芽生え※この話独自の設定です。読み飛ばしても、あまり影響ないかもしれないです……
※砂かけばばあたちに教えてもらったのは、あくまで恋愛・結婚関連で、保健体育的な内容ではないです
<妖怪の結婚観>
・きまりはなく、本人たちが同意していれば良い。性別、種族等問わない、また一夫一妻制ではない(友情との違いは本人たちしだい)
・パートナー(複数)+その子どもたちといった、恋愛感情でつながった共同体みたいなスタイルもある
・特定の儀式はない。それぞれのご先祖さまに誓いを立てることもあるが、絶対ではない。人間のように、デートしたり、プロポーズや結婚式をしたりすることもある
◇ ◇ ◇
「とうさん、『ケッコン』ってなあに?」
「鬼太郎、それはな、大好きな者同士が一緒にいることじゃ」
幼き日の僕の問いに、父さんはそう答えてくれた。
「鬼太郎、あんたその認識マズいわよ!」
ねこ娘はテーブルをバンっと叩くと、立ち上がった。
僕は驚いて、つまもうとしていたお菓子を取り落とした。
「大声出すなよ、ねこ娘」
「そういうことに疎いとは思っていたけど……」
彼女はため息をついた。
ねこ娘の家でお菓子をつまみながら、世間話をしていた。
最近、親しい友人たちが、続々とコーサイ相手を見つけ、遊びの誘いも断られることが多くて、つまらないとのことだった。
僕とは違い、積極的にコミュニケーションを取り、交友関係の広い彼女の話は別世界のようだ。適当に返事をしていたら、「ちゃんと聞いてる」と怒られ、「要するに、こういうことだろ」と説明したら、「全然違う!」ということだったのだ。
「もういい! 見てられない」と言って、彼女は僕を置いて、どこかへ駆け出してしまった。
しばらくすると、ねこ娘は子泣きじじい、砂かけばばあを伴って戻ってきた。
ねこ娘は僕の顔をじーっと見つめると口を開いた。
「鬼太郎、さっきの話、もう一度してみて」
僕の話を聞くなり、三人は深いため息を漏らした。
「やれやれ、目玉おやじよ」
子泣きじじいが、心底呆れたという声を出した。
「言うてやるな。あやつは誠実な男ではあるのじゃが……なんというか、少しズレておるからの」
「鬼太郎の母とはとんとん拍子じゃったからのう……そういったことに気がまわるような者ではない」
「うーん、これは思った以上に難儀しそうじゃな」
「鬼太郎、わしらの話をよく聞くのじゃよ」
ねこ娘は「年の近い者がいると、気まずいだろうから」と出ていった。
「ふー、今日も良い湯じゃ」
父さんは、気持ち良さそうに目をつむった。
「今日はねこ娘のところに遊びに行ったのじゃろ? 変わりなかったか?」
「ええ。それに、子泣きじじいや、砂かけばばあも来て、いろいろと世の中のことを教えてくれました。でも僕には難しくてよく分からなくて。二人には『いつか分かる日が来るだろう』と言われました」
僕は茶碗に湯を足してあげた。
「父さんと水木さんは、結婚してるんですよね?」
「なんじゃと あやつとはそういう関係じゃないぞ」
「え? だって父さんたちは仲良しじゃないですか?」
「鬼太郎、仲良しだからって、別に結婚しているとは……お、おい鬼太郎、どうした しっかりするのじゃ! 水木、水木ー!」
父さんと水木さんが結婚していなかったなんて……!
そんな……! そんな……!
結婚は、大好きな者同士が一緒にいることなんでしょ。だから……
「僕がもう少し大きくなったら、水木さんと結婚するんだと思ってたのに」
「ん? 鬼太郎、なんか言ったか?」
はっとして目が覚めた。布団に寝かされていた。
水木さんが僕の顔を覗き込んでいる。
「お前、倒れたそうじゃないか。大丈夫か?」
目から熱いものが流れ出した。
「おい! どこか痛いのか?」
ようやく僕は、自分がこれまで大きな勘違いをしていたことに気付いたのだ。
どうしてこんなに悲しいのだろう。どうしてこんなに苦しいのだろう。止めようとすればするほど、涙は止まらなかった。
水木さんは泣きじゃくる僕を抱き寄せ、肩をさすってくれた。
(水木さん、今日くらいは、甘えてもいいですか……?)
僕は体を起こして、水木さんに抱き着いた。
「背が伸びて大人びてきたと思ってたけど、まだまだ子どもだな」
そう言って、僕の頭を優しく撫でると、僕の背中に腕をまわした。あたたかくて幸せな感覚が全身に広がった。もっと撫でてほしい。できるなら、ぎゅっと抱き締めてほしい。「好き」って言ってほしい。
寂しくて苦しくて、そして切なくて、僕は腕に力を込めた。
(砂かけばばあたちが言ってたのって、こういうことなのかな)
<数年後>
「水木さん……あの……」
「どうしたんだ、鬼太郎? あらたまって」
僕の顔は、きっと真っ赤になっているのだろう。自分でも、火照っているのが分かる。
後ろ手に持っていた花束を差し出した。