたあの日を思い出す。何もかもに抗って、公正であり続けるために背を向けた人。そして彼の側にはメーティオンももう居ないのだと。

    「君の、主人は近くにいるのかい?」

     彼の問いかけに首を振る。そんなものはいない。もう、終わりかけの命に何も、何もない。

    「広場に着いたよ」

     アゼムにもわかる程だったのならばヘルメスにももうこの身が終わる寸前な事くらい容易にわかるはず。きっと他の人々にしてみればなんて事ない、ちっぽけな消えかけの使い魔なんて気にするに値しないのだろう。消えてしまったのならまた創れば良いのだ。それでもこの人は、それを見過ごせない人で、だから、ヘルメスなのだ。

    「芝生で横になりたくて」
    「わかった、今おろすよ」

     柔らかな芝生の上に横になる。少し楽になったけれど、抱き上げて触れていてくれた彼から離れるのが少し寂しい。

    「ありがとう、ございます」
    「いや、構わない」

     置いていかれると思ったけれど彼は何か言いたげにこちらを見つめて、横に膝をついて座った。私に何をみているのか、それとも消えかけの命を置いていく事が出来ないのか。

    「君は、その…還ると言っていたが、」

    仮面の奥で戸惑う様子を感じた。今のあなたは、この消えかけの使い魔をどう思っているのだろうか。消滅してしまった自身の使い魔を思い出しているのか、それとも別の何かを思い出しているのか。
     いい加減楽になりたくて、眉を顰められてしまうかもしれないけれど仮面も外した。やはりこの方が、よく見える。

    「病で、もう終わるところです。手の施しようが…無いほどに」
    「そう、か」

     使い魔でも病に罹るのかはわからなかったけれど下手に嘘をついてもどうしようもないので正直に伝えた。居た堪れないような顔をして、次に私にかける言葉を探しているようだった。どうにも空気が重くて嫌だなぁ。

    「アゼム様を、お慕いしていて?」
    「なっ、!」

     少し悪戯に尋ねてみる。すると慌てたように声を上げて私の顔を見ていた。

    「あの方を見る、あなたの顔が…とても、やさしくて」

     仮面越しにも分かる程に。自分で言って自分で悲しくなってしまったけれども、それは事実なのだから私が悲しくなろうがもう、関係もなくて。今この世界で私を知るのはヴェーネスと、アゼムだけなのだから。

    「側から見てもわかる程に、自分はわかりやすい態度をしているのだろうか…」

     恥ずかしそうに顔を押さえてくぐもった声で呟く。そう、これでいい。あなたとはこんな風に普通に話ができたなら、それだけで。

    「ファダニエルになる前に少し色々あって、晴れた気持ちでこの座についたわけではなかったんだ。けれどもあの人の眩しさに、元気付けられたというか」

     そう、あなたは、あの人に救われたのだろうか。
     少し笑って目を伏せる。いよいよ、身体に、力が入らない。

    「あなたが、救われたのならば、よかった」
    「こんな話、眉を顰められると思ったのに、君は…不思議な、?」

     あの日と同じ事を口走るものだから少し驚いて彼の顔を見つめる。彼自身も言葉に詰まり、私の顔を見つめていた。

    「…少しだけ、あなたの手に触れてもいいですか?」

     少しずつ霞み始めた視界で尋ねてみると躊躇なく手のひらを差し出してくれた。そっと触れると温かくて頭を撫でてくれた事を思い出した。今にも死にかけた生き物だというのに手を差し伸べてくれる優しい人。優しすぎた人。その痛みを理解されず、蓋をして、答えを外に求めた人。私は、あなたの永遠になったのだろうか。あの日を後悔してそれがあなたの魂に刻まれていたのだろうか。世界が分たれた日、あなた自身も砕けてしまってもうあなた自身から答えは聞くことなんてできないけれど、もしも目の前のあなたが分たれないで星に還ったならば失った日々と今日の事を思い出してくれたりするのだろうか。

    「へる、め、」

    思わず口から名前がこぼれてしまった。

    「…何故、自分の」

    戸惑う声が耳に届くけれども、もう返事をする気力がない。

     嫌だ。忘れてほしくなかった。思い出してほしい。あの日、花を染めたのは私だったのに。悲しみを伝えられたのは私だった。あなたが一人じゃないと言ったのは私だった。あなたと一緒にもう一度、メーティオンに会いに行きたかった。花を届けたかった。私じゃ駄目だったのに。アゼムじゃない、わたしが、笑いかけて、ほしかった。

     醜い嫉妬や痛みが喉奥を、胸を灼き焦がす。全て伝えてしまいたいのに、何も、何ひとつ、言葉にできなかった。だってもう、あなたは全てを捨ててしまった。

     片手で差し出された手を握り、空いた手を彼の赤い仮面に手を伸ばした。そっと触れて外してみる。止められはしなかった。
     あの優しくて美しく微光る瞳が困惑したようにこちらを見つめている。

    「きれ、い」

     メーティオンと、ヘルメスと、汐沫の園で林檎の菓子を食べて休憩した日のことが脳裏に浮かぶ。
     あなたに寄り添うのは、私では叶わなくて、終末を退けてこの世界が続いたのなら、その先にあなたは誰かを愛して共に歩いていこうとするのだろうか。

    「あなたの…痛みを、理解して、寄り添う人が…居て、くれますように」

     わたしが、そうできたなよかったのにと思いながらも、幸せを願った。
     もう視界が霞んで顔も見えなくなってしまった。あなたはどんな顔をしているだろうか。感じていた痛みも遠のくような、眠い気がして、終わりを知る。
     この想いは、愛は、知られることもなく、わたしと共にほどけて消えていく。それが、とても、寂しくて、胸の痛みの中、目を閉じた。

    すきも、愛してるも、伝わることはなかった。

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