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    にゃんもっく

    @nyanmock_tsjml

    時折思いついた時に何かをお出しする中高年。

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    にゃんもっく

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    #夏休みヒーローホラー創作企画   
    淡水魚様(@awaisakana)の発案企画に便乗させていただいた第二弾です。
    あまり怖く無くて申し訳ない。
    rtくんの危機を人知れず救ったttくんうっすら残機ちゃんを添えて

    影鰐決して忘れてはいけない後悔が有る。
    あれは月が綺麗な夜だった。



    宇佐美リトはその日、港湾付近でヒーローとしての任務にあたっていた。
    コンテナ船の積み荷に、KOAZAKA-Cがびっくり箱を混ぜて、積み荷を降ろす業者を驚かせているらしい。
    業者がびっくり箱に驚いて手を滑らせて怪我をしないように、積み荷が破損しないように、びっくり箱を探して見つけて回収する。単純かつ時間勝負の任務である。
    コンテナが積み上げられて迷路のようになったエリアの中を駆け回り、全部に入っているわけでは無いがそれでも何人ものヒーロー達が協力しないと一晩では終わらないであろう量のびっくり箱を発見し、そして真夜中近くにようやく全部のコンテナのチェックを完了した。
    「リトくん、お疲れ~」
    長時間動き回って流石に疲れを自覚し始めた頃に、馴染みの深い声が背中にかけられる。
    振り向くと、回収して来たらしい箱をいくつかまとめて両脇に抱えたヒーローが一人、猫科を思わせる八重歯を覗かせてこちらに笑いかけていた。
    「よぉテツ、お疲れ」
    隣に並ぶように近寄ってきた佐伯イッテツに挨拶を返し、抱えていたびっくり箱を半分受け取ると、二人で回収担当者の元へと向かう。
    もう作業はほとんど終わりなのがわかっていたので、歩きながらお互いに、何箱発見したか言い合いながら歩いていた。
    話しているうちに、月の無い暗い夜では無くてまだ良かったという話になる。
    「ライト照らしながらだと片手ふさがるから、その分まだ今日は楽だったよな」
    「そうかな?」
    明るい分、楽だったと話すリトに、イッテツは余り同意してくれなかった。
    そう思わないか聞くと、笑顔を模したゴーグルの下の目がわずかに細められる。
    「言うだろ?月が綺麗すぎる夜は、色々と余計な物が出て来るって、例えば…」
    言葉を中途半端に区切りながら、イッテツはすぐそばに見える夜の海面を指さした。
    指の動きを素直に目で追いかけたリトは、海面に奇妙な物を見つける。
    「なんだ、あれ?」
    それは海面に映る魚の影のようだったが、やけに平面的だった。
    横から見たイラストの魚のようなシルエットが、海面を動いている。
    「あれは【かげわに】だよ」
    「わに?」
    説明された名前に違和感が有って、なにげなく海面側に近寄ってしまった。
    海面を動くシルエットは、ワニというよりかはむしろ
    「サメっぽくね?」
    そう思って、本当に何も考えずに覗き込もうとして
    「危ない!」
    次の瞬間、自分よりも一回り細身のはずの手が、リトの襟首を後ろから掴んで引き倒した。
    「ぐぁ!!?」
    受け身をうまく取れず背中がコンクリートの地面にぶつかって、衝撃で一瞬息が止まる。
    「大丈夫!?」
    何をするんだと文句を言おうと目を開けると、予想よりも真剣な顔の仲間が其処に見えた。
    焦っているように見える。
    「痛ぇ……」
    背中をさすりながら上半身を起こすと、酷く焦っている様子のイッテツは、咎めるような眼をこちらに向けていた。
    「あれが海面に居る時に、海を覗き込んじゃ駄目だろ!影は大丈夫?食べられてない?」
    「は?影を食べるって、お前何‐」
    何を言っているんだ、と言いかけて視線を地面に向けて、ある事に気付く。
    月明かりで照らされているイッテツの足元に、影が差している。
    その影が不自然に、肩口から横腹のあたりが抉れたように欠けているのが見えた。
    「テツ、おまえ……影」
    口にしてから、イッテツが影を食べられていないか自分に聞いてきた声がフラッシュバックする。
    食べられたのか?
    あの、海面に映るシルエットは、人の影を食べるのか?
    食べられたら、どうなってしまうんだ?
    リトは、自分が何かとんでもないミスを犯してしまった可能性に気付き、それから恐る恐る、まだこちらを覗き込んでいるイッテツの顔を見返してみる。
    月が明るすぎるせいで、お互いの表情も良く見えてしまう。
    イッテツはこちらの様子に気付いたのか、明るい口調で
    「大丈夫、大丈夫だよ。俺の残機はまだ残ってるから」
    と言いながら、ゆっくり体が傾いていって、地面に倒れ込んだ。






    イッテツはそのまま数日高熱を出して寝込んだが、熱が下がってからは別段変わった様子は無い。
    任務の前の夜も配信や作業で寝てなかったからね、と笑っていたが、リトは絶対にそれだけでは無い確信が有った。
    これは自分のミスだ。
    誰も認めてはくれないが、あの夜、確かに一度イッテツは自分を庇って命の危機を迎えた。
    残機はまだ残っていると言っていたが、それはつまり彼が時折口から吐き出す紫煙から作るあの猫のような何かを使わないといけない事態があの瞬間起きていたと言う事なのでは無いか。
    その証拠に、あの夜以来、普段は最大で9匹出てくるあの猫が、今は8匹しか出てこない。
    「大丈夫だよリトくん」
    イッテツは笑う。
    「そのうち、また9匹目も作れるようになるから、気にしないでよ」
    悪いと思うなら今度カツ丼でもおごってよと言う彼に、リトは笑う事がついぞできなかった。



    ※解説
    影鰐は、甲信越地方に伝わる昔話に登場する妖怪のような何かです。
    海に映る人の影を喰らい、影を喰らわれた人は命を奪われてしまうのだとか。
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