箱庭の中の戦争 右手を寄越すのなら、命だけは助けてもいいとその男は言った。
学校の裏の林を必死で駆け上がる。あまり人の手が入っていない荒れた林だが、小さい頃から知っている場所だ。反対側の街への抜け道も体で覚えている。
木々の合間に透ける、血のように赤い夕焼けが恐ろしい。
(はあ、はあ…ッ)
木の幹に躓いて転びかける。耳のすぐ横を何かが掠めて、目の前の木に突き刺さる。──矢だ。フィクションでは知っていても、現実では初めて見る。硬い木の幹を易々と深く抉るのだから、骨だって貫通するかもしれない。
転ばなかったら、とぞっとする。スニーカーで落ち葉を蹴散らしてまた走る。
必死で駆け抜ける木々の向こうで夕日が沈む。日が落ちて何も見えなくなったら、と死を覚悟する。
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