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    Hyiot_kbuch

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    Hyiot_kbuch

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    門南です。

    #門南
    menan

    貴方のいない十日間 節電のためにデスク回り以外の電気が消されたフロアに、明るく輝くパソコンの液晶画面。南方は無事解決した事件の後処理のため警視庁に残っていた。事後処理の書類の記載を終え、大きく腕を伸ばす。
    「……チッ」
     声の出しすぎで朝から少し枯れていた喉と、なすがままに取らされた体位のせいでまだ痛む節々につい舌打ちが零れた。幸い周りには誰も居なかったため聞かれてはいない。
     作成した書類を印刷し、プリンターまで取りに向かう。あとは押印して提出するだけだ。印刷を待つ間、南方は昨晩のことを思い出す。
     昨日は今処理をしている事件が解決したのもあって、部下と軽く一杯引っ掛けて帰ったのまではよかった。
     それで上機嫌で帰宅した家に待っていたのは、いかにも不機嫌ですといった様相の門倉。同棲しているというのに泊まり込みも同然で事件解決に勤しんでいたせいで、ここ一週間まともに顔も見せていなかった。そんなところに酔って帰って来たものだからそれはもう半ば襲われるように手加減なしで抱かれてしまったのだ。そもそも普段も南方は頑丈だからとあまり手加減はされないのだが。
     それでいて今日のこの有様だ。声の枯れは酒焼けだと誤魔化せたからよかったものの、自分が蹴落とした先輩に事件が解決したからといって浮かれすぎではなんて嫌味も言われた。
     だけど南方があえて後処理を請け負い残業をしているのは嫌味を言われたからではない。門倉が今夜、立会いがあるとかで夕方には出るとか言っていたのだ。うっかり早く帰って立会い前に会ってしまったら今の自分では八つ当たりしてしまいそうで、ただでさえ昨日損ねた門倉の機嫌をさらに悪くするのは南方の望むところではない。その程度のリスク管理ができてきたからこそ今の地位へとついたという自負もある。
     時計を確認し、提出先は居ない時間だから残作業は明日でいいと書類をデスクの引き出しにしまう。それに門倉が立会いだといっていた時間が過ぎていることも確認してパソコンを落とす。昨晩無茶させられた分、今夜はゆっくり寝るぞと決意を固め帰路へとついたのだった。



    「ただいま」
     南方は自宅へとつくと、玄関を開け誰もいない部屋に向かって声を掛けた。いないとわかっていてもつい言ってしまう程度には習慣となっている。
    「おかえり」
     返事が帰ってこないはずの部屋から声が聞こえた。この家にいる可能性があるのは自分以外だと一人しかいない。門倉だ。立会いに行っているはずのその人の声に南方はなによりも先に疑問が浮かんだ。すぐに足元を確認すると確かに門倉の靴は並んでいる。
     南方はその隣に自分の靴を申し訳程度に並べるとリビングへ足を進めた。声からして門倉がリビングにいることは分かっている。決して門倉に会いたい気分ではないのだがとため息をつくも、仕方ない。リビングを通らないと寝室や浴室へ行けない間取りなのだ。
     南方が意を決してリビングへの扉を開くと案の定ソファーに腰掛けた門倉がいた。今日の野球のハイライトを見ながら酒を飲んでいる。
     南方はそんな門倉を無視してすぐに立ち去ろうとした。だけどもほろ酔いで機嫌がよさそうな門倉は南方へと話しかけてくる。
    「遅かったね」
     決して話したい気分ではないのだが、今門倉の悪くない機嫌を損ねるのはまた面倒だ。
    「……立会いは?」
    「賭金が用意できんかったとかで流れたんじゃ」
     ちゃんとそれくらい用意しろと見知らぬ会員に苛立ちを覚える。南方は思わず舌打ちしそうになるのを堪え、門倉に背を向けた。
    「ほうか、じゃあわしは風呂入って寝るけぇ」
    「飯は?」
    「済ませてきた」
     嘘だ。門倉が寝たあとに食事を取るつもりだ。リビングから離脱しようとする南方の背中に声が掛けられる。
    「嘘はいけんよ。食べ物の匂いがせん」
    「……チッ」
     匂いが見えるだとかいう門倉の視界のことを忘れていたことに、今度こそ舌打ちが漏れてしまった。薄々気付かれてはいただろうが、その舌打ちで流石に南方が不機嫌だということが露呈してしまっただろう。
     南方はそのことにもう一度舌打ちすると、なにか言いたそうな門倉を無視し、その場を後にしたのだった。



     そんな南方を見送った門倉は僅かに眉を寄せると呟いた。
    「あいつ昨日のことまぁだ根にもっとんのか」
     確かに昨晩南方に無茶をさせた自覚はある。だけどもそれは一週間も自分を放置していたというのにほろ酔いで帰って来た南方が悪いのだ。事件のせいで忙しいとか立会いですれ違うのは許せるが、別の相手に時間を割いて飲んできたというのがなんとなく不快で仕方ない。
     リビングを去った南方は宣言通り風呂へと向かったらしく、シャワーの水音が聞こえてくる。門倉はその気配へと意識を向けながら、視線だけはテレビの方へ戻す。
     暫くするとシャワーの音が止まり、扉が開く音がした。その足音はこちらに向かう訳でもなく、寝室の方に向かった訳でもない。どうやら客間の方で眠るつもりらしい。
     それがどうしようもなく門倉には腹が立って、ソファーから立ち上がった。もちろん向かうは南方の元だ。廊下へと出ると浴室近くの客間から物音がする。やはり客間にいたかと門倉が扉を開くと、そこには先程露呈したからか不機嫌さを隠そうとしない南方がいた。
    「なんじゃ、用か」
     それでも用があるのであれば門倉と会話はする気はあるのか南方はこちらのほうへ問いを投げかけてきた。それに対して門倉は質問を返す。
    「用がないといかんのか?」
     南方はそれならば自分は話すことはないとばかりに門倉へ背を向けた。そのまま、来客用のベッドへと横になる。
    「今日は疲れとるけぇ」
    「は?」
     だからさっさと去れと言わんばかりの南方の態度に門倉の機嫌も地へと落ちた。ないがしろにされたように感じ、苛立ちを覚え門倉は南方を見下ろす。しかし南方はその視線をさえぎるように布団へと潜り込み無視を決め込んでいる。
     そんな南方に門倉は話にならんと盛大に舌打ちをひとつ残すと部屋を出た。ついつい扉に当たるように強く閉めてしまうのも仕方ない。
     苛立ちのままリビングへと戻り、ローテーブルの上に置いておいた煙草を一本取り出す。
     火をつけ煙を肺へと入れると先ほどまでの苛立ちがほんの少しだけマシになるが、先ほどのやり取りを思い出すとまたすぐに腹が立ってきた。思わず奥歯に力が入り、咥えたままの煙草のフィルターを噛みつぶす。
    「チッ……」
     ひしゃげたフィルターのせいで吸い辛くなった煙草は儘ならない現状のようだ。そんな現状の苛立ちをぶつけるように灰皿に煙草を押し付け、火を消した。



     結局あのあと、南方は本当に眠ってしまったようでリビングにいた門倉の元へは現れなかった。南方が飯を食べに来るかもしれないと思った門倉が待っていたにも関わらずだ。いや、待っていたからこそ現れなかったのかもしれないのだが。
     ソファーで微睡むように一夜を明かしてしまったせいで痛む節々を伸ばしながら、門倉は時計を確認する。時刻は朝五時半、起きるには少々どころではなく早い時間だ。だけどもここで寝室へと二度寝しにいけば今日はもう南方とは会えない予感がしてリビングへと居座ることにした。部屋の構造上、登庁するのであれば南方はここを避けては通れない。
     一晩経って感情がフラットな状態の今、昨夜の南方は機嫌が悪いからこそ門倉を避けていたことがわかる。南方はそういった自己の制御が上手い男なのだ。門倉とて感情の制御はできる方なのだが、南方相手では甘えが出るのかなかなかに上手くいかない。
     きっとそういうところに南方が腹を立てていたのであろうことは門倉もわかっていた。しかし、そもそも自分を放って置いた南方が悪いという思いもやはりあって、先に謝罪するかと言われるとそんな気にはなれない。
     普段喧嘩したときはどうしていただろうかと門倉は思い出す。思えば謝罪してくるのはいつも南方の方からだ。だから今回もそうなるだろうなと甘い期待が脳裏に過った。そう考えた途端に睡魔が襲って来る。
     そんな楽観的な考えとそれに安心したことでやってきた眠気で頭が回らない門倉は、先程の予感も、リビングへ居座っていた理由もわすれて寝室へと向かった。部屋に入るや否や誰もいなかったせいで冷たいままのキングサイズのベッドへと倒れこむ。
     そうして門倉はすっかり寝入ってしまうのであった。



    「……ー、寝過ごした」
     門倉が目を覚ましたのは日も高く昇った頃であった。当然、南方はとっくに家を出た後であ る。そもそもどうして寝室に来てしまったのかと寝惚けていたとしか思えない今朝の自身の行動に舌打ちするも、すぐに頭を切りかえて今日の予定を洗い出す。寝過ごしたとはいえ支障はないだろう。
     門倉の予想通り、特に予定には支障がなかった。立会いについては今日はよびたされない限り予定は無い。あるものは全て本職、そして夜のものだ。
    (これは余談だが、元より門倉の本職は夜の方が活動が多い。二人で暮らすようになってからは昼職である南方との時間を作るため、門倉は昼間に出来ることは昼間にやるようにしている。南方はそんなこと気付いてもいないだろう。勿論、門倉も気付かせるつもりはない。)
     そうなると特にすぐやることのない門倉はベッドへと突っ伏した。そして考えるのは南方のこと。
     結局、朝寝過ごしたせいで会えず終いだったということもあり、機嫌が治ったのかは分からない。いや、でも帰ってくる頃にはもう大丈夫だろう。アレは自己管理がしっかり出来る男だ。そもそも昨日のようなことの方が珍しい。
     そんな珍しいことだからこそ気にしてしまうのも仕方ないのだ。決して自分が悪いからだとは思っていない。ほんの少しくらいは門倉にも原因はあるかもしれないが。
     悶々とする気持ちを振り払うように、門倉はガシガシと頭を掻きむしるとベッドから起き上がった。
     門倉が謝ることはないが事件が解決したのだからいい酒くらい買ってやってもいいだろう。別に謝ることはないが。
     そう考えた門倉はこの時間には開いているだろう仕事で付き合いのある酒屋へと向かうため、のろのろと着替えるのだった。
     しかし、門倉が酒を買ったその日から南方はこの家に帰ってくることはなかった。



     南方が帰ってこなくなって早一週間。門倉は賭郎の本部ビルの喫煙所で何本目かも分からない煙草をふかしていた。
     帰ってこなくなってすぐ、門倉は南方へいつ帰ってくるのかとメールを入れたが返信はない。プライベートの携帯へ電話も幾度かしたが電源が切られているか圏外だという状況。
     可能性としては立会いで卍が貼られたあの島のような場所にいるのではないか。そう考えた門倉は何かしらの情報を求めて、普段用でもなければ来ることもない賭郎本部にここ五日程度通いつめている。
     しかし、賭けの情報は当事者と関係する立会人以外秘されてることが多く、情報収集は遅々として進まない。子飼いの部下たちには南方が出ていったからだということは知られたくはないので使えない。
     そんな上手くいかない苛立ちは、表面上は隠してはいるものの喫煙量に如実に現れていた。新たな煙草に火をつけようとした所で喫煙所の扉が開く。
    「なぁに恋人に逃げられたような顔してるの?」
     そこに居たのは最上だった。その言葉と獲物を見つけたかのように舌を舐めずる姿からして、こちらの事情は筒抜けらしい。
    「別に逃げられとらんわ」
    「でも連絡つかないんでしょ?」
     吐き捨てる様に答えた門倉の言葉もろくに聞いていないのか、食い気味に最上が言った。門倉はそこまで知っているのであれば取り繕う必要も無いと舌打ちを返す。
     その舌打ちが肯定だと受け取った最上は愉しそうに門倉の隣に座り、ポケットから煙草を取り出し火を要求してきた。仕方なく自分のライターで火をつけてやる。
    「……で、おどれはなんか知っとるんか」
    「私が知ってるのはここの喫煙所を占有している人がいるってことくらいかしら」
     背に腹はかえられぬと門倉が問かければ、最上はそう答えた。はぐらかすなと門倉がじっとりとした視線を送る。暫くの間、二人の間に沈黙が流れたあと観念したかのように最上は口を開いた。
    「……私だって他の立会人の賭けの情報なんて普通知る訳ないわ」
     その言葉を聞いて門倉は肩を落とした。賭郎内の噂話にも詳しい最上ですら知らないのであれば、門倉個人では分かる由もない。先程とは違う沈黙がこの場を支配する。
    「……帰ってくると思うか?」
     先に口を開いたのは門倉だった。柄にもないことを言っているということを自覚してはいるが、そう聞かずには居られなかった。
     その言葉に最上は意外だと驚いたような素振りこそ見せたものの馬鹿にすることなく答えてくれる。
    「さぁ?でも何か悪いことをしたのならちゃんと謝る事ね」
    「連絡つかんのにか」
    「つかないからこそよ」
     メールくらいなら送ってるでしょとの最上の言葉に門倉は一週間前に一度だけと返した。いつもと違い南方からの返事がなかったことでなんとなく送り辛くなっていたのだ。最上は門倉の答えに眉を寄せる。
    「なんかあってからじゃ遅いんだからちゃんと言葉にしなさいよ」
     立会人なんていつ死ぬか分からないんだからと続いた言葉に門倉は思わず息を飲んだ。確かに南方も自分の知らないところで死にかけていたことがある。
     黙り込んだ門倉を他所に最上は煙草の火を消すと立ち上がった。どうやら話はここまでらしい。ドアを閉める直前、最上がこちらを振り返る。
    「そうそう、あなたの恋人早くて三日後に帰国するらしいわよ」
     その言葉と隙間から見えた愉悦に歪んだ表情に門倉は自分が最上に弄ばれたのだとようやく気づいた。
    「やっぱり知っとるやないかあのアマ……!」
     門倉は苛立ちをおさめるため煙草に火をつける。最上の言葉を信じるのであれば南方は今賭けで海外にいるらしい。通りでプライベートの携帯に通じないわけだ。
     恐らくは現在海外にいると報知されている黒い方のお屋形様と行動を共にしているのだろう。そして、早くて三日後ということはまだ延びる可能性があるということだ。ようやく掴んだ手掛かりでも、それ以上のことが分からないのが歯痒い。
     門倉の推測通りお屋形様絡みであるのならば、白い方のお屋形様やお屋形様付きと呼ばれる者たちに聞けば分かるのだろう。だけど聞いたところで素直に答えてもらえないのは明白だ。むしろ南方と同棲していることがバレているだけに、なぜ知らないのかとプライベートを根掘り葉掘りと聞かれることは間違いない。
     門倉は自身のプライドと情報を天秤に掛け悩んだ結果、とりあえず三日は悶々としながら南方を待つ方を選んだ。そして最上に言われた通りにするのは癪だが、メールの作成に当たるのだった。



     待ちに待った、南方帰国の予定日。その日門倉は一日落ち着かない気分だった。それでもいつも通り立会いをこなし、本職の方も終えて、自宅への帰路へつく。
     本来であれば空港まで迎えに行きたい気持ちもあったが、如何せん時間だけでなく、どの空港につくのか、そして本当に今日帰ってくるのかすらわからない状況ではどうしようもなかった。早く会いたいとはやる気持ちと、まだ帰ってきていないかもしれないとの不安が門倉を板挟みにする。
     そうして門倉が自宅の前までつくと、玄関には電気がついていた。
    「……帰ったよ」
     鍵の開いていた扉を開き、一呼吸置いて声を掛けると、そこには一週間半ぶりの南方がいた。既にシャワーも浴びたのか部屋着で、玄関とリビングを繋ぐ廊下に立っている。
    「おー、おかえり」
     そう答える南方の機嫌は最後にみた不機嫌なものではなかったことに門倉はひどく安心した。一秒も惜しいとばかりに靴を脱ぎ捨て南方の方へと大股で近づく。そうして抱きしめると噛みつくように口付けた。会えなかった時間を埋めるように唇をむさぼる。
    「ン、……南方」
    「おん」
     その合間に門倉が名を呼べば返事が返ってきた。それがどうしようもなく嬉しく、首筋に頭を埋める。久しぶりに感じるその匂い。何か話そうと思っていたことを忘れ門倉はただただ名を呼ぶ。
    「南方」
    「なんじゃ」
    「南方」
    「どうした」
     律儀に返ってくる言葉。何度も名を呼び、存在を確認する。
    「南方……勝手におらんくなるな」 
     ようやく名前以外に出た言葉はどこか子供の駄々のような響きだった。
    「おん」
     そんな肯定の言葉と共に南方の手が門倉の頭へと触れた。そうして門倉の髪を梳くようにゆっくりと動く。その手の心地よさに門倉が落ち着きを取り戻す頃には、今度は己の醜態への羞恥で顔を上げることができなくなっていた。


    おまけ 事の裏側
    南方「警察の方で長期休暇取れそうなので時間がかかる賭けの立会いをしたい」
    斑目「いいよー。ちょうど海外で一週間くらいかかるのがあるからそれ行かない?」
    南方「行きます。門倉には暫く黙っててください」
    斑目「喧嘩でもした?」
    南方「恥ずかしながら」
    斑目「なら任せて」
    (五日後)
    斑目「門倉さん最近毎日本部来ててウケる」
    弥鱈「喫煙所占領されてるんですけど。アレ、どうにかなりませんか」
    斑目「嫌ならちゃんみだが南方さんのこと教えてあげればいいじゃん」
    弥鱈「そんなめんどくさいことしません」
    斑目「ならあと二日程度だし我慢して」
    (その二日後)
    斑目「南方さん帰国があと三日は遅れるって」
    弥鱈「うわぁ……」
    最上「なに?面白いことやってるの?……なるほどね。分かったわ、私が行くわ」
    弥鱈(絶対引っ掻き回す気だあの人)
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