サンズが自らの嫉妬心に困惑する話「わたし、学校に憧れてる人がいて」
放課後に制服のままサンズの家に日課のように訪れるフリスクが、プラプラと足を揺らしながらそう言った。
その言葉にピクリと揺れる青いパーカー。
「…へぇ、学校に」
白いミトンはジュースが入ったグラスをゆっくりと、そして慎重に机の上に置いた。
「あんたもそんな年か」
黒い眼窩に浮かぶ光が、興味津々のにやけ顔でフリスクの表情を観察する。
フリスクは恥ずかしそうに微笑みかえし、ジュースに手を伸ばした。
*
「どんなやつなんだ?」
フリスクはいつも軽いノリで誰彼構わず口説く。
しかし『憧れ』の眼差しを向けることはほとんど無いように思えた。
サンズには、自分だけ特別フリスクからその『憧れの眼差し』を向けられているという自覚があった。フリスクは隠しもせずにその気持ちをぶつけてきていたからだ。
その居心地の良さに正直あぐらをかいていた。
「すごく素敵な絵を描くの」
「へぇ」
絵か。
絵ねぇ…
ふぅん。
その絵を思い返しているであろう、フリスクの目がキラキラと輝いている。
サンズは自分の両目が光を失いそうになるのを必死にこらえて笑顔で答えた。
「そんなに素敵ならオイラも一度見てみたいな」
─そいつを。
「見る?今度文化祭の時に展示されるんだよ。一緒に行こう」
「あー…その憧れのやつと一緒に回らなくていいのか?」
「えっそんなこと…恥ずかしくて無理だよ」
顔を赤く染めるフリスクにチリチリと胸が痛む。
なんだこれは。
「へへ、オイラと歩くのは恥ずかしくないのか?…モンスターが来たって大注目だ」
「もうみんなモンスターにも慣れたよ。学校の生徒にだってモンスターの子がいるんだよ」
「ああ…」
モンスターたちが地上に出て数年、フリスクや王様たちの尽力のかいあってニンゲンとモンスターの関係はそこそこ良い。
サンズも陰ながらそれを支えていた。
「んで、そいつはニンゲン?モンスター?」
「ニンゲンだよ」
「…へぇ」
もう1段階、気持ちが落ちた気がした。
ニンゲンはニンゲン同士くっつくのが1番だ、とサンズはいつも思っている。
ずっと自分にくっついていたフリスクが自分の前から離れて行ってしまうような、そんな感覚が頭の中で渦を巻く。
「そいつは…」
おとこか、おんなか。
と聞こうとして口をつぐんだ。
嫉妬心や対抗心がまる出しな気がした。
そんなサンズの様子にまるで気付かないようにフリスクは宙を仰いで言った。
「お互いもうすぐ卒業だし、憧れてるこの気持ちだけでも伝えられたらいいなぁ…」