サンズが自らの嫉妬心に困惑する話2憧れ…ねぇ。
学校のチャイムが町に響き渡る中、サンズは屋上でジュースのストローを奥歯でくわえていた。
口寂しい。何かしらその歯で何かを噛み潰していないと落ち着かなかった。
モンスターであるサンズには、ニンゲンの感情がよく分かる。悪意を込めて触れられればダメージを受けてしまうほどに。好意をもった相手に触れられればそれはとても心地よく、力がみなぎるようだった。
ニンゲンであるフリスクの手はいつだってサンズに好意しか伝えてこなかった。
信頼、尊敬、憧れ
大好き
その手はサンズにはとても心地よかったが、同時にモンスターの自分なんかにそんな一生懸命になっていて大丈夫なのかと心配していた。
ただ分かるのは、ニンゲンが「自分」に向けている感情のみだ。
つまりフリスクが他者に向けている感情はさっぱりわからない。
自分への好意は消えては居ないのは確か…だが。
それ以上の感情が相手に向けられているかもしれない、し、向けられていないかもしれない。
*
サンズは校舎内に目をやった。
そこには制服姿のフリスクがいた。何人かの友人と楽しそうに笑っている。様子からすると女の子を口説いているようだ。
それはいい。老若男女関係なく口説く、それがフリスクなのだから。
サンズにはフリスクの気持ちが分かる。サンズは誰彼構わずからかう。それがサンズの、そしてフリスクのコミュニケーション方法なのだ。
そんなフリスクが、恥ずかしくて口説けない相手。
そんなのがフリスクの前に現れたのである。
フリスクを傷つけるようなニンゲンなら守ってやらなくてはならない。
─友人として。
─いや、保護者のようなものとして。
─いや…違うな。
サンズはひとり深いため息をついた。
*
結論から言うと
フリスクの「憧れの人」は害をなすようなニンゲンではなかった。
彼はメガネを掛けて制服をキチリと着こなす真面目そうな男の子だった。
同じ絵描きの親友と夕暮れまで絵を描いた後は、小さな弟と一緒に飼い犬の散歩に出かけるのが日課。
親友と絵を描いているときも、弟と犬にその日の出来事を話す時もとても楽しそうだ。
心の底から弟のことが大好きそうなその姿にサンズはあまつさえ好意のような感覚さえ抱いていた。
「なぁパピルス…複雑な感情について語ってもいいか」
その日の夜、サンズはソファに寝転がりケチャップをすすりながらつぶやいた。
「なっ…サンズが複雑な感情を抱くなんて…ッ」
高すぎるシンクで洗い物をしていたパピルスがサンズに駆け寄りおでこに濡れた手を当てた。
「熱でもあるのか?俺様、カンビョウしようか?…カンビョウって何するのッ!?」
濡れたパピルスの手からサンズの頬に水がたれてくる。その水を拭うこと無く
─自分と同じように弟を大切に思うやつを見つけた喜び…
サンズは眼窩を真っ黒にしながらどこかで聞いたセリフをもごもごと口の中でつぶやいた。
目をつむり、あのニンゲンと一緒にいるフリスクを想像してみた。楽しそうに絵を描くニンゲン。フリスクが彼の描く絵を覗き込んで、いつもの調子で口説くように褒める。
親友や弟に向けられてた朗らかな笑顔がフリスクに向かう。
何も問題はない。
そこにあるのはただ幸せだけだ。
なのに
「胸が苦しい…」
その言葉にパピルスは飛び上がった。
「なに!?ムネが苦しい!?肋骨が痛いのか!」
このままではパピルスに心配をかけるだけだ。
サンズはソファをのろのろと降り、階段を登って自室へ向かった。
扉を閉める前に
「アルフィーに連絡するッ!?」
と聞かれたが、必要ないと答えてその扉を閉めた。