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    Hyiot_kbuch

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    2/16 門南

    #門南
    menan

    2/16「入院しとる間、部屋の管理を頼んでいいか?」
     年を跨いだ島での賭けの後、門倉は自身の怪我の治療のついでに見舞った南方にそう頼まれたのだった。

    ◇◆◇

    「暇なときに換気とごみ捨てだけ頼む。あとは好きに使ってもええけぇ」
     との南方の言葉に、門倉は早速受け取った合鍵だけを持って南方の住むマンションの前へ来ていた。
     警視庁の地下で再会した後、幾度も遊びに来た場所ではあるが、家主不在の中来たことはないため少し新鮮だ。エントランスに並ぶ郵便受けから南方の部屋の番号を探す。
     直ぐに見つけたそこは既に島での賭けでひと月近く空けていただけに出前のチラシやらで溢れていた。
    「右に2、左に1、右に6……」
     教えて貰った通りにダイヤルを回し郵便受けを開ける。明らかに不要そうなチラシ類を近くに設置されていたゴミ箱へと捨て、公共料金の金額のお知らせやダイレクトメールのような個人情報があるようなものだけ残す。
     次々と分類して郵便受けを空にしていけば、一番底から宛先も何も書いていない白い封筒がひとつ出てきた。
     裏返してみれば隅に書かれた南方恭次との名前。糊付けされていない封を開ければ、中から出てきたのはここに連絡して欲しいと実家の連絡先が書かれた紙といくらかの紙幣だった。
    「……用意周到なことで」
     表でも裏でもいつ死んでもおかしくないと考えたらしい南方は強制退去で片付けられた時に備えてこんなものを用意したのだろう。紙幣はその謝礼のつもりのようだ。
     門倉はそこに自分の連絡先がないことに何となく苛立ちを覚え、持っていたペンでいくつか持っている携帯の番号をひとつ書き加える。連絡先が増える分、謝礼となる紙幣を追加するのも忘れずにだ。
     そうして空になった郵便受けの中にその封筒を戻すと、捨てずに残した紙束を片手に南方の住む部屋へと向かった。

    「邪魔するよー」
     いつも通りに声をかけ、いつもと違い返事のない部屋へと入る。
     久しぶりの南方の部屋は前に門倉が来た時と変わらず片付いていた。空けていた割に埃が少ないのは部屋を走るロボット掃除機のおかげだろう。
     持ってきた紙束をダイニングテーブルの上に置き、とりあえず換気するかと窓を開ける。
     稼ぎの割に低い景色は、非常事態にエレベーターが止まっても直ぐに出れるようにするためと聞いたのは最初に来た時だった。門倉が非常事態も想定してるとは流石は歯車だと笑えば、拗ねたようにその歯車が回らんと大変だろうがと言い返されたのを覚えている。

     部屋を周りロボット掃除機の集めたゴミを捨て、窓を開けて回る。その過程でいつもであれば入ることのない書斎へと門倉は足を踏み入れた。
     こちらも綺麗に片付いており、ファイリングされた資料がいくつか机の上に置いてある。
     手慰みにめくってみると、先の賭けで専属についた男や使われた島の資料だ。短い時間の中きちんと読み込んだらしく、いくつかの線と南方の字でのメモが残っている。
    「まじめやのぉ」
     南方の入院の原因となった男の写真を指で弾き閉じると、また机の上に戻す。もういらないものかもしれないが勝手に処分するのは良くないだろう。
     普段入らない書斎を直ぐに出るのも忍びなく、今度は本棚の方へと足を向けた。一番目に付く場所に六法全書が鎮座しているのは流石は法学部卒というか警視正と言うべきか。
     その分厚い本の背表紙を指で撫でればまだ後ろに空間があったのか、本が動くと同時にカタンと音がした。棚の後ろに当たったにしては軽い音。なにか隠しているに違いないと勘が働いた門倉はにんまりと笑みを浮かべ、重い本を抜き取る。
     予想通り本の奥から手のひらに乗るほどの小さな箱が出てきた。手に取ってみると予想していたよりも遥かに軽い。隠すにしては取り出しやすいこの場所に一体何を入れた箱なのだと、門倉は好奇心のままに開く。

     中に入っていたものは、「拾陸號 門倉」と刺繍の入ったハンカチただ一つであった。

    ◇◆◇

    「好きにしてええ言うたんは、わしじゃけども」
     見舞いに来て家の様子を話すついでにハンカチを見つけた事を言うと、南方は渋い顔をしていた。
    「すまんのぉ、ワシのあげたんしまっとるとは思わんかったけぇ」
     口では一応謝っているものの、悪いとは微塵も思っていない。からかうような笑みを浮かべた門倉に当然気付いている南方はあからさまに眉を寄せる。
    「勝手に家捜しすな」
    「そがいはぶてんでも」
    「はぶてとらん」
     そうは言いながらも明らかに拗ねた様子の南方に門倉はくつくつと喉を鳴らした。ひとしきり笑うと、そっぽを向く南方へと声を掛ける。
    「ハンカチ、大切にしてくれとったんやな」
    「……拳以外でおどれから認められて貰うた初めてのもんやけ」
     返ってきた言葉は門倉が予想していたのとは違っていたが嬉しいものだった。うっすらと耳が赤く色付いていることから照れているのだろう。堪らず門倉は茶化すように南方の頭を撫で回す。
    「恭次くんは可愛ええとこもあるんやね」
    「誰が可愛ええって」
    「可愛ええ可愛ええ」
    「撫でんなって……ッ!」
     門倉の腕を振り払おうと動いた南方の動きが止まった。どうやら傷がまだ痛むらしい。
    「怪我人は大人しく撫でられとれ」
     門倉の言葉に悔しそうに黙り込んだ南方にからかい過ぎたかと思うも撫でる手は止めない。暫く整髪料のない毛の感触を楽しんでいると南方が口を開く。
    「……今は拾陸じゃけども絶対追いつくけぇな」
     静かに、それでいて闘志に溢れた言葉に門倉は手を止めた。この男のこういう所が好きなのだ、と思わず口角が上がる。
    「ワシはそのうち零とるけぇ追いつかせんよ」
     最後にくしゃりとひと撫ですると門倉は手を下ろした。散々好きにしやがってと視線で不満を訴えてくる南方を無視すると病室を後にする。
     何となくであるが自分が零をとった時の隣には南方が居るのだろうなとの予感に、門倉は上機嫌で帰路についた。
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