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    Hyiot_kbuch

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    門南。ポメガバーズです。

    #門南
    menan

    愛犬の自覚 愛犬の日。南方がそれを目にしたのは朝のニュース番組でのことだった。今日は五月十三日。語呂合わせで犬に関係あるのかと首を傾げていたところ、由来がキャスターの口から語られる。なんでも犬の雑誌を刊行していた会社のイベントが元らしい。画面に映る可愛らしい犬の写真に思わず口元が緩む。

     南方恭次はポメガである。
     ポメガとはなにか。極限まで疲労が溜まるとポメラニアンになってしまう人類のことだ。人口の一割程度がポメガだと言われるこの世界。その一割に属するのが南方である。
     そして、自分がポメガということもあって犬派でもある。ニュース番組は愛犬の日とのことで犬特集が組まれてたようで、今度は犬の動画が流れている。
     人間の手に撫でられて気持ちよさそうに目を細めている犬。そんな犬の様子に撫でたいという気持ちよりも撫でられたいという気持ちが先に来てしまう。存分に甘やかされ撫でられる心地よさを知ってしまうと人間側より犬側に共感してしまうのもしかたないだろう。
     そんな欲を抱いてしまった南方は形式的な飼い主である門倉との予定を思い出す。確か三日後だったはずだ。念のため手帳を開いてそちらでも確認する。三日後だ。だけどもなんとなく、本当になんとなくポメの側に寄ってしまった心境はあの優しい大きな手を求めている。
     南方は少し悩むと門倉の個人の携帯へとメッセージを入れた。
     ”突然だが今夜お願いしていいか”
     門倉も忙しいのはわかってはいるため、駄目で元々だ。しかし、朝食を終え、支度を終えても返事は来ない。この時間だから起きているか怪しいし、仕事終わりまでに返事がくれば儲けものだと自分に言い聞かせ、南方は車のキーを手に取ると登庁すべく家を出た。

     南方の予想通り門倉は南方のメッセージが届いた時間はまだ夢の中だった。日もだいぶ高く昇り、昼も近くなった頃に目を覚ます。少々どころではなくグレーな仕事をしている門倉には勤務時間なんぞあってないようなものだ。一度長期の入院をしたこともあり、門倉自身が動かなければいけないものはそんなにないように組織を作っている。だからこそ立会人なんていう、いつ呼ばれるかわからないような事もできるわけなのだが。
     そんな自分とは違って真っ当な表の職についている飼い犬からメッセージが来ていることに目覚めてすぐ気付いた。門倉は今日の予定を脳内でさらって時間はありそうだなと判断する。そうしてすぐにメッセージを返信すると、最近甘えることを覚えだした可愛い愛犬を思い浮かべ一人笑った。

     門倉からメッセージの返信が来ていたことに気付いたのは昼の休憩時間のことだった。会議が長引いたこともあり昼というには少々遅い休憩ではあるが、庁内の食堂でカレーを食べながらメッセージを開く。
     ”20時以降なら”
     それだけの記載ではあるが承諾するものだったことに南方はつい安堵の息を漏らした。すぐにその様子を見られてなかったか周りをそっと確認する。遅い休憩だったこともあり誰にも気付かれてはいないようだ。それに今度は内心で安堵しながら門倉へ返事を送る。
     ”じゃあ21時くらいにこちらの家で”
     今度は門倉も暇な時間だったようですぐに返事がきた。
     ”了解”
     たった二文字のメッセージ。南方は今自分が犬だったらちぎれんばかりに尻尾を振っているだろうななんて口元を緩める。しかし、今は人間の南方は気持ちを切り替える様に携帯を閉じると、目の前のカレーを胃に収める方へ意識を向けた。この後もまた面倒な会議が控えている。そのことを少しだけ思い出すとやはり今日頼んでおいてよかったななんて自画自賛した。

     仕事も終え南方が帰宅したのは約束の二十一時ギリギリだった。家の前までくると明かりがついている。どうやら門倉がもう来ているらしい。門倉には今の関係となってから合鍵を渡している。南方がポメラニアンになってしまうと鍵を開けられないからだ。実際に門倉が来るまで基本的には待っているのだが、我慢できなかったことも一度や二度でない。
     玄関を開けて家へ入ると自分のものではない革靴がひとつ。豪快な見た目に似合わずきちんと端にそろえられたそれを横目にリビングへと向かうと、ソファーでくつろいでいる門倉の姿が目に入った。南方が帰宅したことに気付いた門倉が声を掛けてくる。
    「おかえり、遅かったね」
    「おん、ただいま」
     南方が言葉を返すと門倉は気になっていたことを尋ねてきた。
    「急に呼び出してそんな疲れることあったん?」
    「面倒な会議が多くてな」
     その問いに南方は素直に今日の会議のことを話す。多少の情報を漏洩させるのは自分を労わってくれる門倉への礼のようなものだ。関連情報が手に入ったら回してほしいという打算もある。
    「それに…」
    「それに?」
     愛犬の日だからと言おうとしてなんとなく気恥ずかしくなる。一度言い淀んだ南方に門倉は首を傾げた。はよいえと促すような視線の方に耐えかね、おとなしく白状する。
    「今日は愛犬の日らしいけぇ」
     その言葉を聞いた門倉はどこか嬉しそうな、満足そうな表情を浮かべ南方を呼ぶ。南方が呼ばれるがままソファーへと座ると、まだ人であるその頭を雑に撫でた。
    「おどれちゃんとワシの犬の自覚あったんか」
    「っ......!一応はな。一応だけどな」
    「一応……ね。まぁ自覚ある分ええか」
     門倉の犬だというのは認めたくはないが、ポメラニアンとなった自分が世話になっている自覚はある。はじめこそ利用してやる気しかなかったこの関係が、幾度も二人きりの時間を過ごすうちにその心地よさに絆されてしまったのだ。それを南方は自身の矜持もあって気付かないふりをしているのだけれども。
    「ところで飯は済ませたん?」
    「まぁだ。先に愛犬甘やかしてから飲み行こ思うて」
     南方が話を反らすべく切り出した話題はすぐに門倉に軌道修正された。まだ犬になってもいないのに愛犬呼ばわりとはと不服そうな南方の視線にも門倉は堪えた様子もなく、ワックスで固められた髪を撫でまわしている。
    「で、まだ犬にならんの?」
     疲れてるんだろうと気遣うように言ってくる門倉の目の奥は愉しそうに笑っていた。そんな言葉に従うようなのは癪だが、これ以上言葉で門倉に勝てる見込みもないわけでそれならばいっそ、と南方はその身をふわふわとした犬の姿へと変えたのだった。

    「ようようなったか」
     ぱさりと布が落ちる音がして、服の中から這い出してきた毛玉を軽く撫でると門倉はその身を抱え上げ膝へと乗せた。通常のポメラニアンと比べて大きなその体ではあるが、門倉にとっては誤差のようなものだ。南方ももう慣れたもので門倉が膝に乗せてもされるがままにおとなしく座っている。だけども視線は素直なもので撫でるのを今か今かと待っているようだ。
     門倉はそんな可愛らしい視線に耐えかねてその頭へ手を伸ばした。途端、ぺたりと傾く耳はその手を迎え入れるようで思わず目元も緩む。その小さな頭を少し手荒に撫でまわせば、ぱたぱたと動く尻尾がふとももを叩いた。
    「ほんまワシの犬はかわええのぉ」
     門倉の言葉に不満げに南方が小さく唸る。その様もポメラニアンの姿では可愛らしいとしか言いようがなく、門倉はわしわしと胴の方まで撫でまわす。徐々に門倉のもの扱いされる不満よりも継続して与えられる手の感覚の気持ちよさが勝ってきたらしく、唸り声が小さくなってきた。座っていた南方が膝の上で伏せる。
     門倉がそのまま少しずつ脇腹の方へと手をやると、こっちを撫でろとばかりに腹をみせてきた。初めのうちこそここまで甘えるのをためらっていた南方だったが、今ではもう当然の様に腹は見せるしなんなら撫でられてそのまま眠る。そこまで気を許されていたことを嬉しくおもっていたところで門倉に飼われている自覚があるようなことを言ってきた訳で、門倉の機嫌がよくならないはずがない。
     そうして上機嫌で門倉が撫でるうちに今日もまた南方は心地よかったのか犬の姿のまま眠りについた。門倉は眠った南方が人の姿に戻るまでそっと膝の上の犬を撫で続けるのだった。

    「南方、おい、起きろ南方」
     心地よく眠っていた南方は門倉に揺り起こされた。また今日もいつの間にやら眠ってしまっていたらしい。いつも通り全裸に膝枕のような形で起こされ、どことなく気まずい。
    「はよ服着ろ、飲み行くぞ」
     門倉はもうすっかり慣れてしまったのかそんな南方を気にした様子もなくシャツを投げつけてきた。顔面でキャッチしたシャツに袖を通す。
    「別に起こさんでもほっぽって飲み行きゃあええのに」
     そう南方が門倉に文句を言えば、弐ィと笑って言い返してきた。
    「今日は愛犬の日やけぇ、こっちの姿でも労わってやろう思うて」
     戻ってまで犬扱いするなだとかいろいろ言いたいことはあるが、ワシの奢りじゃなんて機嫌よく笑う門倉に毒気を抜かれる。
    「ならしっかり労わってもらわんとな」
     門倉と同じように南方もニィと笑って返せば、顔を見合わせ今度は声を上げて笑う。そうして二人して近所にあるチェーン店の居酒屋に向かうべく、南方の家を後にしたのだった。
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