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    nmhm_genboku

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    nmhm_genboku

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    腹心シリーズより1から3話

    11代目黒龍花垣武道の腹心この話を書くまでのあらすじ

    それは突然降ってきた(ネタ)
    個人的な話、九条夏樹くんを幸せにしたいし、幸せにさせてあげたいのだけれど、地獄の賛美歌しか書けないので、これは諦めるとしても、それ以外をどうにかこうにか生かしてみた。私はタケミチの隣でゆったりと笑う夏樹君が好きだし、そのタケミチに心底忠誠を誓っている夏樹くんをかっさらうドラケンくんが好きだっていう話。
    あと、個人的に周りは幸せじゃないと無理だけど、九条夏樹は不幸せな幸せじゃないと無理(吐き気)

    この話には黒龍11代目if花垣武道が居ます。
    これは…続くか?

    というわけで以下本編

    黒龍11代目には三人の腹心がいる。そんな噂を耳にしたマイキーは、その噂の真相を知るべくして兄の元へと向かった。

    「兄貴、今の黒龍のこと知ってるっしょ?」
    「あー、まぁ、挨拶しに来たからな」

    ボロボロのまま、今しがたまで喧嘩していました、という彼らのあの姿は多分一生忘れない。正確に言えば、ボロボロなのは11代目に就任したやつと、九井、乾で、大寿は軽く喧嘩した後があったけれど、1人だけ無傷な奴がいたのは怖かった。

    「その11代目には三人の腹心がいるって聞いたんだけど、どんなやつ?」
    「あー…犬と蛇と魚」
    「は?」

    見たらお前もわかる、なんて言われて再度首を傾げたが、それ以上は話してはくれなかった。そんな俺が、数日前に起きた事件を機にそいつらと仲良くなろうと奮闘するなんて思いもしなかったけれど。

    その事件があったのは7月に入ろうとしていた時だった。パーの友達(ダチ)である男女が、愛美愛主の長内含めた数人に襲われそうになったのを、黒龍の副総長が助けたという一報。11代目就任後、未だ全容を見せない黒龍に近づく良いチャンスだと思ったけれど、全く持ってどこの誰か分からない。おかげでパーはお礼もできないし、俺らも俺らでむしゃくしゃしてる。数代前…8代目を継いだイザナのせいで黒龍は最低最悪なチームとして名を馳せることになり、9代目が俺らに喧嘩を売ったのをきっかけに壊滅させたと思ったのに、また復活を遂げ、今度は初代の面影を取り戻すようなことをしている、らしい。全て噂で聞いた内容だ。今はイザナと和解をしてはいるものの、俺らはまだ喧嘩中。エマや兄貴からは落とし所を探しているところだろうから、という理由で黙認してもらっているけれど、たまにエマから怒られることも多くなっている。俺だって仲良くしたいけれど、アイツ強いから、逆に喧嘩すんのが楽しいし、アイツもアイツで俺と喧嘩すんのが楽しいって言っていたから、まだ多分この兄弟喧嘩は終わりそうもない。
    閑話休題

    「ねー、ケンチンはどんなやつだと思う?」
    「あ?何が?」
    「今回の副総長!俺的には筋肉ムキムキって感じのやつだと思うね!長内ぶっ飛ばしたって聞くし」
    「あー、確かに有り得そうだよなぁ」

    どんなやつかは分からないけれど、1度会ってお礼がしたい。そんな願いすら届かない。そんな会話をコンビニでしていれば、ありがとうございましたー、と軽快な声と共に、コンビニのドアが開いて、思わずそちらを見れば、黒龍の特服を着た2人組が出てきて思わず凝視してしまった。

    「んぁ?東卍サンじゃん」
    「えっ!?なんで!?」
    「ここのコンビニ俺らのシマとも東卍サンのシマとも近いからじゃない?」

    バリッ、とパピコの封を開けながらそう言って、今日もあちーね、と軽くこちら側に声を出す銀髪の男に、俺もマイキーも思わず面食らってそうだな、と声を出したけれど、普通に考えてなんでそんなに平然としてられんだよ!?と思ってしまった。

    「?、なんすか?」
    「多分びっくりしてるだけだと思う…」
    「なんで?ここ東卍サンのシマだっけ?」
    「違うと思うけど、因縁?ってのがあるって話聞いてた?」
    「聞いてたけど、前代がやったことをあとの俺らが気にする必要なくない?」

    そんなのどうでもいいじゃん、と全く意味がわからない顔で言っている銀髪の男に、金髪の男は、えぇ…、と困惑した顔を見せた。

    「まぁ、お互い嫌ってんならしゃーないけど。すんません」
    「あ?あー、うん、ダイジョウブ…」

    ちょっとびっくりしただけだから。
    そう言って2人の特服をみる。黒地と白地の特服に11代目総長と、副総長と装飾してあるその腕をじっと見て、は?とマイキーは声をあげた。

    「んぁ?」
    「お前が副総長?」
    「そういや名乗ってませんでしたね。黒龍11代目副総長の、九条夏樹です。お初に」
    「あ、うん、俺佐野万次郎…マイキーって呼んで」
    「マイキー君ですね、了解しました。こっちは…」
    「え!?あ、花垣武道です。11代目になりました…」

    日本語おかしいの分かってる?と尋ねる九条に、タケミチもわかってるよ、バカと未だ回らない頭を抱えていた。思わず苦労してんだな、と思ったのは仕方ない事だと思う。

    「そっちは?」
    「龍宮寺堅。ドラケンって呼んでくれ」
    「おっけー。副総長同士仲良くしてね!」

    にっぱりとそう笑って見せた九条に、おぉ、と押され気味にも返答を返した龍宮寺。思っていたよりも数倍細っこい。こんなヤツが長内をノシたと言われても、信じられなくて、つい、マイキーはお前がパーのダチ救ったやつ?と尋ねてしまった。

    「パー?えっ、なつ何したの?」
    「まずパーってだれ?俺なんかしたっけ?」

    記憶にねぇ〜。とゲラゲラ笑いながらコンビニのゴミ箱に食べ終わったパピコの残骸を投下しながら、気の所為じゃねぇっすかね?とマイキーに答える九条に、長内のことを話すが、首を傾げられるだけだった。

    「人違いじゃねぇっすか?」
    「なつの記憶頼りないんだけど…」
    「否定できねぇわ」

    でもほんとに記憶にねぇんだよなぁ、とウンウン唸る九条に、じゃぁ、ほんとに記憶ねぇんじゃねぇの?となってしまって、マイキー達は慌てた。

    「パーのダチが写真撮ってんだよ!ほらこれ!!」
    「あ、俺だ」
    「なつホント何してんの!?」

    えー、何してんだろ、俺。と困惑気味に言った彼に、逆にマイキー達は不安になった。ドッペルゲンガーかなって。

    「適当にボコったやつの顔って覚えてないし。報復とかされてる感じっすか?」
    「いや、されてねぇけど」
    「なら良いンじゃねぇっすか?俺が覚えてないなら、そこまで強いやつじゃなかったってことで」

    めんどくさいのは勘弁して欲しいし。存外にもそう言って、九条は帰っていいっすかね?と彼らに問うた。実際には問うているようで、答えなど決まっている質問であったけれど、マイキーはその言葉を聞きいて、思わずうん、と答えてしまったのだ。ハッキリ言ってしまえばわざとでは無い。けれど、彼のその顔は、自身の兄であるイザナを何となく彷彿とさせ、自分の座右の銘である唯我独尊を地で行くような顔つきだったせいで、思わずそう答えるしかなかった。

    「…後でイヌピーくんたちから説教だから」
    「下に怒られる副総長って多分俺だけじゃね?」

    勘弁してよ、と笑って言う彼の顔を見ながら、いつも怒られてんだな、と察知する。噂で聞く腹心の特徴にも当てはまらないようなその様子に、期待はずれな感覚を持ちながら、さっさとバイクに跨って帰っていく九条達に、マイキーはシビビビッと、無駄な警戒を見せた。

    「なにあいつ…」
    「むしろお前が押されてどうすんだよ」

    はぁ、と力ない言葉でそう答えたドラケンに、わかんないけれど、口が勝手に動いた、と答えるマイキーに、2人して何も言えなかった。

    「つーかあれが腹心?違くない?」
    「別のやつかもしんねぇし、もう少し探り入れてみっか?」
    「お願い」

    そうして探りを入れてみたは言いけれど、結局にも掴めずに武蔵祭り前日。あの日たまたま出会ったコンビニで、またしても九条と出会ったマイキー達は、びっくりしながらも思わずその特服を引っ掴んだ。

    「う、わ!?えっ、誰!?マイキーくんじゃん」
    「お前らほんっとちょっとは情報よこせよ!!!」
    「意味わかんねぇ〜」

    ゲラゲラと笑いながら入口は邪魔になるんで中入りましょ、と案内する九条に、大人しくついて行くマイキーを見ながら、マジかアイツ、と声を上げた。あのマイキーが大人しくついて行くなんてありえない現象だったから。

    「んでぇ?ここ最近俺らの事探ってたの東卍サン達?」
    「…まぁ、そうだけど」
    「ありゃ、当たっちゃった」

    カマかけたつもりだったんですがねぇ、と呑気に言いながらも何食べます?と聞いてしっかりたい焼きを奢ってもらう自身の総長にはため息が出た。流されすぎである。

    「まぁ、別に探っててもいいっすけど、なんかありました?うちの連中が東卍サンに喧嘩売ったとか?」
    「んー、知りたいことがあってさ」
    「知りたいこと?」

    ぱきんっ、とパピコを半分に割って、そう尋ねながらドラケンに渡してくる九条に、彼は断る訳にも行かずに受け取ってしまい、仕方なく食べながら2人の会話を聞く。と、言うより全員奢られたので仕方ない。気づけば何食べたい?と聞かれて断る暇もなく買い与えられたので。

    「タケミっちの腹心である三人が知りたくってさ」
    「タケミ…?あぁ、武道だからタケミっちか。センスいいね」
    「でしょー!」

    ニコニコとそんな会話をしながら、腹心ねぇ、と声を上げ、パピコの口をガジガジとかみながら、それ知ってどうすんの?と九条は尋ねる。

    「狙い撃ちするとか?」
    「えっ!?んなわけないじゃん!ただ、面白いやつなら会ってみたいなって思ってさ!」
    「なぁるほど。好奇心旺盛なのはいい事だよねー」

    んじゃ、教えるから、そっちにいるキヨマサくんちょーだいよ、と九条は声を出した。

    「キヨマサ?なんで?」
    「うちのボスが欲しがってんの〜。武道のオトモダチを喧嘩賭博のファイターにさせてたりボコ殴りにしちゃったりしてたから、制裁ってやつ?」

    いつの間にか収束してたから表立って制裁出来なかったからさー、と呑気に声を出した九条に、マイキーはあー、と声を出した。

    「いや、その…そいつも含めて喧嘩賭博の主犯と共犯は全員除籍にしたんだよね」
    「マジ?」
    「マジ」

    一足遅かったかー、とため息を吐きながら、ごみ箱にパピコの残骸を捨て、じゃぁ、教えらんねぇわ、と困ったように声を上げた。

    「あ、でも気をつけなよ?ちょっと調べた限りじゃキヨマサって自尊心高いやつっぽいし、報復とか簡単にしてくるタイプだから」

    多分狙うならドラケンくんじゃね?と言う九条に、ドラケンは俺?と声を出した。狙われる理由が分からなかったからだ。

    「てかこの間からずっと気になってたんだけど、パーちんって誰?」
    「一気に話とんだな?」
    「だって俺この場で知ってんのマイキーくんとドラケンくんぐらいじゃん。自己紹介してよ」

    俺は九条夏樹でーす、と軽く自己紹介されたせいでその場の五番隊までの人間全員が名を名乗るしかなかった。

    「何となく覚えた」
    「何となくかよ」
    「人の顔と名前って一致しないから」

    あとすぐに忘れる。そう真顔で言ったあと、そうだなぁ、と声を上げた。

    「これはまぁ、勘なんたけど」
    「勘…」
    「キヨマサくん、多分愛美愛主と裏で繋がってると思うよ?」

    信じなくてもいーけどサ、と声を出してガサガサとポテチの入っている袋を持って自身のバイクへと歩いていく九条に、ポカンとしながら、なんで?とマイキーは声を上げた。

    「んぁ?」
    「なんで、そう思ったの?勘にしては確信めいた言葉だったよね?」
    「んー、まぁ、確信してるフシはあるけど、俺よりもそこのパーちん君に聞いた方が早いと思うよ?」

    は?と首を傾げたマイキーだったけれど、パーちんは目を大きく見開いて、なんで、と声を上げた。

    「んじゃお疲れ〜」

    明日の抗争頑張りなよー、と声を上げて、バイクを吹かして去っていった九条に、三途は思わず魚みたいに掴みどろがなかったですね、と声を上げた。

    「いや…いやいやいや、魚!?なっちが!?嘘でしょ!?」
    「流石にねぇだろ。あの魚だぜ?」

    腹心の中でも凶暴性の高い魚があの男だなんて、ちょっと信じたくない。そんな会話をしながら、でも、と思うのだ。先程の、マイキーが特服を掴んでなおもたたらを踏む事無く振り返った彼の目が、少しだけ殺気を含ませた瞳であったことに。

    「とりあえずパー、詳しく話せ」
    「分かった…」

    そうしてとある男の狙いを知った彼らは、思わずあの男の勘に心底震えることになるのだが、その前に抗争があるので、礼は後にすることにして、翌日の抗争へと思考を飛ばした。


    九条夏樹(♂)
    黒龍11代目副総長。
    三人の腹心の中で魚を意味する人間

    花垣武道(♂)
    この世界では東卍に入る前に黒龍の11代目として就任している。

    この話について
    黒龍11代目として東卍とは対立の立場にある武道が欲しくて書いているので続くかどうかは未定。好評だったら続く。




    「そう言えば今日東卍サンと愛美愛主チャンとの抗争の日だったわ」

    ガヤガヤと騒がしい祭りの背後に遠くで聞こえるインパルスのバイクの排気音を聞きながら、ふらり。どうせなら野次でも飛ばしてやろうかなー、なんて思いながら、九条は先程食べた串焼きの残骸をオッサンのように咥えて道草よろしく立ち寄れば、頭から血を流しているドラケンにびっくりしながらほへぇ、と変な声を上げた。

    「んぁ?お前…」
    「うわ、頭っから血ぃ流してんのに何してんの」
    「うるせぇ」

    痛そ、と月並みの声を上げながら、避難させられている少女に、あーいうのを喧嘩バカって言うんだよ、と声を上げた。

    「いや、誰!?」
    「あ、どーも。九条夏樹です。とりあえず彼氏サン病院に運んだ方が良くね?」
    「かっ…!?彼氏じゃないし…」

    あら、そうなんか、と声を上げた後、うーん、と少しだけ考える素振りを見せながら、加勢しようかー?と声を上げた。そんな九条に声をあげようとした矢先、横から三ツ谷が走って来るのを九条は横目に察知し、声かけるタイミング間違えたな、と携帯を取り出してとある男へと連絡を送った。ちょっと厄介事に首突っ込んじゃった、的な。

    「ドラケン!って九条!?」
    「あー、み…三ツ谷!くん、昨日ぶりですね!」

    加勢した方がいいっすか?と尋ねる九条に、オメー、昨日の今日で忘れそうになってたな!?と思わず声を上げた。

    「って加勢だったな…あー…」
    「ドラケンくん病院に連れていった方がいいと思うんですよねぇ。今なら大寿くんも加勢してくれるし」
    「は?」

    俺の傍付きだからそろそろ来ますよ?と言った九条の頭にゲンコツを落として、お前は馬鹿か、と声を出した大男に、その場にいた全員が止まった。

    「ってぇ〜!!殴るなら殴るで手加減してくれません!?」
    「何でもかんでも巻き込まれに行くお前が悪いんだろうが!」
    「えー?だって卑怯なことしてるチーム許しちゃあかんでしょーよ」

    こういう奴らは決まって裏で操ってるやつがいるんスよ、なんて言えば、花垣に報告させてもらうからな、と言われて、さ、帰りましょうかー、と声を上げた。

    「オイオイオイ、口出しておきながら帰るんでちゅかァ?」
    「黒龍は腰抜けの集まりかよ!」

    そう言ってゲラゲラと笑うやつらを指さしながら、…ほら、と面倒そうな顔立ちで言った九条に、大寿は口出したお前が悪いんだろうが、と眉間のシワをさらに深くした。それに対して俺悪くなくない?と声を出しながら、面倒そうな顔でゴキッ、と九条は首を鳴らす。自分がここで動くとなれば、“佐野万次郎”の許可が必要になってくる。一緒に遊ぼう、と言われれば良いが、それでなければただの乱入だ。思わず。そう、思わずため息を吐いた九条に、ぐしゃりと頭を撫で付け、もしもの時は俺が出る、と小さく声を上げた大寿に、しゃーなし、と九条は頷くのである。

    「た、大寿?」
    「…三ツ谷か。コイツが割り込んで悪いな」

    お前がいるなら加勢は要らんだろ、そう言って九条を抱える大寿に、三ツ谷は出来れば手伝って欲しいなー!と声を上げた。

    「マイキーくん来るまででいいからさ」
    「………チッ…」
    「よーし、いけ!大寿くん!」

    君に決めた!と元気に言った九条の頭をもう一度引っぱたいて大寿は九条と一緒に石垣の柵を超えた。

    「ドラケンくんはとりあえずこっち。手当スっから」
    「…悪ィな…」
    「彼女サン困らせたらあかんでしょー」

    喧嘩に明け暮れるのもいいけどさー、と言いながら愛美愛主の人間をさっさと倒していく大寿君を横目に、マイキーくん来るまでにトンズラすっかな、と思考を落として、さっさとドラケンの手当をし、8割方片付いたのをみて、大寿、と声を上げる。

    「帰んぞ」
    「…チッ、物足りねぇ」
    「後で手合わせぐらいならしてやんよ。早くトンズラしねぇとそろそろマイキーくん来るわ」

    遠くでバブの音が聞こえる。そう言って眉間にシワを寄せて言った九条に、スッ、と大人しく彼の元へと戻る大寿に、三ツ谷は目を見開いた。あの人の言葉を聞かない大寿が、彼の言葉を聞いたのだ。天変地異の前触れか、と一瞬失礼なことすら考えた。

    「あんま無理して動かんでね」

    頭打ってっし、と注意だけ行い、立ち上がった九条に、ドラケンは最後までやれば?と言ってきたので、九条はくっ、と喉元で笑って見せた。

    「冗談。これは東卍サンの喧嘩でしょ?そこに俺ら黒龍が入っていいもんじゃねぇよ。助太刀したのは、あんたが怪我してまともに動けなくなってたから、その債務を払ってもらっただけ」

    じゃなかったら手ぇ出さんよ。そう言って大寿に再度帰るよ、と声を出す。そんな刹那。ズザァァァァッ!とスライディングしながらその場に飛び込んできたマイキーに、九条はやっべ、と声を出して石垣を飛び越えようとしたのを、ドラケンに特服を掴まれたことによって逃げを失った。雨のせいで音が遠かったのだ。いつもならそうなる前にトンズラする九条が、雨での反響音の小ささを忘れてしまっていた。
    最近日照りが続いていたからこそ、いつものような時間感覚で考えてしまった。その時間のロスが、九条をこの場に閉じ込める。悪気はない。誰にだって。けれど、誰もが思うのだ。

    「ぶっ殺すぞ…」
    「出来ねぇだろ」

    “黒龍11代目副総長の実力”というものしっかりと見てみたい、と。

    「んぁ〜…」
    「…なんでなっちがここにいんの?」
    「なっち?あぁ、夏樹だからなっちか…。ちょっち加勢してただけだよ。ドラケンくんが頭ぶっ叩かれてたから、債務償還ってやつ」

    帰るから心配しんでもええよ、と面倒そうに言った九条に、ドラケンはここまで来たなら手伝ってくれてもいいんじゃねぇの?と笑いながら声を出す。てめぇ後で大寿くんと喧嘩させてやろうか!?

    「俺はこんなんでも黒龍11代目副総長なんですぅ〜。タケが許してもそっちが許可出せるのって“佐野万次郎”だけ。君らがどんなに言ったとしても俺の加勢条件はマイキーくんにありまーす」
    「じゃあ、参加すれば?」
    「クソガキが…ッ」

    チッ、と思わず舌打ちした九条に、くっ、と大寿は笑った。あれだけ言っておきながら、そうなることは予想していなかったようで、思わずといった声を出した。実際、九条夏樹は彼らの年齢を知らない。そのせいでこんなにも暴言混じりに吐き出すことが出来るのだが、もし彼が彼らの年齢を知り得たとしたらどうするつもりなのだろうか。

    「んぁ?余計なやつまでいんじゃん」
    「あ?誰だおめー」

    俺ちょっと不機嫌だから自己紹介して欲しいわぁ、と声に出しながらタバコを取り出した九条に、大寿は甲斐甲斐しくも自分の特服の中に九条を招き入れ、火をつけてやった。傘を持ってきていればよかったな、と思いながらも、メンソールを纏うその香りが、大寿のお気に入りだ。

    少しだけ、過去の話をしよう。
    九条と、武道、そして彼ら大寿達の話を。

    花垣武道と九条夏樹はあの日、大寿にボコられていた時に偶然出会ったに過ぎない。今では腹心と呼ばれ、副総長として名を連ねている九条ではあるが、その実、花垣と知り合ってそこまで長くもない。

    あの日、大寿は自身の妹と弟に躾をしていた。公園で、弱い弟を叱りつけるように拳を震わせて、泣き言を述べる妹に平手を打ち付けていた大寿の元に、花垣がやめろと声を上げ、喧嘩にまで発展したのには、彼が自分たちの家族のあり方に口を出したからに過ぎない。まだ相手は中学1年生の小さなからだ。しかし、そんな身体を何度ぶっ飛ばされようと立ち上がるその男に、嫌気を差していたのも事実だ。そんな俺の苛立ちを消化させるように背後で自身の部下である乾が鉄パイプを持ってその男へと振りかぶるのをみて、これで終わりだな、と思った矢先に、この男が声を上げたのだ。それは卑怯なんじゃねぇの?、と。

    ジャングルジムの1番上に腰を下ろし、ゆるりと笑いながら、そう放った言葉。その場にいた誰しもが声の主に視線を向ける。太陽が隠れ、夜を纏う黄昏時の日差しを背に、銀髪の男が、それ、と声を上げる。

    「多勢に無勢って言うのは、納得しないなぁ」

    そう言って、トンッとその1番上から軽やかに着地し、ボロボロの金髪の少年に問うた。助けてやろうか?と。

    「面白そうだから見物してたけどさ、背後から奇襲するようなチームは好きじゃねぇんだよね」
    「だ、れ…」
    「んぁ?俺?俺ァ九条夏樹。お前が目の前の強敵とタイマン張ってんの見学してた人間だね」

    流石にボロボロだけどまだ諦めちゃいないんでしょ?と笑いながら問うその神経に、その場にいる全員が、ゾッとした。止めに入ったのだと思っていたからだ。

    「…夏樹…。俺は、花垣武道。俺はこいつをぶっ飛ばしたい」
    「いいねぇいいねぇ、その意気やよし!んじゃぁ、お前は大将との喧嘩に没頭してな。お前にこいつらの攻撃をひとつも通さないように、俺がお前の背中を護ってやるよ」

    久々に楽しめそうだ。そう笑って言った九条の宣言通り、精鋭としての部隊を作った100人の人間も、乾、九井の攻撃すら全てその存在に届くことなく地面に落とされ、積み上げた人垣の上でのうのうとタバコで肺を汚しながら、大寿と花垣の対決を観戦していた。そして、花垣のその諦めの悪さがついに実を結ぶ一撃を大寿は顎に受け、膝を着くことになる。

    何度も口にされる家族のありかた。妹と弟に見せつけるように、諭すように言葉を吐き連ねる彼に、とうとう大寿の家族は反撃の声をあげることになる。自分では出来なかったその姿に、大寿は負けだと感じた。ただ1人何度殴っても立ち上がってくるその小さな存在に、降伏してしまったのだ。1度負けを認めてしまえば、大寿にはその座に座る権利すらない。されど、今でも輝きを失わないその夏を彩るような青い瞳に、大寿はこれ以上しても無駄だと察し、地面に腰を下ろした。

    「俺の負けだ」
    「…ぇ」

    黒龍はお前に託してやる。そう言って舌打ちと共に紡がれた言葉に、花垣は大層驚愕の声を上げ、その後ろで見ていた九条がゲラゲラと笑いながらチーム貰うために闘ってた訳じゃねぇのかよ〜と声を上げた。

    「やっべ、くっそウケる」
    「そ、んな笑わないでよ…」

    ボロボロのその姿をみた後、まぁ、これからはお前が時代をつくっていけば?と声をかけてそれじゃぁ、俺はこれで、と立ち去ろうとした九条に、九井、乾を含めた全員が、この男を今ここで手放してはダメだと理解する。

    「あっ、あの!!!」
    「んぁ?」
    「お、俺はこのとおり、弱っちィ人間です!!」
    「丁寧な自己紹介だな」

    うるせぇ!なんてそう返答されて思ったけれど、それで?と首を傾げて続きを促す九条に、だから、と花垣は再度声を上げた。

    「お、俺のこと守ってください!!!」
    「は?」
    「副総長として!!」

    そうして九条はそいつァいい!と盛大に笑った大寿に抵抗虚しくとある場所へと連れていかれる。そう、初代総長の佐野真一郎が経営するバイク屋である。

    ここまで念入りにやったあと、思考を止めていた九条がハッ、と我に返ったときには時すでに遅し。全部まとめて逃げ場を失わせた。そしてその手助けをした大寿を、九条は傍付きとしてボコしたあと、任命させた。

    噂で聞いていた魚だと知ったのは、そのすぐ後だ。九条の特服を新調する際、ダブルジップでマントのように使用できるように改造を施され、今に至る。黒の初代を滲ませる総長の特服と、白の軽やかさを見せる副総長の特服。九条と、傍付きの大寿だけがその特服に袖を通すことになるが、そのマント式に改造された特服が、こうして雨を遮りさがら九条のタバコタイムに勤しむための服になることなど、誰も想像していなかったものである。

    さて、過去の話はこれまでだ。現代(今)に時間を進ませよう。

    「俺は半間修二。今仮で愛美愛主まとめてる人間だ。おめぇは?」
    「九条夏樹。黒龍11代目副総長。仮って事は本殿があるってことか」

    ふーっ、と深く肺を汚したタバコの煙を吐き出しながら、ふぅん?と九条は声を上げた。気に入らないと言っても過言ではない。この場でトンズラすることも出来ず、面倒なことに巻き込まれ、少しばかりイラついていた。

    「気に入らねぇわ」

    ぐしゃり。まだ少し吸えるほどの長さを残して雨溜まりの地面に落とし、ハーフブーツのつま先で消してそう声を上げた九条に、大寿は女は避難させておく、と耳元で声を出す。それに頷いて、そのマントの中からゆっくりと出る。雨に打たれる銀髪が、水を纏ってツヤをかき消すそれが、勿体ないと半間は感じてしまった。ただまぁ、そんなこと感じたとして、どうしようもない話。雨は次第に強さを増して、その艶めきすら剥がれ落ちていくのは、仕方のない事だ。そう自身を納得させながら、ゆっくりとおめぇら全員鏖だぁ♡と声を上げた。その言葉を聞きながら、九条はゆっくりと目を細める。遠くの方から聞こえるバイクの排気音に、彼ら東卍の増援だということを理解して、ゆっくりと九条は口を開いた。

    「それじゃぁ、今日に限り、黒龍は東卍と同盟を組ませてもらう。理由は、俺が愛美愛主を気に入らないから、一緒に潰すために、というのはどうだろう?」

    そう言ってくっ、と目を細めてマイキーに問うた九条に、マイキーは一夜限りの共闘にはもってこいの理由だな、と笑って差し出された九条の手を叩く。握手はお互いしない。副総長としての立場と、総長としての立場など、対等では無いのだから。ゾロゾロとやってくる東卍の彼らを横目に見た後、大寿へと、視線を移す。ガヤガヤとうるさい声でも通る九条の滑らかな声色に、大寿は珍しく怒ってんな、と思った。

    「大寿、彼女、安全なところまで送っといて」
    「あぁ。なつ」
    「んぁ?」
    「あまり“潜りすぎるなよ”」
    「わぁってるよ」

    そう答えて、カチンッ、とジッポの蓋を閉める。よくあるルーティン。九条夏樹を“黒龍11代目副総長”として出るための切り替えの合図。それを聞いて、大寿はドラケンに、安全な場所まで送っておく、と佐野エマを担いでその場を離れた。

    「俺はね、卑怯な手ェ使うやつが大っ嫌いなんだわ」

    そう言葉を吐き連ねながら、ジィィィィ、とゆっくりダブルジップの下止めにあるスライダーを引き上げ、エレメントの音を鳴らす。かち、とスライダー同士が打ち合い、動きがとまったのを理解して、腕を通していた袖を脱いだ。

    「ちっ、だりぃ…」
    「まぁ、そう言うなよ。こんな所で俺と出会ったことに感謝しな」

    バサッと特服に、空気を入れ、悪態ついた半間に、ニヤリと口角を上げてそう言葉を吐いた九条に、半間は、あ?と声を上げた。

    「それではしっかり自己紹介をしようか。俺は黒龍11代目副総長、九条夏樹。黒龍の腹心、海底に潜む魚とは、正しく俺の事。雨の日にゃぁ龍の逆鱗が落ちるって知らない脳天気なお前さんに一つだけ問わせてもらう」

    負ける準備は出来てるかい?
    きゅうっ、と目を細めてそう尋ねた九条のその姿をみて、誰もが息を飲んだ。


    九条夏樹(♂)
    黒龍11代目副総長
    暇つぶしに観戦していたら卑怯なことしようとしていたので声を上げたら副総長になっていた。機嫌が悪いと口も悪くなる。
    現在では大寿くんに全幅の信頼を寄せているが、最初、彼を自身の傍付きにしたのはただの嫌がらせ。
    人より強いと自負しているし、マイキー相手でも引き分けぐらいには持ち込めると自負している分、例え対立している総長と言われようとも尊敬を見せない。
    巻き込まれにいく頻度と、巻き込まれる頻度は五分五分。

    過去にしか出番のなかった花垣武道(♂)
    黒龍11代目総長
    自分の家族に手を挙げている男を見つけて、闘っていたら後に引けなくなった被害者。昔は怖がっていた夏樹の戦闘スタイルも、今では呑気に静観できるまでに成長。いついかなる時でもお前の背後は俺に任せとけと言わしめる九条の強さに、ふとした瞬間遠い目をする。

    柴大寿(♂)
    九条夏樹の傍付き
    同じ特服を着て、傘がない日の雨が降れば自分の特服をマントに変更して夏樹を中に入れるぐらいには好ましく思っている。
    過去、あの場で夏樹を手放せば、不良の界隈で厄介な存在になるといち早く理解し、無理やり副総長としての座につかせた人。
    八つ当たりでボコられたけれど、自分が井の中の蛙であると知ることが出来たので、たまに九条と手合わせしている。
    雨の日の九条を見るのが好きだが今回は離脱。残念である。

    ココとイヌピー
    花垣武道の傍付き
    次回あたりにかけたらいいな。
    この2人は武道のあまりの弱さにハラハラしつつも、その諦めの悪さに感嘆の声を上げ、夏樹がフラフラしているぶん武道の傍にいる。本当に必要な時は夏樹がそばに居るので特に気にしていないが、武道も九条もココにお金は使わせないし、イヌピーの愛用の武器(鉄パイプ)を勝手に押収して平和に!平和に話し合いましょう!と言う花垣を支援する九条にしょんぼりする日常が週に9回は繰り広げられる。

    このお話でえっち♡なのは、九条の太ももに黒龍のタトゥーが入っていること、ココくんは舌に、イヌピーは尾骨に入れている。事ですかね。(服を脱いでから見れる場所って最高だと思う。)



    「海底の魚ッ!?」

    そう悲鳴のような声が聞こえ、半間はだからなんだという顔をした。ゆるりと笑って中指立てて舌をだして挑発をする九条に苛立ちを覚えない訳では無い。訳では無いが、ゾワゾワと背筋が泡立つ。知りたくない情報だと言うように、聞きたくない事だったと言うように身体が反応する。

    何時だ。いつ、彼のことを聞いた?

    目の前の、揺らめくマントのような軍服。そうだ、あの時。夜の歌舞伎町でみた、蒼のバンカラマント…っ!

    「オぇっ…」

    ビシャっ、と胃酸ごと吐き出し、ガタガタと震える半間に、全員が走り出そうとした動きを止めた。ヒューッ、ヒューッ、と喉の奥が焼けただれ、息がしづらいそんな中で、九条はゆっくりと口角を上げて半間を見下ろした。

    「んぁ?俺のこと知ってる感じ?大丈夫ー?」
    「おまっ、ぇっ…!」
    「んははっ!そんなに拒否反応出るのにお前、良く俺に気づかなかったねぇ!」

    嫌な記憶蘇らせちゃったねぇ。ゆっくりとそう笑って蹲る半間に歩み寄って片膝をつけて、その震える背中に手を置いて笑う。

    「うーん、見覚えないんだよなぁ。その反応を見ると“海から逃げた”人間だよね?」

    それなら今度は逃げないでね♡そう言ってゆっくりと笑って見せたその顔を見て半間は過去に面白そうだと近づいた彼の猟奇的な姿を思い出す。口の中に入る他人の血の味が、彼の顔を見るだけで思い出す。良く、生きていたと思う。自分が、どれほど生温い人間かを見せつけられた。変わらないあの笑い方。人を嬲りながらも響かせるあの笑い声。その声色が恐ろしくなったのは、いつ頃だったか。ひしめく人間共の顔を原型が留めないほどに痛めつけたあの時か、それとも愚連隊に囲まれても尚、その身体に一切の傷を付けずに倒したあの時か。分からない。分からないが、一瞬にして怖くなったのだ。深海に引き連れていかれる感覚に、自分が自分では無くなるような、そんな感覚に。あの時よりも長くなった銀髪の毛先が、首を傾けたせいで地面につく。されど、そんなものはどうでもいいと態度に出しながら、ゆったりと笑うその顔に、嫌悪が浮かんだ。胃の中の全てを吐き出したくなる。まるで船酔いだ。目の前がグルグルと回って、気持ち悪い。

    「バケモンがァ…」
    「酷いなぁ、多分俺と愛し合った仲でしょ?」
    「気持ち悪ィこと言うんじゃねぇよ♡テメェとはあの時終ってンだろォがッ…!」
    「んははっ!記憶にねぇ〜」

    バシッ!と背中に添えられた九条の手を半間は振り払う。関わり合いたくなかった。どれほどの歳月を過ごそうと、一生と言うほどに、彼とはもう関わりたくなかった。だから身を潜めた。あの陽気な笑い声が聞こえなくなるまで、ひっそりと。死神すら嫌悪させる海神(ワタツミ)のような存在。掴みどころのない、ひかりも闇さえも飲み込むその存在。

    「なっち、何したの」
    「さぁ?海から逃げた人間の精神状態に気を使ってやるほど、俺は優しくないからなぁ…」

    ふふ、と小さく笑ったその顔を見ながらマイキー達は固唾を飲む。綺麗に目を細めて笑うその顔に、毒を孕ませた水をがぶ飲みさせられているかのようなそんな不快さが残る気分。からかうことに飽きたのか、その半間の肩を2度叩き、こちらへと帰ってくる九条が緩やかに笑ってほら、と声を上げる。

    「マイキーくん、始まりは君の号令が合図だろう?」
    「あー…うん」

    まずったな、とマイキーは思った。いつも見ていた九条の顔と、あの男に見せた九条の顔。どちらが本当か、なんて分かりきっている。ギラギラと獰猛な顔で笑って、海で溺れる人間を逃がさないようにするような、あの顔。

    黒龍の腹心の中で、1番厄介で、1番扱いが難しい男。魚を関する、存在。その存在の強さを、今ここで理解するのか、とそう考えた時、不思議と好奇心が勝るのは、彼がその特異な人間だからだろうか。

    「ははっ…」
    「祭りの日に乱戦。血が踊るなぁ、マイキー」

    はっ、と浅い息を吐いて隣に立ったドラケンを見ながら、マイキーは“東卍”の総長としての顔を見せる。自分の隊員達を溺れさせる訳にはいかない。花垣武道がどうやって彼を手懐けたのか。そんなこと、今はどうでもいいし、後でわかること、なら今だけは、“共闘者”として、東卍と対等に扱ってやらなければ。そう思考を置いて、マイキーはくっ、と口角を上げた。

    「行くぞお前らァ!!!」

    ッシァァア!!!
    その怒声をかき消すように、ふらつきながらも殺れ!お前ら!!と立ち上がりながら半間は声を上げる。その両者を、魚は静かに見守った。

    九条夏樹、という存在は、この不良界隈において両極端な存在である。花垣武道の前で見せる、年相応な顔と、喧嘩の際に見せる、獰猛さ溢れる魚の顔。彼は彼の価値観の中で生きている。まるで海に生きる魚のように、自由に。

    「んはは…っ!マイキーくん、意外と分かってんじゃん」

    恐怖を抱いた時点で、海というのは猛威を振るう。どれほど楽しい場所であったとしても、その猛威は無差別に人にのしかかるし、それを受け止め、理解しきれない限り、あっさりとその濁流に飲み込まれて死んでいく。

    今回声を上げたのは、それを無意識であったとしても受け入れてくれるかどうかを見たかったのだが…。

    「及第点。じょうじょうだ」

    そう言葉を吐いて、雨で気分のいい自分の心のまま、目の前の愛美愛主の特服を着た人間をあっさりと地に沈めて、九条は歓喜纏う自身の心のままに、走り出した。

    目の前の敵に集中出来る頻度など、ほぼ無いに等しい。横から邪魔は入るし、自分の隊員のことを気にとめないといけない。それは同じ立場である隊長クラスの人間でも、下っ端の奴らでもそうだ。

    仲間を守って、自分の強さを見せつける闘いにおいて、意識は余計目の前より周りへと向けないといけない。

    されど、ふ、とこの場にいる東卍の人間が思う。今日は、戦いやすいな、と。相手は高校生。なのに自分たちは後ろを気にすることなく、目の前の人間にしか意識を送っていない。

    その不思議な感覚にいち早く気づいたのは、1番隊の特攻を務める松野だった。ふと、意識が目の前の敵を倒した瞬間散漫したと言っても過言ではない。その隙とも呼べる瞬間に、背後から叫び声を上げながら拳を振るおうとした愛美愛主の存在に反応が遅れたが、応戦しようとして振り返った時、パシャン、と魚の跳ねる音と共に、愛美愛主の人間が吹っ飛んだ。

    「んあ?奪っちゃった?」
    「いや、助かったっす」

    一撃受ける気でいたんで、と声を出してその質問に答えた松野に、なら良かったよ、と笑って消えて行くその存在に、は、と小さく笑った。

    抗争には、流れというものがある。相手が歳上であろうと、数が多かろうと、その流れをひっくり返すような、そんな空気。目の前の相手に集中する、という簡単なようで難しいその空気を作れる存在に、松野はあの正月に見た海を思い出した。
    寒空の下、静かに神聖な空気を保ちながら夢を見せ続ける、あの海を。冷たい温度を保つ水の中で優雅に泳ぐ、魚のような存在を。

    「ははっ…」

    負けられない闘いにおいて、これほどまでに人の邪魔をせず、思考を戻らせることなく動ける人間がどれほどいるだろうか。誰も気づくことの無い戯れに、松野は初めて、魚と呼ばれる九条にバジとは違う尊敬の思いを纏った。

    「(数が多いなぁ…)お、マイキーくんみっけ!」

    パシャッ、と水溜まりを踏みつけながら、喧騒蔓延る場所を泳ぐ。マイキーの背後から鉄パイプを振りかざそうとする男の頭部を蹴り飛ばし、彼の思考を前だけに向けさせる。キロ、と視線を全体に泳がせたその時、あの日、譲ることが出来ないと言われたキヨマサの姿を捉え、ゆっくりと声を落とした。

    「みーつけた」

    その瞬間、喧嘩に集中していた全員が、足元か這いずる怒気と殺気に背筋を泡立たせ、原因となる存在へと視線を向けた。

    初代の面影がある、と今の黒龍を知る人間はよく口にする。それは花垣武道が初代の佐野真一郎のような諦めの悪さを持っているからであり、そんな彼の隣には白豹と名を馳せていた今牛若狭と同じような戦闘スタイルを持つ九条、軍神と名高い明司武臣と同じく頭脳戦を得意とする九井一、やり方は違うが、鉄パイプを振りかざし、血の海をつくる事に定評のある乾青宗、その3人の存在が、花垣武道をより一層初代の再来と言わしめることになる。

    閑話休題

    ゆらり、動いたその白い生き物に、キヨマサは恐怖を抱いた。波に乗って襲いかかってくるその姿は、珍しいと言わしめる白いシャチの様で、思わず手に持っていたドスを振り払うように彼へと向けた。本来ならドラケンを刺すために使うはずのその武器を彼に向けてしまったけれど、それをいとも容易く避け、頭部を蹴り飛ばす九条に、キヨマサは、この場での負けを理解する。されど、容易く負けを認める訳にはいかなかった。自分の立場を全て奪った男に、絶対なまでの報復を誓ってここまで来ていたから。でも、そんな思いなど、海に生きる魚にとってどうでもいい話で。

    「キヨマサくんもーらい!」

    あはっ♡と肌を撫で付けるような声で発したその声に、蹴り飛ばされ、地面に倒れ伏したキヨマサは訳の分からぬ何かから逃げ出したかった。

    「タケに土産として君を献上したかったけどさ!」

    ゴッ、と鳩尾を蹴り付けられ、胃の中にある全てを吐き出した。

    「こんな時に紛れ込んで人を狙う思考をもってるって思ったらさァ!!」

    カパンッ。吐瀉物を吐き出す際に上げた上半身を狙ったかのように、顔面を蹴り飛ばされる。

    「なっちゃん怖くて怖くてタケにお前を引き渡せなァい」

    ふふ、と雨の飛沫を受けながら、綺麗に笑うその顔を見て、キヨマサは意識を飛ばしたかった。本気ではない。まるで遊んでいるかのように力を制御されているせいで、気絶したくてもできない。自分の強さを分かっていて、そして相手の強さも分かっている。これは、見せしめなんかじゃない。

    シャチが獲物を食す以外にも行う行為。
    “遊び殺し”
    狩りの練習だとよく言われる、相手をどうすれば倒せるかをよく知る為に行うそれが、今自分に降り注いでいる。

    死ぬ。一瞬でその思考を見せたキヨマサの体をいとも容易く蹴り飛ばし、くつくつと笑う九条の耳元に、おい、と深く響く声が届く。シンッ、と静まり返ったこの場所に、誰もが恐れを含ませた恐怖に染る空気の中、石垣のところで、白の特服を着た2人の男と、黒い特服を着た男の3人がここにいた。

    「なつ、帰るよ」
    「なぁに、タケ。今日は珍しく口出すね」
    「潜ってないにしても、雨の日にお前を抗争に出させる訳にはいかないでしょ」

    遊び半分で殺しかねないんだから
    はぁ、とそう言ってため息を吐いたあと、流れるように九条へと手を差し出す武道に、誰もが息をとめ、誰もが理解する。

    “花垣武道は、九条夏樹を制御できるのだ”と。

    「帰ってこい」
    「…はぁい」

    マイキーくん、悪ぃけど抜けんね。と軽く声を上げ、マントのような形へと変えていた特服を、彼らと同じ形へと戻す。

    一瞬の泳ぎに誰もが目を奪われ、思考を持っていかれた。それを知っているからこそ、ココは海に飲み込まれる連中しかいねぇのによく手ぇ出したな、と声を上げた。

    「んー、久しぶりに海で溺れて逃げたやつ見たからかなー」

    よっ、と石垣を跨いで、武道から伸ばされた手を握り、迎えに来てくれてありがとね、と声を出した九条に、武道はため息を吐いた。

    「それじゃぁ、俺らはこれで」
    「邪魔したな」
    「ばいばーい!」

    また遊んでね。そう言ってゆっくりと笑った九条と、その言葉に頭を抱える武道、困ったように遊びたいならどこか潰しに行くか?と尋ねる両隣の2人を見送って、やっと彼らは息の仕方を思い出したかのように、雨の音を聞いた。

    「夏樹」
    「んー?」
    「あまりボスを心配させんな」
    「ういっす」

    ちゃんと言うこと聞いて、潜んないようにしたんだけどなぁ、と困ったように言いながら、イヌピーが武道にさしていた傘を持つ役目を交代してもらう。

    「楽しかった?」
    「全然?やっぱり黒龍で抗争に出た方が楽しいかなー」

    今回はお手伝いみたいなもんだったしさ、と笑う彼を見て、武道はそっか、と声を出して九条を見る。水に濡れて輝く銀髪の毛先に着いた泥が、何故か気に入らないと思った。






    九条夏樹(♂)
    今回全く潜ることもなかったので泳ぐ必要すらなかった魚。
    武道が迎えに来てくれたのが嬉しい。この後入念なお風呂タイムが待ち構えている。

    花垣武道(♂)
    九条を迎えに来た黒龍の総長。
    珍しく潜らずにすんでいる魚をちょっとだけ見ていたけれど、キヨマサを嬲り殺そうとしているのをいち早く察知。
    遊びで殺しちゃダメでしょ!っていう変な論点は誰も気づかない。
    この後九条と一緒に入念なお風呂タイムが待ち構えている。

    ココ&イヌピー
    初登場。副ボスが珍しく雨でも潜らずに遊んでいるのを見て、相手チーム可哀想だなぁ、ぐらいしか思っていない。
    イヌピーは武道の、ココは夏樹を入念に洗う。理由は定かではないけれど、武道はとばっちりだし九条は他のチームの匂いがするという理由。
    4人で入っても広々としたお風呂のあるホテルは最高だと思う。

    大寿くん
    今回出番がなかったけれど、ホテルに呼び出されて最終的に4人と風呂に入る大男。
    無事に佐野エマを安全なところに送り届けて見に行ったらいなくなってたし、久しぶりに弟たちの家に行こうとしたら呼び出された苦労人。風呂上がりに2人にボディバター塗る役目がある。

    前回タトゥーの場所で着地の行き場をなくした方へ。このお話にセッ♡はあります。


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    h‘|ッЛ

    PAST風間トオルがデレないと出れない部屋

    ⚠️アテンション
    ・未来パロ(17歳、高2)
    ・しん風
    ・中学から付き合ってるしん風
    ・以前高1の頃○○しないと出れない部屋にて初体験は終えている。(いつか書くし描く)
    ・部屋は意志を持ってます
    ・部屋目線メイン
    ・ほぼ会話文

    ・過去にTwitterにて投稿済のもの+α
    『風間トオルがデレないと出れない部屋』

    kz「...」
    sn「...oh......寒っ...」
    kz「...お前、ダジャレって思ったろ...」
    sn「ヤレヤレ...ほんとセンスの塊もないですなぁ」
    kz「それを言うなら、センスの欠片もない、だろ!」
    sn「そーともゆーハウアーユ〜」
    kz「はぁ...前の部屋は最悪な課題だったけど、今回のは簡単だな、さっさと出よう...」

    sn「.........え???;」

    kz「なんだよその目は(睨✧︎)」

    sn「風間くんがデレるなんて、ベンチがひっくり返ってもありえないゾ...」
    kz「それを言うなら、天地がひっくり返ってもありえない!...って、そんなわけないだろ!!ボクだってな!やればできるんだよ!」

    sn「えぇ...;」

    kz「(ボクがどれだけアニメで知識を得てると思ってんだ...(ボソッ))」
    kz「...セリフ考える。そこにベッドがあるし座って待ってろよ...、ん?ベッド?」
    sn「ホウホウ、やることはひとつですな」
    kz「やらない」
    sn「オラ何とまでは言ってないゾ?」
    kz「やらない」
    sn「そう言わず〜」
    kz「やら 2442